表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

163/190

111

エミリオは、このハッセン公爵家の正式な養子だ。

とはいえ、まだ我が家の養子にむかえられて数日しかたっていない。


わたくしは、いつかはハッセン公爵家から出る身とはいえ現ハッセン公爵の実の娘として、15年この家で育ってきた。

ハッセン公爵家の使用人の信頼が、わたくしに寄せられているのは当然のこと。


それなのに、わたくしがエミリオを冷たくあしらえば、使用人たちもエミリオへの態度をよそよそしくするだろう。

お父様が不在の間に、代理にすぎないわたくしが、エミリオと我が家の使用人たちの信頼関係を損なうような真似はしてはいけない。


それに、前世の乙女ゲームのエミリオは、わたくしたち家族に冷たくされたことで性格をゆがめ、最悪の場合ヒロインを監禁するような犯罪者になりさがってしまうのだ。

ハッセン公爵家から、犯罪者をだすなんて、とんでもないことだ。

だからエミリオに対して、冷たくするなんていけないこと……。


あぁ、でも。

ゲームはゲームで、現実は現実だ。

それらは別々のものなのだから、分けて考えるべきで。

現実のエミリオは、わたくしが冷たくしたからと言って、ヒロインを監禁するような人間にはならないかもしれない。

いえ、だからといって、わたくしがエミリオに冷たくしていいというわけではないけれども……。


あぁ、いっそ、なにもかも、ゲームどおりなら。

ゲームどおりに現実が進むなら、お父様もお兄様もご無事でお帰りになるはず。

わたくしがエミリオに冷たくあたって、エミリオの性格が歪んでしまえば、「ゲームどおり」の未来が訪れるのなら。

お父様やお兄様がご無事で戻られるというなら、エミリオに冷たくあたるくらい悪いことだと思わない……。


いいえ。駄目。

冷たくあたった結果、エミリオが犯罪者になれば、お父様やお兄様も苦しめる。

エミリオだって、ヒロインだって苦しむ。

それにゲームどおりの未来が訪れるなら、お兄様はわたくしではなく「ヒロイン」と結ばれてしまわれるかもしれない……。


……あぁ!

落ち着こうとしても、思考が入り乱れる。

ゲームは、ゲーム。

現実は、現実。

例えゲーム通りに未来を紡ごうとしても、そんなものが現実になるはずないのに……。


馬鹿な考えが頭に繰り返し、うかぶ。

わたくしはそんな考えを閉じ込めるように、機械的な笑顔をうかべなおし、ビスケットを食べる。

エミリオに今日の予定を聞き、わたくしは王城へ行くことを告げる。

他愛のない会話を笑顔でかわし、デザートの葡萄を食べ終えると、わたくしは先に席を立った。


このくらい友好的にしておけば、じゅうぶんだろう。


家の者に見送られて、王城へと向かう。

……こんなことでは、いけない。

それは、わかっているのに。


お父様。

ご無事で、いらしてください。

お父様にもうお会いできないかもしれないと思うと、リーリアはまっすぐに立つこともできません。


お兄様。

お会いしたいです。

ふたりで、お父様の無事をお祈りしたい。

お兄様が傍にいてくだされば、お父様の無事を、ただひたすらに祈れるのに…。


気を緩めるとまた、うつうつとした考えに飲まれそうだ。

わたくしは窓の外を眺めていた目をとじた。

ゆるい呼吸を意識してはきだすと、体も心も疲れているからだろう、すぐに、うつらうつらとしてしまう。


そして、奇妙な夢を見た。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ