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まだ話を続けようとするエミリオの言葉を適当にうちきって、彼の部屋を出た。


エミリオは、いい子だと思う。

わたくしの不躾な態度にも怒ることなく、ただ心配そうにしていただけ。


けれども……、けれども。

わたくしは、もう、限界だった。


足早に自室に戻ると、待機していたメアリアンが気づかわし気にわたくしに視線を向ける。

お水をと頼むと、メアリアンは用意するために隣室へ行った。


……わたくしは、いま、どんな顔をしているのだろう。


わたくしは強い、と。

弱いとは思わないと、エミリオは言った。

強すぎて、心配なほどだとも。


その言葉は、例えこちらを思っての偽りであったとしても、嬉しかった。

けれども……。


そっとグラスに入った水を差しだされて、顔をあげる。

メアリアンは、やわらかな笑みをうかべていた。


「お水をどうぞ」


「ありがとう」


ひんやりと冷えたグラスを受け取り、水をひとくち含む。

清涼な冷たさが、わたくしを慰めてくれているようだ。


「エミリオ様には、明日の鍛錬はご一緒できないとお伝えしますか?」


「そうね。お願い」


「お食事の時間は、いかがします?リーリア様は当主の代行としてお忙しいので、エミリオ様と別にとられても不自然にうつらないと思いますよ」


「……いいえ。それは、必要ないわ」


きっぱりと断ると、メアリアンはかすかに眉を顰める。


わたくしってば、相当ひどい顔をしているのね。

メアリアンが一目見て、しばらくエミリオをわたくしから遠ざけようとするくらい。


そのことを自覚して、けれどもわたくしはメアリアンに笑って見せた。

強がりもあるけれども、それだけじゃない。


鍛錬は、どちらにしてもしばらくはお休みだ。

シャナル王子が不在とはいえ、王城での仕事はある。

王子がいらっしゃらないので毎日出勤する必要はないとはいえ、お父様が行方不明である今、わたくしは王城での仕事以外に、ハッセン公爵家の今後のためにしなくてはいけない仕事がいくつもある。

いつものように毎朝の鍛錬の時間は、とれない。


けれども、食事はもちろんいただく。

食事の時間を削って、わたくしが体調をくずすなんて、今もっともしてはいけないことだもの。

その際わたくしがエミリオと時間をずらせば、仕事があるからだという理由に使用人たちは納得しても、どこかに疑問は残るだろう。

それに、エミリオ自身は、わたくしがエミリオを避けていると気づくだろう。


そんなことは、あってはならない。

ハッセン公爵家の養子が、ささいなことで実子に疎まれる。

それも、当主が行方不明となったとたんに。

それは、世間の人間によぶんな憶測を呼びかねない。


ことに、実子がわたくしのように魔力が弱くて外に出る人間で、養子が優れた魔力の持ち主なら。

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