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「リア!」
目を覚ますと、真っ先に見えたのは、涙のたまった目でわたくしを見るお兄様の顔。
恐怖にそまったその表情をやわらげたくて、わたくしは力の入らない頬をゆっくりとゆるませ、笑顔をつくった。
「お兄様……?」
「リア……!気づいたのか!」
お兄様の後ろからあらわれたのは、目元に涙をにじませたお父様。
そして、所在無げな表情でたたずむ金の髪の少年。
彼の姿を目にしたとき、わたくしはなぜ自分が倒れたのか、なにを自分が思い出したのか、すべて悟った。
「お父様、お兄様。わたくしはだいじょうぶですわ。すこし、疲れが出たみたいです」
お恥ずかしいですわと微笑みながら、わたくしは体を起こした。
「無理はしないでくれ、リーリア。君になにかあったら、私は……」
「いやだわ、お父様。ほんとうに、だいじょうぶですわよ。それより、ごめんなさい。せっかく弟に会ったのに、台無しにしてしまったわね」
わたくしの手を強くつかみ、お父様は嘆く。
わたくしのお母様は、わたくしが幼いころ、急に倒れて亡くなられたという。
そのことを思い出させてしまったのだろうか。
申し訳なくて胸が痛む。
けれど、今わたくしの頭にあるのは、エミリオのことばかりだった。
「リーリア様」
エミリオはぎこちなく顔をゆがませて、わたくしの枕元に跪く。
「お姉さまと呼んでちょうだい、エミリオ。今日からあなたはわたくしの弟でしょう?」
微笑んで言えば、エミリオはこくりとうなずいた。
それを見て、わたくしはほっとする。
「ごめんなさい、また意識がなくなりそうですわ。眠るだけですから、ご心配なさらないでくださいね」
また視界が真っ暗になるのを感じて、わたくしはお父様たちに言う。
目を閉じる瞬間、お兄様の瞳に暗い色が宿るのが見えた気がした。
だいじょうぶですわよ、お兄様。
ほんとうに、わたくし疲れただけなんです。
なにしろ、前世の20年分の記憶をとりもどしたんですから……。