ユリウス王子-5
シャナルと結婚するつもりなのかと尋ねると、リーリア・ハッセンの顔色は、みるみる蒼くなった。
その姿は、噂が本当だと白状しているようだ。
マジか。
自分で聞いておいてなんだが、噂は噂でしかないと思っていた。
まさか、リーリア・ハッセンが、本当にシャナルと結婚するつもりだなんて。
帰国したばかりの俺にも、即座に耳に入るほど、いまこの王城ではその噂でもちきりだった。
シャナルは以前からリーリア・ハッセンが好きだと公言していたが、この度リーリア・ハッセンもそれを受け入れたと。
父の行方がわからず悲しみにうちひしがれる彼女を、シャナルが支え守る姿は一幅の絵のようだったと。
この非常事態のなかでうまれたひとつの光だと。
聞いては、いたが。
……まぁないだろうと、おもっていた。
ただの無責任な噂だろう、と。
あるいは、シャナルの意図をくんで、シャナルづきの侍官たちが暗躍して、勝手に噂を広めているんだろうと思っていた。
だが、このリーリア・ハッセンの態度はどうだ。
真っ青になって震える小柄な少女の姿はいたいけだが、どうみてもやましいところがあるようにしか見えない。
おいおい。
リーリア・ハッセンは、確か…15歳、だったよな。
シャナルは、8歳か。
年の差は、7歳。
なくは、ない。
なくはないが……。
いや、ないだろ。
え?
え?
いや、だって、8歳だぞ。
7歳の年の差は、恋人だろうが夫婦だろうが、アリだと思う。
しかし、それはもう少し二人の年齢が上だったらのことだろう。
いくらなんでも、8歳と15歳っていうのは、ないだろ?
8歳っていえば、子どもだよな?
そりゃ、シャナルはなにかと規格外な子どもだが、しかし8歳だぞ?
俺が15歳のときだって、8歳の女の子は恋愛の対象外だった。
それが、普通だろ?
え、違うのか?
「違うんです……!」
涙目で、リーリア・ハッセンが言う。
そうか。
違うのか?
いまどきの若者としては、そのくらいの年の差は関係ないと。
恋愛に年齢を問うなんて、ねーよと。
いや、俺もリーリア・ハッセンと3歳しか年齢かわらいないのだが。
世事にも目をむけるようにしているが、基本が工学オタクだからな。
この手のことには、疎いのは否めないが……。
やはり、抵抗を感じるのは、俺の倫理観が保守的だからか……。
いや。
王城中に、二人の恋は暖かく見守られているようだった。
それこそ、俺の祖父母であっても不思議はない年齢の方々も、二人の恋を喜ばしそうに口にしていたな。
ということは、俺は彼らより保守的というわけか。
それは、ちょっとばかり抵抗があるのだが。
平静を装いつつ、思考は横滑りしそうになる。
苦手ジャンルの衝撃って、破壊力が大きいものなんだな……。
だが、そんな俺の視線を、リーリア・ハッセンは非難の視線だととらえたらしい。
涙目で、訴えてくる。
「わたくしは、シャナル王子と結婚だなんて。そんなこと、考えていません!」
「つまり、シャナルとの関係は、ただの遊びだと?」
耳を疑う。
目の前の、小動物的な少女が、そんなことを言うなんて。
なんだ、これ?
シャナルは、年上のおねーさんにもてあそばれたということか?
ちょっとうらやましい、ではなく。
義理とはいえ、シャナルは弟だ。
あまり会ったこともないし、その顔合わせでも生意気な子どもという印象だった弟だが、まだ子どもだ。
加えて、国への貢献度も高い王族でもある。
ちょっとその発言は、聞き捨てならないな。