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「基礎学校の上級版もあるにはあるが、あれは上級庶民や外族のものだからな。教育内容が違うだろう」
上級庶民がお金をだしあって運営している商業学校は、文字通り商人としての教育を施すものだ。
基礎学校より高度な計算や外国語、地理、流通などを学ぶと聞く。
わたくしたち貴族が学ぶことと似たジャンルの知識も学ぶそうだけど、根本的な目的が異なるので、教育内容もやはり異なる。
傭兵として身をたてるため武術に特化して学ぶ外族の学校や、音楽や舞などの修練を目的とした外族の学校も、もちろん教育内容が異なる。
そんなことをお兄様が説明されると、エミリオはなるほどとうなずいた。
「だったら俺が学校に通えるのは、カルーセン学院だけってことですか。あんなエリート学校に自分が通うことになるなんて、思いもよらなかったです」
「あそこは特殊な学校だからな。私もまだ通ったことはないので、確かなことは言えないが……。家庭教師たちの話では、学院に通う前に徹底的に学び、自分を磨いておかねば、あそこでの学びは本来の価値を大きく損なうらしい。次に学院が開かれるのは、来年だ。エミリオには準備期間も短い。かなり努力して、事前に学ぶ必要があるだろう」
「基礎学校みたいに、学校に行って学ぶっていうノリじゃないんですよね。庶民の間でも噂では聞いていましたけど、実際に自分が通うっていうのは、現実感ないです」
「カルーセン学院は、庶民でも通えるでしょう?」
前世でわたくしが研究していた乙女ゲーム「プリンセス・ルールズ」の舞台は、カルーセン学院だった。
実力さえ示せば入学できる学院なので、ヒロインである庶民の少女も魔力量の多さを認められて入学したのだ。
けれど、エミリオは困ったように笑って、言う。
「確かに建前はそうですけど、普通の庶民には、あの学校の求める”実力”が示せるほどの教育は受けられません。魔力量が多ければ入学できるって話でしたけど、そもそもカルーセルン学院に通えるほど魔力量が多ければ、庶民の家に生まれてても、入学可能な年齢になる前に、貴族や礼族の家に養子に入るのが普通ですし」
あ……。
エミリオに指摘されるまで気づかなかったけれど、言われてみれば、確かにそうだ。
前世の世界とは社会構造が異なるせいで、ゲームとこちらの現実には齟齬がある。
これも、そのひとつなんだろう。
旅行中のため、更新はゆっくりになります。