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さて、王子宮に戻ったわたくしとハウアー様がまっさきにしたのは、侍官たちへの現状の説明である。


ハウアー様はシャナル王子のお荷物をまとめるために王子宮に戻った際、王子がザッハマインへ向かわれることだけは侍官たちに伝えていたらしい。

けれど先ほどは細かな事情など語る時間はなかったので、王子宮へ戻るとすぐに侍官たちを集め、王子がザッハマインへ向かわれたのはハッセン公爵を助けるためだということなどを簡単に語られた。


侍官たちは、七将軍のひとりであるハッセン公爵が行方不明だということ、王子が向かわれたのは任務のためだということに驚き、口々に声をあげた。

ざわめきはハウアー様のひとにらみで収まったけれど、彼らの視線が、わたくしへ集中するのはいたしかたないことだ。

わたくしは黙ってその視線を受け止めた。


シャナル王子がザッハマインへ向かわれたのは、王の命令を受けてのことだ。

王が命じ、王子が受けた任務について、わたくしがなにかを語ることはできない。


けれどもお父様が任務中に行方がわからなくなるという失態を犯し、それを助けるために彼らの主であるシャナル王子を危険にさらしたことは事実。

王たちはお父様の姿を消した禁術については語ることを禁じられたので、お父様は犯人が使った魔術によって姿を消したことになっている。

禁術という特異な存在を語れない分、お父様の失態は、彼らの目に大きく映るだろう。


わたくしはお父様の娘として、彼らの責めを受ける覚悟はできている。

じっと彼らの視線を受け止め、彼らがわたくしを責めるのを待った。


けれど、彼らは誰も、わたくしを責めなかった。

それどころか、侍官のひとりは「ハッセン公爵が……」と、はらはらと涙をこぼして言葉につまる。

侍官たちの後ろにひかえていたシスレイは小走りにわたくしに近づき、わたくしの手をとった。


「リーリア。きっとハッセン公爵はご無事で戻られるわ」


「シスレイ……」


大きな目に涙をたっぷりためて、シスレイが言う。

わたくしはシスレイの暖かな手を握り返し、「ありがとう」と言った。

すると他の小翼たちも、つぎつぎにわたくしに近づき、励ますように言葉をかけてくれる。


「だいじょうぶよ、リーリア・ハッセン。シャナル王子があなたのお父上を助けてくださるから」


クノエ様まで、そう言ってくださった。

誰一人、失態を犯したお父様やその娘であるわたくしを責めない。

ただくちぐちに、お父様はきっと無事だとおっしゃってくださるばかりだ。


ハウアー様は呆れたように皆様を見ていらっしゃるけれども、仕事中だからと言って止めることもなく、わたくしに励ましの言葉が与えられるのを見守ってくださっていた。


……ほんとうに、いい方ばかりだ。

このような危機的状況だからこそ、あらためて周囲の人々のお心がわかる。


シャナル王子との恋を押し付けようとされた時は、王子宮の方々には困ると思ったけれども、そんな自分が恥ずかしかった。

あの時もきっと皆さまはただお優しい気持ちでおっしゃってくださっただけなのかもしれない……。


わたくしは顔に笑みを浮かべ、皆様の言葉にお礼を返していた。

するとその時、扉をたたく音がして、性急にドアが開かれる。


「先触れもなく、ごめんね。シャナルはまだいる?」


ひょいとドアから顔を出したのは、銀色の髪の少年。

第三王子コンラッド様だった。

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