ユリウス王子-4
気があるなんて誤解されたら困るくせに、ぜんぜん気にされないのもちょっと悔しい。
なんていうと、女友達には張り倒されそうだが。
男たちは、同意してくれると思う。
もちろん、そんなこと口でも、態度でもあらわにはしない。
そんな次期王、俺だって嫌だ。
だがしかし、すこしばかり、もやもやとするのだ。
そこは俺だって、年頃の男なんだよ。
いくら機械オタクだって、女の子に好意をしめしてスルーされるのは、切ないのだ。
というか、変わった子だよな。
年頃の少女なのに、異性の前で鼻血をだしても平然としているなんてな。
自分がやっておいていうのは、ほんとうに申し訳ないのだが、ふつうの少女は恥ずかしがったりしそうなものだ。
俺のことを異性として意識していないのかもな……。
兄であるガイ・ハッセンから、いろいろふきこまれている可能性はある。
あのクソ真面目な男は、俺にからかわれているって気づいていないようだったが、それは見せかけで、妹にこっそり俺のことを悪く言っていたのかもしれない。
……いや、それはないな。
あの男が、そんなことできる人間なら、もうちょっとうまくかわしているだろう。
基本スペックは、低くないやつだし。
社交は苦手そうだが、悪意でからんでくるやつにはバッサリ対応しているしな。
とすれば、父であるハッセン公爵が、俺の工学オタクぶりを娘にふきこんでいるのだろうか。
ハッセン公爵は娘を溺愛していて、周囲に男を近づけたがらないって噂だしな。
俺の工学オタクぶりは、ちょっと調べれば、少女の夢を壊すエピソードもごろごろ出てくるだろう。
綺麗好きな女子というのは、実験に夢中になって一週間ほど風呂に入らないだけでもショックを受けるという。
工部の人間なら珍しくもないのだが、いかにもきちんとした印象のリーリア・ハッセンなら、その程度のエピソードでも、俺のことを異性として「ない」と判断する気がする。
……これはありえそうだ。
それにしても、それだけで、ここまで意識されないものなのか?
やはり、あの噂は真実なんじゃないのか?
「リーリア・ハッセン」
すこしばかり改まって、リーリア・ハッセンの名を呼ぶ。
彼女は小さなくちびるをきりりと結び、青い目をまっすぐに俺にむけてくる。
視線ひとつさえ、ひたむきな少女のありかたは、不器用なまでに真摯で、もろく見えた。
だから、俺が彼女のことを注意深く見守っていたのは、俺の言葉が彼女を傷つけやしないかと不安だったからだ。
「君は、シャナルと結婚するつもりなのか?」
疑心が混じる俺の言葉に、リーリア・ハッセンはすぅっと顔色を青く変えた。