表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

156/190

サラベス王-2

スノーの顔に手を伸ばし、頬に触れる。


「ん?どうかしたか?」


「いや、なんとなくな」


スノーの頬をつつきながら言うと、スノーは急に優しい目をした。

ぽんぽんと頭を優しくたたかれて、わたしは目をふせた。


王になって30年。

スノーと連れ添って、30年。

それは決して、平坦な道ではなかった。

王としても、スノーの妻としても。

だが、ふりかえればなんと幸福な日々だっただろう。


スノーのさらさらした髪に手を伸ばす。

王のつとめなど、なんの興味もなく、自分の恋ばかりが気がかりだった小娘が、30年という長きにわたって王のつとめを果たせたのは、ひとえにこの男のおかげだ。


スノーは、礼族なみの魔力しかもたない。

わたしたちの間に最初にめぐまれた長男アールも、魔力は礼族なみだった。

他家にもわたしの後を継ぎ王となりえる魔力を持つ子どもが長年産まれなかったこともあり、下位貴族や礼族の一部からは、スノーとの性交渉は愛情表現にとどめ、子づくりは魔力の強い男としてほしいという進言も何度も受けた。

公けの場でも、スノーの魔力の低さをあてこする人間は多かった。


だがスノーはそれらの侮蔑をさらりとかわし、幅広い知識と社交術で、今ではグラッハになくてはならない人物だと認められている。

国を思い、努力邁進するこの男に認められ、手をひかれていたからこそ、今までの30年、わたしは王であれた。


だが、それももうおしまいだ。


「なぁ、スノー。わたしは、……そろそろ退位するよ」


「……あぁ」


スノーの目を見て言うと、スノーはそっと口づけてきた。

いたわるような触れるだけの口づけに、わたしは笑って言う。


「退位したら、アールのところにでも身を寄せようと思っている。……ついてきてくれるか?」


「答えは、わかっているだろう」


スノーはそう言って、また口づけてくる。


「あぁ。でも、まぁ、いちおう聞いておきたかったんだ」


嘘だ。

ほんとうはすこしだけ、不安だった。

スノーにとって、王でないわたしにも価値があるのかどうか。

そんなことを不安に思っていたなどと感づかれれば、それこそ鬼のように怒られるだろうが。

素知らぬ顔で、わたしはスノーと口づけをかわす。


グラッハのような大国の王というのは、魔力も生命力もごっそりと削られる。

30年というわたしの在位は、わたしから魔力と生命力を大量にうばっていった。

もう限界が近いことはわかっていた。

それでも少しでも次に王位を継ぐユリウスに猶予を与えたくて王位にとどまっていたが、ザッハマインの件で、もはや自分が王位にとどまるのは危険だと悟った。


思わぬ外敵の存在さえなければ、もう数年は王でいられたかもしれないが……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ