エミリオ-1
ヤバい。これが貴族の世界ってやつなのか?
だったら俺、一生馴染めねーよ……。
このままじゃヤバいと思って、目の前の兄妹劇場にストップかけてみたけど、いたたまれなさすぎて、どこを見ていいのかわからなくなる。
つーか昨日から義理のにーちゃんになったガイ様の目が、こええええええ。
今日も朝からガイ様はお屋敷の中を案内してくれてたんだけど、俺をみる目がつめてーなーって気はしていた。
けど、同じハッセン公爵家の養子になった身の上とはいえ、ガイ様は礼族出身っていうし、俺は庶民も庶民、日雇い仕事の親父とお袋に育てられた下層庶民だし、これがお貴族様の洗礼ってやつかぁってスルーしてたんだよ。
けど、今のこの俺に向けられた視線は、絶対零度っつーか、凍りそうっつーか。
ちょっと魔術使ってね?冷気漏れてね?って感じっす。
いや、でも俺、別に悪いことしてねーよな?
昼食っていうからガイ様と一緒に食堂に来て、リーリア姉様を待っていたら、なんかリーリア姉様とガイ様がいちゃいちゃしはじめてさ。
俺の存在とか忘れてるっぽいから止めただけだよな……って、これ、あれか?馬に蹴られるってやつか?
でもこの人たち、いちおう兄妹なんだよな?
それともお貴族様ってのは、兄妹で「かわいいね」「お恥ずかしいですぅ」なんてやりとりが普通なのか?
俺は生家であるヒューズ家にも、ねーちゃんがいてさ。
ねーちゃんは、リーリア様みたいにお人形さんみたいなかわいい人じゃなかったけど、ちゃきちゃきした美人で、あっちこっちの男から声をかけられてるやつでさ。
中にはちょっとヤバい男もいて、強引なこともしてきたから、俺はいっつもねーちゃんにべったりひっついて、ねーちゃんを守っていた。
腕っぷしは実施のケンカで学んだレベルで、きっちり武術ならっているようなやつにはとうていかなわなかったけど、物心ついたころから魔術はうまく扱えたから、そっちの力でやりかえしてたったわけだ。
そんなだから周囲からはシスコンシスコンってからかわれたけど、その俺でもねーちゃんとこんなやりとりしたことねーよ?
つーか空気がピンク色に染まっているよ?
やっぱこの二人ってデキてるのかな……。
ねーちゃんがめでたく結婚して、俺は自分のことだけ考えられる状況になってさ。
うまいもんいっぱい食えるし、魔術とか武術も鍛えてくれるっつーから、ハッセン公爵様の養子になるって話にふたつ返事でのってみたけど、やっぱお貴族様ってのはわかんねー。
はやまったかな……。
空に目をさまよわせながら考えていると、頬を真っ赤にしたリーリア姉様がふらふらっと席に座った。
そんで、俺のほうを見て、にこっと笑う。
「ごめんなさいね、エミリオ。昨日もきちんとご挨拶もできなくて、本当にごめんなさい。いたらない姉だと思うけれど、仲良くしてくれると嬉しいわ」
「ありがとうございます、リーリア姉様」
その「にこっ」て顔が、照れ隠しなんだろうなー、やたら子どもっぽくて、かわいくてさ。
リーリア姉様って、俺よりひとつ年上なんだっけ。けどかわいいなーって純粋に思って言葉を返した。
そしたらリーリア姉様は小首をかしげて、
「姉さまって呼ばれるのは、初めてですわ。なんだか照れてしまいますわね」
って、はにかんで笑った。
その顔がなんか素直ーって感じでさ。あー、貴族の女の子って、こういう生き物なのかって、感心したっていうか。
今まで俺の周りにはいなかったタイプっていうか……、まぁちょっといいなって思った、んだけど……。
その瞬間、ガイ様がギロって睨んできた。
いやマジで、魔術つかってねーよな?背中ぞくぞくしてるんっすけど!
やっぱこの二人、デキてるのかな。
リーリア姉様はかわいいけど姉さまだし、ガイ様がいる以上、それ以上のことは考えられねーな。
次は、またリーリア回です。
お貴族様のように果たすべき役割をもたない下層庶民にとって、
義理の兄弟も実の兄弟とあまり変わりはありません。
お互いが好きなら結婚もできますが、基本的な意識は兄弟は兄弟。
階層間の常識のギャップに気づいていないエミリオは、兄妹のラブラブっぷりにどんびきです。