ユリウス王子-2
リーリア・ハッセンは、見た人が心を奪われるような美少女ではない。
ごく普通の、平凡な少女だ。
とはいえ、他人に「がっかり」などと言われる容姿ではない。
むしろ、こうしてまじまじと見れば、平均よりもずっと整った顔をしている。
その彼女が、俺と同年代の男たちに「三大がっかり」よばわりされているのは、見る前の期待値が高すぎるからなんだろうな……。
思わず、かわいそうに、と思ってしまう。
なにしろ、リーリア・ハッセンの父親は、その実力とともに冷たい美貌で知られた「黒き鷹将軍」カール・ハッセン公爵。
冷酷に見えるほど冷静沈着な常勝将軍のひとにらみは、男の心を凍らせ、女の心を溶かすと謳われる。
今は亡き彼女の母親も、我々の世代の人間が直接見おぼえているわけではないものの、大人たちは「金の薔薇」とうたわれた佳人だと噂していた。
その二人の実子なのだ。
どんな美少女かと期待してしまうのだろう。
それだけではない。
彼女の義兄ガイ・ハッセンが、リーリア・ハッセンを溺愛しているのも、俺たちの間では知られた話だ。
ガイ・ハッセンの通り名は「黒の若獅子」。
義父であるハッセン公爵と血のつながりはないのに、なぜかハッセン公爵に似た風貌のガイは、冷たい美貌の青年だ。
ハッセン公爵ほどの威厳や厳しさのかわりに、若竹のような清廉さを持つあの男は、同世代以下の年頃の男や女性たちからは強い憧れの的になっている。
まぁ、彼の場合、クソ真面目で素直な性格から、年配の男たちにはからかわれつつも、かわいがられているようだが。
……俺もときどき、からかったな。
あの生真面目で、素直すぎる反応が妙にツボだったんだよな。
本人はからかわれていることにも気づかず、きっちり対応してくるのが、また笑えるというか。
それでいて有能かつしぶといとこも、いいんだよなぁ。
まぁ、ひとことで言えば、人目を集める人気者だ。
そんな男が、愛しくてしかないって態度をしめす義妹。
そりゃ、美少女を期待してしまうのが男の性だ。
ついでに、我が弟も、リーリア・ハッセンにご執心だしな。
なかなかに腹が黒い弟だが、容姿は天使のような美貌の少年だ。
どこまで本気か知らないが、彼女を妻にしたいと公言している。
そうやって、どんどん俺たちの期待をあおって……、パーティやらなんやらで顔をあわせたら、平均レベルの少女が登場するわけだ。
俺も、初めて会った時は、申し訳ないががっかりした。
「え、これ?」って思った。
だけど、こうしてみると、なかなか。
「かわいいな」
ぽろり、と口から言葉がこぼれる。
リーリア・ハッセンがぱちりと目をあけ、俺を見る。
しまった、と思った。