ガイ-4
責めるように私を睨むハッセン公爵の眼光は、鋭い。
だが譲れぬと覚悟を決めている私は、ただその非難を受け止めるだけだ。
ハッセン公爵が、エミリオとリアを添わせようと考えていたとしても、私はそれを受け入れることはできない。
公爵が決定をくだされれば、私がそれに逆らっても、なんの抵抗にもならないだろう。
だからといって二人が仲良くするのを手伝うなど、私にはできない。
さっきリアが、エミリオも家族になるのだから彼にも癒しの術を施すと言った時など、エミリオの頬を舐めるリアを想像して、とっさに彼女を止める言葉も失ってしまった。
もし現実にリアが私にしてくれたように、エミリオの頬を舐めているのを見たら、私はエミリオに暴力をふるってしまうかもしれない。
例えそのことによって、公爵甫としての道を閉ざされることになっても。
どれくらい、ハッセン公爵ににらまれていただろうか。
ふと公爵の眼差しが和らいだ。
そして呆れたように、一言おっしゃる。
「まったく君は頑固だね、ガイ」
「申し訳ございません」
私のこうしたところが公爵のお気に召さないのかもしれないと思う。
けれどハッセン公爵は、私の顔を観察するように眺めながら、くすくすと笑いだした。
「まぁ、今日のところは君のそんな顔を見られたから、よしとするかな。君もリアも、真面目すぎて困る。少しはエミリオの影響を受けてほしいものだが……」
やはり公爵は、エミリオをリアの夫にと考えているのだろうか。
ぐっと息をのんで、公爵の次の言葉を待つ。
だが公爵はまた突然、表情を一変された。
厳しくも重々しい「ハッセン公爵」としてのお顔だ。
「ザーシュ海が、最近騒がしいんだ」
ザーシュ海は、このグラッハ国の南の国境であり、天然の要塞だ。
波が激しく、海流が変わりやすいため、大型の船で海からこの国に上陸するのは非常に難しいのだ。
「イプセン国ですか?」
ザーシュ海を挟んだ大陸にある、最近拡大を続けている海洋国の名を挙げた。
ザーシュ海からこちらに上陸してきそうな敵対国とえいば、イプセン以外思い当たらなかった。
他の国はみんな小国で、国力の高いグラッハにあちらから挑んでくるとは思えなかった。
だが、ハッセン公爵は首を横に振った。
「いや。国じゃない。戦でもないんだ。……相手は、海賊だよ」
「海賊?」
「ああ。ずいぶん派手にやっているようだ。まだ国として対応するほどでもないが、いちおう君の耳にもいれておくよ」
「かしこまりました」
公爵の言葉に、頭を下げる。
これは彼が、私を公爵家の跡取り候補として重んじてくださっているという証なのだろう。
謹んでお受けし、情報を集める段取りを頭でする。
公爵はそんな私にひとつうなずき、立ち上がった。
「さて。エミリオが待っているだろうからね。朝食としよう」
「はい、お父様」
私と公爵は連れ立って、エミリオが待っているだろう食堂へと移動した。
次はリーリアに語り手が戻ります。