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観察するかのように、お兄様がエミリオを見る。
ほんのすこし、お兄様はエミリオ警戒しているよう。
視線に、緊張感がにじんでいる。
貿易に手を出している商会は、時折大きく身持ちを崩すこともある。
違法の薬物や人身売買などが、その最たるものだ。
けれどファラン商会については、悪い噂を聞いたことはない。
お兄様が警戒なさることはないと思うけれど、わたくしは決して市井の噂に敏いわけではないし、お兄様のように部下をあちらこちらに配備して情報を集めているわけでもない。
もとよりお兄様のなさることに口出しする気もなかったので、わたくしは自分の気配を殺すようにして、二人の様子をうかがう。
エミリオは、お兄様の視線に滲む警戒感を、不思議そうに受け止めていた。
「なにか……?」
「ああ、いや。すまない。ただ私も貿易で得た情報に興味があると思ってね」
「へぇ。例えばどんな話が気になりますか?」
エミリオは、お兄様が自分の持っている情報に興味を抱いているということが嬉しかったみたい。
期待に目を輝かせて、質問を促した。
お兄様は一瞬口ごもり、それから思い直したように、話を続ける。
「……いや、特にこれというものはないんだ。ただ近頃変わったことがあったなら、聞きたいと思ってね。外国の情勢や海岸部のことは、王都にはあまり情報が入ってこないが、貿易商ならいろんな話を聞くんだろう?」
「ファラン商会はあくまで食料商で、貿易はその一環ですけどね。マリオもこの1年ほどは外海に出ていないんで、俺もそんなに目新しい話を知っているっていうわけじゃないんですけど……」
エミリオはちょっと考えて、
「俺が面白いなと思ったのは、海賊ラジントンの話ですかね。イプセン近郊を根城にしているらしいんですけど、義賊で、市民の人気が高いそうですよ」
「義賊?」
聞きなれない言葉に、わたくしは首をかしげた。
エミリオは「はい」と、なんだかすごく楽しそうに続ける。
「このグラッハでは、王や貴族の皆さまが正しく国を導いてくださっているから、いませんけどね。国が荒れると、悪いことをして私財を蓄えようとする人間も出てくるそうです。義賊というのは、そういう悪人のお金を盗み、生活に困る市民に与える盗賊なんです。もちろん行いは違法ですが、心意気は正しいと思うんですよ!」
力のこもったエミリオの言葉に、彼がその義賊に憧れを持っているのだと気づく。