エミリオ-10
「エミリオ、……なにっ」
俺の腕の中で、リーリア姉様が小さくもがく。
その抵抗を押さえつけるように、腕にぎゅっと力を入れて抱きしめると、抵抗はますます強くなる。
弟とはいえ、まだ出会って数日。
年齢の近い異性の俺に抱きしめられるなんて、こわいのかもしれねーけど。
なんつーか、もう、限界っつーか。
見てられねーよ、こんなの。
親兄弟が戦いに駆り出されてって、それだけで残された家族は心配でしょうがないもんだ。
そのうえ、心配している当人は、こんな大きな家の仮の主人として、使用人たちを守っていかなくちゃいけなくて。
支えあえる家族でもいたら違ってたんだろうけど、リーリア姉様の傍には、今は俺しかいない。
使用人の前では、取り乱すことも、泣くことも制限されて、悲しみや不安を語り合える人は傍にいなくて。
で、今は父親が行方不明だ。
リーリア姉様は貴族だから、俺とは考えが違うんだって思ってた。
気丈な顔で、ガイ様を送り出したリーリア姉様は、俺たち平民とは考え方が違う、別種の人間なんだろうなーって。
心配はしてるんだろうってわかってたし、リーリア姉様の精神状態も気にはしていた。
でも、これが貴族の世界の普通なら、まだその世界がわかんねー俺が、あんま口を出すのはよくないだろうな、とか。
そもそもリーリア姉様の心は、俺の知っている「心」とは違うものなんじゃないかとさえ、疑っていた。
けど、さぁ。
こんなの、耐えられるわけねーんだよ。
大切な父親が行方不明で、頼りになる兄貴も傍にいなくてってさ。
貴族だろうが、平民だろうが、辛いに決まってる。
リーリア姉様、15歳の女の子だぞ!?
貴族の世界がわからねーからって、黙って見てるなんて、できねーよ!
俺はリーリア姉様を、ぎゅうぎゅうに抱きしめる。
同じ女の子の体でも、リーリア姉様の体はねーちゃんより細くてちっこい。
力加減に気を使いながら、でもちょっと痛いくらいに抱きしめる。
リーリア姉様がじたばた暴れる、けど離さない。
かわりに、耳元で囁く。
「とりあえず、泣いて」
びくり、とリーリア姉様の体が震える。
本気で怖がらせる気なんてないから、慌てて付け加える。
「ちょっと痛いだろ?だから、泣いていいんだって。ぎゅうぎゅうに抱きしめられて、体が痛いから、ちょっと泣く。あたりまえのことだろ?」
腕の中のリーリア姉様が、とまどっているのを感じる。
ヤバい。
やることズレてたかな?
責任感と貴族の体面ばっか重要視しているリーリア姉様が、気を許せない弟の前で泣くのには、なんか理由がいるかなって思ったんだけど。
ちょっと腕の力を弱めて、とんとんとリーリア姉様の背中をたたく。
リーリア姉様は俺の腕の中で顔をあげて、俺をじっとみあげてくる。
なにがなんだかわからないって顔をしているリーリア姉様の目から、涙がぽたぽた落ちた。