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コンラッド王子の登場ですこし遅れたけれども、予定通り荷物をまとめると、今日の仕事はおしまい。
他の小翼たちとともに王城をさがって、家に戻る。
城での仕事は終わりだけれど、わたくしは今日は家でも一仕事しなくてはならない。
帰宅するとすぐに皆を集めて、お父様が行方不明であることを伝える。
その場に動揺がはしったけれども、誰も声をださなかった。
さすがハッセン公爵家の使用人だと誇らしく思う一方、無様だった王城での自分のふるまいを思い出すと、情けなさが一層身に染みる。
けれどその場で、情けない表情をさらすのは止まれた。
ここでのわたくしは、ハッセン公爵家の娘。
お父様もお兄様もいらっしゃらない今、彼らを守り、指揮するのはわたくしだ。
そのわたくしが、彼らに情けない顔なんてできるわけない。
わたくしは背筋をのばし、毅然として言う。
「現在、シャナル王子と文化部研究院のジャッタ・ノレン様が、お父様の救出に向かってくださっています。サラベス王は、お父様が無事だろうとおっしゃってくださいました。きっとお父様は、ご無事でお帰りくださいます。皆も、普段通り務めるように」
執事や家令には、いくつか別に指示を出す。
けれども他の者には、普段通りに仕事に勤めるようにと言った。
お父様は、きっと戻られる。
わたくしは、それまで家を守るだけだ。
使用人たちはそれぞれ持ち場に戻ったけれども、今日はどこでもこの話でもちきりだろう。
彼らは彼らでお父様の安否を案じ、この家の未来を案じ、自分たちの未来を思う。
せめてお兄様が戻ってきてくだされば、心強いのに。
お父様をお助けするために、お兄様はこちらへは戻れないのだとわかっているのに、そんなことばかり考えてしまう。
皆も、家にいるのがわたくしだけでは不安だろう……。
わたくしは、不安でしかたがない……。
お父様の無事を信じようと決めたのに、わたくしは弱い。
すこし気を抜けば、不安に溺れてばかりいる。
「リーリア姉様……」
そっと声をかけられて、はたと気づく。
わたくしの傍には、エミリオがいた。
いつもは快活なエミリオの表情はかたく、形のいい眉をひそめて、わたくしを見ている。
「エミリオ。……あなたにも、心配をかけてごめんなさいね」
「俺のことより、」
エミリオが、なにかを言いかける。
その言葉をきかねばと思うのだけれども、おじ様がおっしゃっていたことを伝えなくてはとも思う。
おじ様は返事はいそがないとおっしゃったけれども、エミリオもこの先の進退が不安だろう。
もしこのままお父様が戻られない場合でも、エミリオはクベール公爵の養子になれるということだけは伝えなくては。
「……すこし、二人で話しがしたいわ。いいかしら?」
「あたりまえだろ」
エミリオはほっとしたように応えると、わたくしの手をつかむ。
「俺の部屋に行く?」
「そうね……、そうしましょう」
わたくしはエミリオに手をひかれるまま、彼の部屋に向かう。
心配そうにこちらを見ているルルーとメアリアンには、だいじょうぶよと手を振った。
ふたりにも、後でいろいろ話をしよう。
お父様はきっと無事で帰ってこられると、シャナル王子やサラベス王の頼もしさを、たっぷりと語って、安心させてあげなくては……。