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「そんな……」
そろそろハウアー様が折れるだろうだなんて。
ユリウス王子が帰国されたのは、今日のことだ。
いくらなんでも、シスレイの見込みが厳しすぎると思う。
けれども一方で、次期国王になることがほぼ確定しているユリウス王子の要望を、いっかいの侍官であるハウアー様が退けるのもむずかしいだろうとも思う。
ユリウス王子の要望が無理難題ならともかく、臨時とはいえハウアー様の下で働く小翼と、仕事中に面会を求めていらっしゃるだけなら、お断りする理由をひねりだすのも難しいだろう。
「リーリアったら、難しい顔をしないの。だいじょうぶ。たとえユリウス王子が貴女のことを、弟王子をたぶらかす悪女だと思ったところで、貴女を断罪なんてできるはずないでしょう?シャナル王子がザッハマインへ向かわれたのは、王命なのだから」
シャナル王子の真意がどうであれ、また王子がザッハマインへ向かわれた理由の根底にわたくしへの思慕があることは多くの人々に予測されているとはいえ、事実として語られるのは、シャナル王子が王の命令を受けてザッハマインへ向かったということだけだ。
そこには、わたくしの関与はない、ことになる。
だからユリウス王子が、わたくしを公に罪に問うことはできない、とシスレイは言う。
「それは、そうだけれども」
だからといって、ユリウス王子に喜んでお会いする気にはなれない。
「なにが問題なの?」
シスレイは、答えを促すようにわたくしの目をのぞきこむ。
「問題……、というほどではないけれども」
口ごもりながら、わたくしは考える。
わたくしの行いは、法の下にさばかれることもなく、面とむかって王子に非難されることでもないだろう。
表向きは、あくまでシャナル王子は王の命を受けて行動しているのだから。
それなのにわたくしがユリウス王子にお会いしたくないと思ってしまうのは、シャナル王子のご家族であるユリウス王子に申し訳なさを感じているからだ。
わたくしの大事な家族であるお父様を助けていただくために、ユリウス王子の大切なご家族を危険な場所へ送り込んでしまったから。
しどろもどろにそう伝えると、シスレイはやれやれとため息をついた。
「まぁね。リーリアのことだもの、わたくしも期待はしていなかったわ。貴女がユリウス王子にいま会いたがらないのは、弟のことで悪感情を抱かれたままお会いしたくない、なんて。貴女に限っては、ないだろうってわかっていたわよ」
いたずらっぽく笑っていうシスレイに、わたくしは首をかしげる。
「なんのことなの?」
「貴女の想い人は、ユリウス王子じゃなかったのねって言っているのよ」