ハウアー(シャナル王子付き側仕え)-3
王子が王城に来られた時、私の補佐役として小翼見習いだったリーリアがつけられた。
雑務をするための人員で、彼女の能力というよりは、生真面目で裏表がない性格と、家柄を背景とした信用を買われた抜擢だ。
彼女の義兄であるガイ・ハッセンも噂では堅物だとは聞いていたが、リーリアもまた真面目で四角四面な少女だった。
ハッセン公爵ご自身は若いころから清濁併せ呑む老練なご性格だったと聞くが、あの兄妹の潔癖なまでの生真面目さはどこからきたのだろう。
ともかくリーリアは、真面目だった。
ハッセン公爵という名家に生まれながら一般の貴族レベルの魔力量しかもたない自分を恥じて、努力で補えるところは補おうと全力で生きているような少女だった。
そして貴族の責務を親や教師から教えられた文字通りに信じ、尽力していた。
……それだけなら、小翼見習いの少年少女ならば時折いるタイプだと思った。
だがリーリアのその潔癖なまでの一途さは、並大抵のものではなかった。
シャナル王子は、王城に到着した当日に、リーリアに目をとめたようだった。
「お父様やお母様と離れて暮らすことになって、さみしい。リーリアはお母様に髪の色が似ているから、一緒にいるとお母様と一緒にいるみたいで嬉しいんだ。毎日、リーリアがいてくれればいいのにな」
あまえるようにリーリアに抱き付きながら、王子は言う。
小翼見習いであるリーリアの勤務は週に2・3日。
その他の日は家で教師について学ぶため、きっちりと予定が組まれていたはずだ。
しかし王子の言葉を聞いたリーリアは、それが見習いとしての自分が果たすべき職務だと思ったらしい。
教師に頭を下げ、スケジュールを調整し、見習いとして王子の側にいた2か月の間、休むことなく毎日王城に参内していた。
王子が「寝るときひとりなのがこわい」と言えば、一晩中眠りもせずベッドのそばで王子の手を握り、王子が「お母様にいただいたぬいぐるみを池に落としてしまった。他の人に触られるのはいやだから、リーリアにとってきてほしい」と泣きつけば、自ら池に入ってとりにいく。
とかげの入ったツボをプレゼントと言って渡し、大切に育てるように言ったり、小鳥を育てたいとねだって、生餌として与える虫を彼女にとってくるよう命じたり。
次々に与えられる王子の「お願い」は、他の人間であればすぐに嫌がらせだと察しただろう。
けれどリーリアは王子の言葉を疑いもせず、嫌そうな顔一つ見せず、もくもくと職務を果たした。
時折、王子に笑顔さえ向けながら。
おそらく王子の言動は、当初は単純に嫌がらせだったのだと思う。
そこに何らかの意図があったのか、なぜリーリアに目をつけたのかはわからない。
けれどリーリアの不屈の対応に、シャナル王子はしだいに心を許していったようだ。
まぁリーリアは目の覚めるような美少女というわけではないが、優し気なかわいい少女だ。
そんな少女が自分のためにせっせと尽くし、傍にいてくれれば、たいていの男はほだされる。
それは王子だろうが、こどもだろうが大した違いはないのだろう。