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「僕ね、リーリアのお役にたてて嬉しいんだ」


大量の魔力を文化部に提供してくださったシャナル王子は、そう言ってお勉強に戻られた。


まだ幼いのに、頼りになる王子だ。

きっとご自身がおっしゃているように、あと10年もすれば素敵な男性にお育ちになるだろう。

彼に恋する少女は、きっとたくさんいるはずだ。

その時わたくしはお兄様の妻として、王子の伴侶のお世話をできればいいななどと、あまい未来を夢見てしまう。


王子をお見送りし、わたくしは当初の予定通り図書室へ向かった。

イプセン国について調べるためだ。


参考図書コーナーから持ってきた辞書や百科事典で、ざっくりと国について目を通す。

地理や歴史についてまとまった記事が載っていたが、教師に学んだ程度で知っていた情報ばかりだ。

ロロシュ王についてもわたくしが知っていたとおりの賢王としての記述しかみあたらなかった。

アリッサ王女に関しては、ロロシュ王の娘であることがさらりと書かれていただけだ。


いったん辞書類を片付け、各国の王族について記述されている書物を探す。

我が国とは交流があまりないとはいえ、イプセンは大国だ。

それなりに多くの本でイプセンの王族について書かれていたけれど、こちらもお兄様にうかがったような情報は見当たらなかった。

ロロシュ王の子はアリッサ王女おひとりであること、わたくしのお母様と同じようにロロシュ王の王配もアリッサ王女をご出産後まもなく亡くなられていたこと。

アリッサ王女は魔力や武術は礼族並の能力しか持たなかったことくらいが、新しい情報だろうか。

せっかく用意したメモを使うほどでもない。


ロロシュ王のお気持ちを考えると、胸が痛い。

同時にそんなお辛い思いをされたとはいえ、イプセンの国を王自らが荒廃させているのだと思えば、イプセンの民を悼まずにはいられず、ロロシュ王に同情を寄せることも申し訳なく思う。


わたくしは気分を変えるため、前世の記憶について考えを巡らせた。


前世のわたくしの研究によれば、乙女ゲームの世界に転生した人間が成功をつかむためには、大きく分けてふたつの努力をしなくてはならない。

ひとつは、自分が属する国や世界に対して、過去の知識をもとにして発展をもたらすこと。

もうひとつはゲームで知りえた人間関係をもとにして、攻略対象を筆頭にした周囲の人間の不幸をとりのぞき、結果として自分に好意を抱いてもらうというものである。


ただこれらの知識は、取扱いを十分に気を付けなくてはならない禁断の知識だ。


前世の知識でもってこちらの世界を発展させるという努力は、こちらの世界での既得権益を傷つけ、社会に影響を及ぼしたり、恨みを買うという危険性をはらむ。

こちらの世界とのバランスを考える必要があり、また有用な知識であっても、それを実行し世に広めるためには、それだけの実行力や能力、地位が必要になる。

非常に難しい事案で、軽々には動けない。


一方、周囲の人間の不利益を解消することは、研究データでは、さほど大きな問題を引き起こすことはなかった。

国全体に影響を及ぼすような技術をこちらの世界に持ち込むのとは、影響を与える範囲が限られているからだろう。

けれども、転生者の心根が悪く、すべての攻略対象の心を得ようとすれば、その罰とでもいうように高確率で転生者は破滅を迎えることになる。


攻略対象すべての心を得ようとする「逆ハーレム」というものには、わたくしはまったく興味がない。

わたくしが望むのは、お兄様のお心だけ。

前世のわたくしの研究データによれば、ひとりの相手を想うことは、必罰の対象ではないからだいじょうぶなはずだと思う。

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