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シスレイはついでみたいに「あっ、その髪形かわいいわね、リーリア。よく似合っているわ」と言ってくれる。

それは嬉しいけど、それとこれは別だ。


「シスレイ。それはまた、王子の義務以上の魔力提供なんでしょう?王子はまだ8歳なのよ。義務以上の魔力を、こんなに頻繁にお願いするのはよくないわ。いそぎで必要に魔力が必要になる事案もなかったでしょう?」


わたくしを頼りにするシスレイの気持ちを無下にするのは申し訳ないけれど、わたくし自身が魔力を提供できるわけではない以上、断るしかなかった。


第四王子のシャナル王子は、昨年王の養子に入られた少年だ。

ちょうどわたくしが参内を始めたばかりの頃で、無所属の小翼見習いとして人事部預かりになっていたわたくしは、王子のお世話係を申しつかった。


もちろん王子のお世話係には正式な官吏もついていたのだけれど、年齢が比較的近しいからか、王子は補助として仕事についていたわたくしをよく慕ってくださった。

見習い期間が終わったわたくしが文化部に所属することになり、お傍を離れるご挨拶をしたときは、「行かないで」と泣いてくださったものだ。


そして今でも、わたくしのことをお心にかけてくださっていて、「なにか困ったことはない?」「僕にできることなら、なんでもしてあげる」とおっしゃってくださる。

けれどそれを聞いた周囲の人間が、予算以上の魔力を必要とする時、わたくしを通して王子の魔力をいただくのをあてにするようになってしまった。


予算外の魔力とはいえ、各部署の上司の認可がおりた魔力使用だから、私利私欲に使われるわけではない。

王子としても規格外の魔力量をお持ちのシャナル王子には、魔力の提供は負担ではないそうだけど、まだ礼式も迎えていない子どもを義務以上に働かせるのはかわいそうに思える。

いくら王族とはいえ、礼式前の子どもは、もう少し守られてもいいと思うのだ。

お兄様がわたくしにしてくださったように、というわけではないけれど。


わたくしとシスレイがぐだぐだと平行線の話し合いをしていると、小翼管理官のリンダ様の命令が下された。


「リーリア。あなたが以前議題にあげていたから、人事部でシャナル王子の体調を念入りに観察なさっていたけれど、王子の体調に不備はないそうよ。お体のわりに魔力量が多いので、むしろ積極的にお使いいただいたほうが成長によいでしょうとのお墨付きもいただいています。シャナル王子自身、あなたに頼られることを喜んでいらっしゃるのですから、魔力充をお願いしてきてくださいな」


諭すようにおっしゃるリンダ様のお言葉には納得しきれないものを感じる。

そもそも王子たちが提出を義務付けられる魔力は、それぞれの力に応じて設定されているはずだ。

シャナル王子は、現在留学中の第二王子ユリウス様の不在を埋めるかのように、従来の王子よりずっと多い魔力を提供されている。

それなのにそれ以上を求めることを大人たちが当然とみなすのは、自分たちの責務を子どもにおしつけているようで、いやだった。


とはいえ、人事部のお墨付きがでているのなら、検査はきちんとなされたのだろう。

シャナル王子は天使のようにおかわいらしいけれど、このまま身長が止まってしまわれたらご本人もお嘆きになる。

いつだって、はやく大きくなりたいとおっしゃっているのだから。


……それにわたくしも、上官の命令には逆らえない。

結局シャナル王子のお優しい心につけいる、ずるい大人のひとりなのだ。


「かしこまりました」


苦い気持ちを噛み潰して、わたくしは文化部小翼詰所を後にした。

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