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ハウアー(シャナル王子付き側仕え)-4

だからリーリアの見習い期間が終わり、文化部に所属が決まった彼女が、王子の側仕えとしての業務終了の挨拶にきたとき、シャナル王子は大泣きした。

その時には私はすでに、王子の一般的な子どもとは異なるしたたかな性質に気づいていたので、両親と離れる時もほとんど泣かなかった王子が声をあげてなくのを見て、仰天した。


「リーリア。いやだよ、行かないで。僕の側にいてよ……!」


王子はわんわん泣きながら、リーリアにすがりついた。

けれどリーリアは王子を抱きしめながら、あっさりとその願いを拒否した。


「いえ。来週からは、わたくしは文化部で働くことになりましたので。こちらには伺えません」


「そんな……。リーリアが僕の側にいてくれたのは、仕事だからなの?仕事じゃなかったら、僕のことなんてどうでもいいの?」


涙のたまったうるうるした目でリーリアにすがりつく王子は、傍から見てもあざとく、可憐で、必死だった。

同性同士の勘で、私は王子が泣いている様の半分くらいはデモンストレーションだと気づいた。

どうりで派手に泣くはずだ、と思う。


かわいらしい王子の容姿もあいまって、女性の母性愛をくすぐるようなその懇願を退けるのは、どんなに冷たい女性でも心が痛むだろう。

ましてや王子につくしていたリーリアは、さぞかしこの願いを退けるのがたいへんだろうなと、私は、自分の半分ほどの年齢の後輩を応援するような気持ちで見守る。


けれどリーリアは彼女らしい生真面目な笑顔で、王子の質問の意図とはおそらく少し異なるだろう答えを、きっぱりと口にした。


「シャナル王子は、このグラッハを支える王子ではありませんか。わたくしは貴族の娘として、王子にお仕えできて幸福でした。そして王子のお心にかなうよう努力し、成長できる機会を与えてくださったことも、とてもありがたく思っております」


聞けば、リーリアは王子付きだったこの2か月で魔力量と体力がすこし増えたらしい。

他の人間が言えば嫌味かと思う言葉を、一片の曇りもなく感謝の気持ちで伝えるリーリアに、シャナル王子は動揺しまくっていた。


「じゃぁ、お仕事じゃなくなっても僕のことを大切に思ってくれているの?またあまえても、いいの?リーリア、いやじゃない?」


王子はリーリアの回答を、最大限ポジティブに解釈したらしい。

というよりも、そう尋ねてすがって、言質をとろうとしていたのか。

震える声で尋ねる王子に、リーリアはあっさりとうなずいた。


「もちろんですわ。王子。この国の王子であるあなたは、わたくしにとって大切な方です。ですから王子が王子としての職務を果たすために、そのお心に安らぎを求められ、それがわたくしに甘えることだとおっしゃるのでしたら、存分にあまえてくださいませ」


「……いいの?もうリーリアの仕事は、僕の側付きじゃないのに?」


「わたくしはもう側付きではございませんので、これまでのようにいつも王子のお傍にいるわけにはいきません。ですが仕事のない日や休憩時間に呼び出していただければ、こちらへ参ります。……わたくしごとになりますが、王子。わたくしはお父様やお兄様にたいへんかわいがられて育てられました。こうして抱きしめられるだけで、人の心は安らぐということを知っています。王子がお寂しい時は、どうぞわたくしをおよびください」


リーリアは、最後まで王子のあざといかわいらしさや涙に惑わされることなく、どこまでも貴族としての王族への敬愛と、職務をまっとうすることの喜び、家族との愛情、年少者へのいたわり。そういった極めて清潔で理想的な理念でもって、王子に応えた。


ずるさも身につけた私には、リーリアのまっすぐさは気恥ずかしいばかりだったが、底知れないところがあるとはいえ幼いシャナル王子は、素直にリーリアに惚れ直した。

涙でぐしゃぐしゃになった顔でリーリアに抱き付く王子を見て、この時の私はそう思った。

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