表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

182/190

128

実際のユリウス王子は、どんな方なのかしら。


次の王となられる王子のことを、わたくしはほとんど知らない。

わたくしだけでなく、わたくしと同世代の人間は、ユリウス王子になじみが薄い。

自分たちが王城で働くころには、この国を離れていらっしゃったからだ。


お兄様世代の方は、親しくされている方も多いのでしょうけど……。


お兄様は、ユリウス王子とはさほどお親しくはなかったようだ。

家で王子の話題をだされることはあっても、わたくしが王城につとめるにあたって必要な「知識」としてであって、個人的な事柄をお話にはならなかった。


きさくで社交的で、工学がお好きで。

王になることも、きちんと受け止めていらっしゃる方だ、と。

そんなふうに、おっしゃっていた。


そして、その褒め言葉ばかりのご説明にも拘わらず、お兄様の表情はあまり好意的ではなかった。

素っ気なく端的に王子の情報をお話になるお兄様を見ていたので、わたくしの心のどこかにもユリウス王子への苦手意識があるのかもしれない。


楽し気にシスレイと言葉をかわすユリウス王子を見て、わたくしは少し心がほどけるのを感じた。

すくなくとも、悪い方ではなさそうだ。


前世のゲームでも、ユリウス王子はいかにも「王子様」な穏やかで優しい方だった。

現実の王子も同じようであるのなら、グラッハ国の国民としては嬉しいことだ。


ゲームのことを考えると、それでも王子には近づかないほうがいいかもしれない。

攻略対象、それもメインの攻略対象であるユリウス王子に近づくことは、わたくしの将来に影をさすことになりかねない。


けれども……。


ハウアー様がほのめかしていらしたように、今回の件で、サラベス王が退位なさるというなら。

この方は、もうすぐ王になられるのだ。

臣下として、ユリウス王子との距離をとろうとするなど誠意がない。

王をおささえし、その下で国を守るのが、わたくしたち貴族の使命だ。

それに、ユリウス王子がすぐに王になられるのなら、その時点でゲームとは異なった展開になっている……。


ゲームと現実との齟齬は、現段階では望ましいとは言い切れない。

ゲームでは、お父様もお兄様もご無事だった。

ゲームと現実が違うということは、お父様の無事を信じる要因のひとつが失われるということで。


なにもかもを望むなと神様がおっしゃるのなら、今のわたくしはお兄様への恋よりもお父様のご無事を願ってしまう。

けれども、お兄様への恋も捨てることなどできない。

この想いが叶わずとも、ひそやかに思っていることだけなら許されるだろうか。


神様に問うてみても、答えなんてない。

……それに、わたくしはシャナル王子のお気持ちをきちんと受け取るためにも、自分の気持ちをお兄様に告白すると決めたのだ。

今は、シャナル王子と、お父様を信じてご無事を祈るだけだ。


そう思っているのに、次から次へと不安がこみあげてくる。

ふっと意識をよそにとばしていると、ユリウス王子がシスレイとハウアー様に、部屋から出るよう指示をだしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ