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「シャナル王子。リーリアは職務中ですよ」


ハウアーがため息まじりに言う。


「リアは本当は今日は休みだよ。文化部と工部が急ぎで予算外魔力がいるって困っていたから、リアに頼まれたら特別に補充魔力を提供してもいいよって言っておいたんだよ。まさかリアが休日なのに、僕のところに来てくれるなんて思ってなかったけどね」


休日出勤までさせるつもりはなかったんだ、ごめんね、と王子に謝られ、わたくしは慌てて否定した。


「別件で参内していたので、お気遣いは無用ですわ。こちらこそ、魔力を提供していただきありがとうございます。ですけれど、わたくしは王子の配偶者にはなれません。いつも申し上げていますように、わたくしの魔力量で王族になるのは無理ですし、わたくしのほうが王子より7歳も年上で、つり合いもとれませんもの」


それにわたくしには、お兄様という愛する方がいらっしゃるからシャナル王子と結婚できない、とは言えない。

お母上かお姉さまのかわりのように、わたくしを慕ってくださるシャナル王子は、思慕と愛情の区別がついていないのだろうと思う。

それでも真剣にプロポーズしてくださる王子に対して、他に想う人がいるのだと、一番に挙げるべき理由を挙げてお断りできないのは申し訳なく思う。

けれどもわたくしがお兄様に想いを寄せていると知れば、お兄様はお優しいからなんとか応えようとご自身のお気持ちを殺されるかもしれない。

王子のお傍にはいつも官吏がひかえているので、こういった話も広まりやすいのだ。

だからわたくしはいつもどおり申し訳なく思いながらも、表面的な理由で王子のプロポーズをお断りした。


シャナル王子は真っ白な頬をふくらませて、拗ねたようにおっしゃる。


「ふーんだ。いいよ、リアがお嫁さんになってくれるっていうまで、あきらめないもん。年の差なんて忘れさせるくらいいい男に成長して、リアをお嫁さんにするんだもん」


王子はきっと、素敵な男性にお育ちになるだろう。

それでもわたくしにとっては、きっといつでもお兄様がいちばんでしょうけど。

再度王子のプロポーズをお断りしようとすると、王子はぎゅっとわたくしに抱き付いて、あまえるように言う。


「今はまだ、こうしてあまえさせてくれるだけで我慢するから、それは許して?リアがいないと僕、王城ではあまえられる人なんていないんだもん……」


しょんぼりとした声でそうおっしゃられる王子に、胸が痛くなる。

シャナル王子は魔力量が非常に多いため、礼式を待たずしてご両親のもとから引き離された。

けれど、彼自身はまだ8歳の、あまえたい盛りのお子なのだ。


「もちろんです、王子。わたくしでよろしければ、存分にあまえてくださいませ」


シャナル王子の実の両親であるシャルボン伯爵夫妻は地方官のため、めったに王都には来られず、王子との面会時間もなかなかとれないと聞く。

この小さな王子が甘えられる人がいないと嘆くなら、わたくしはあまやかす大人のひとりになりたいと思う。

……もっとも実際には、今日も王子に魔力充をお願いするなんて、王子をあまやかすどころか、こちらが王子にあまえているような気もするのだけど。


とがめるようなハウアーの視線に、目をふせた。

王子の側仕えの彼からすれば、王子の魔力を搾取するわたくしが、王子に「あまえてください」というなど笑止だろう。


許しをこうように王子の背に手をまわし、王子を抱きしめる。

王子はわたくしの卑怯な気持ちなど知らず、ただ純粋にわたくしの腕の中で一時くつろいでくださった。

リーリアはリーリアなので、シャナル王子に「腹黒」属性もあることには気づいていません。

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