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ハウアー様に言いつけられて、シャナル王子の詩作を整理する。
そっけない白の紙片には、王子が丁寧な文字で詩を書き連ねていた。
その多くは、有名な詩人の作だ。
教師に言われて、詩の勉強のために書き出したのだろう。
懐かしい。
わたくしもシャナル王子の年齢のころには、こうやって詩作の勉強をしていた。
7年か、8年ほど前。
……ちょうどわたくしが、お兄様に出会い、恋をしたころ。
シャナル王子は、そのころにお生まれになったのではないだろうか。
そう考えると、月日というのは不思議なものだと思う。
同時に、自分のふがいなさをつくづく感じる。
その8年で、生まれたばかりのシャナル王子はすくすくと育ち、立ち、歩き、話し、お父様を助けてくださるほどに成長なさった。
わたくしはお兄様に出会い、恋をし、その気持ちを育ててきたけれど、いまだお兄様に思いを告げることすらできていない。
……それでも仕事や魔力については、わたくしだって王子にはおよばなくても、ずいぶん成長はしたと思う。
そうあるように、努力してきたのだから。
わたくしは紙片に書かれた詩を読みながら、さくさくと紙片を分類する。
有名な詩は、数年で大きく変わるわけもなく、わたくしが学んだ詩もだいたい同じようなものだった。
子どもが詩を学ぶために覚えるよう言われる詩の多くは、自然の美しさをたたえた歌だ。
特に厳しい冬があけた後の春の美しさ、夏の喜び、秋の豊かさを詠んだ歌が多い。
ハウアー様の言いつけ通り、まずは詩人ごとに分け、その後に主題ごとに紙片を分類する。
著名な詩人の作は暗記しているので、分類も容易だ。
紙片の多さにも関わらず、仕事はあっさりと終る。
手元に残ったのは、シャナル王子が書いたとおぼしき詩作だった。
そのひとつひとつに目を通し、紙片をふりわける。
有名な詩人の詩とはちがい、冒頭を読んだだけで内容がわかるわけではないので、王子の詩の分類にはすこし時間がかかる。
季節の言葉に注意しながら目を通しつつ、どこか固くぎこちない王子の詩をほほえましくよむ。
「落葉、時の鐘の音。これは、秋。あげひばり、かたつむり。これは、春。……これは、」
どこかお手本の詩に似た言葉が並ぶ王子の詩作の中、ひとつだけ異質な詩を見つけて手を止めた。
「かなしく深い藍の空 みあげても星はなく
ひたすらにひとり道を歩く
さまよい歩き 疲れに足がとまりそうな日に
白く清き花の香に気づいた
香に誘われて 目を奪われる
その無数の小さな白き星のごとき花
手に触れると花は空に昇り
藍の空を輝かせる星々に変わる
今 空は明るく 孤独の日々は終わった
私は歩く リアの花とともに」
口に出して読み上げたことを後悔する。
どんなに詩にうとい人間でも、気づくだろう。
これは、王子がわたくしを思って詠んだ詩だ。
詩の部分は、適当に流してくださると嬉しいです。
単語のみの箇所は、元ネタバレバレなのも仕様です。