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シャナル王子-17

花将門へ移動する道すがら、ずーっとリアに手をつないでもらった。

キスは言えなかったけど、「ちょっとだけ不安だから。手をつないでいて」ってお願いは余裕で言える。

もちろんリアは快諾してくれて、僕の手をぎゅっと握って、寄り添うように傍にいてくれて。


それを、行きかう官吏たちが見ていた。


リアも、その視線には気づいていたっぽい。

でも視線に気づいても、僕から離れようとはしない。

自分の父親を救うために危険な場所に行く子どもを励ますほうが、自分へのあからさまな視線への対処よりも優先されるからだ。


リアのそういう感情は、いい子ちゃんな人間なら当たり前なんだろうなー。

まるっと利用してごめんねって、心の中で謝っておく。

その一方で「あ、そこの廊下の端でこっち見て噂話している官吏たち。ちゃーんとこの件、ひろめておいてね」とも思っているけどさ。


散々周囲の興味をひきながら、僕たち一行は花将門にたどりついた。

王城のとある場所にある機密魔術バリバリの部屋に入ると、そこには大きな門がどーんとある。


蔦と花が全体に描かれた巨大な門の前で、ハウアーから荷物を受け取る。

右手に荷物、左手はノレンと手をつなぐ。

移動魔術の効率をよくするためにはしょーがないんだけどさぁ。

さっきまでリアのやわらかい手とつないでいた手に、しわしわのじーさんの手をつなぎなおすのは悲しすぎる……。


ため息が出そうになるけど、それを飲み込んで神妙な顔でサラベス王の出立の言葉を聞く。

ま、気を付けていってこいってだけだけどねー。


ふんふんとうなづいていたら、ハウアーが荷物を再チェックするふりして、僕に耳打ちしてくる。


「王子には必要がない忠告かもしれませんが。……王子が行かれる場所は、敵に荒らされた場所です。くれぐれもお心を強くもってください」


「……へっ?あぁ、うん。ありがとう……?」


ハウアーはちょっと迷っているっぽく、けど真剣に言ってくる。

心を強く?

って、僕にわざわざ言うの?

けっこう僕、心臓強いと思うけどなー。


ハウアーは、僕が王城に来てからずっとついていた侍官だから、けっこう僕のこと知ってると思ってたけどな。

そんなこと今更言ってくるなんて、ねー。


必要がないかもってわざわざつけ加えているだけ、僕のことわかってるって思うべきかな?

リアなんて、心配で心配でたまらないって顔しているからね。

ま、そういうとこもリアのかわいいとこだけど。


僕はハウアーに小声で礼を言い、ついでにサラベス王にも出立の挨拶をする。


「サラベス王。ノレンをつれて、ザッハマインへ最速でたどりつき、ハッセン公爵を無事に取り戻せるよう尽力いたしますことを、ここに約束いたします」


「こんな重要な役目をわたくしに任せていただき…うんぬん」とは言わない。

「国のために」とかも。


僕が動くのは、リアのためだ。

王たちには、それをちゃんと心得てもらわないとね。


僕って魔力を利用するために、リアで釣ったんだ。

僕がこっちに帰ってくるまで、もしもなにかリアに危険があったら、ちゃんとリアを守ってよね。

じゃないと僕、本気でキレるよ?

それこそ今回の賊の比じゃない危険人物になるからね?

っていう重圧を、王にビシバシぶつける。


サラベス王は鷹揚に笑って、


「気を付けて行ってまいれよ、シャナル。ノレンも、無事帰ってくるのを待っているからな」


「ありがたいお言葉を賜り光栄です。必ずやハッセン公爵も無事に取り戻し、帰ってまいりましょう」


ノレンは大仰に言って、頭を下げる。

おい、じーさん。僕と手をつないでいること、忘れてないよね?


バランスを崩しそうになって、いったんノレンと手を離す。

ていうか、ギリギリまで手なんてつながなくてよかったんじゃん。

まぁもう準備も整ったし、すぐ出立するんだけどね。


僕は花将門のすぐ下までノレンと手をつないで歩く。

そして最後の挨拶とばかりにくるりと身を返して、……リアのもとに走る。

そんで、涙目で僕を見ていたリアに、ぎゅっと抱き付いた。


「かならず、ハッセン公爵は無事に連れて帰ってくるから。待っていてね!」


僕よりは大きい、けど華奢で小柄なリアの体は、抱き付くとやわらかい。

へっへー。

キスはできないけど、これくらいの役得は許されるよねー!


クベール公爵が怒鳴りかけているのを見て、すかさずリアから手を離し、ノレンの手をつないで花将門をくぐる。

背中から、リアのかわいい声が聞こえてきた。


「シャナル王子!お待ちしています!だから、どうかご無事で……!」


ぁー、かわいいなぁ。

やっぱり帰ってきたらキスしてって言えばよかったかな?


まぁ、いいや。

とりあえず今はハッセン公爵を最速で助けなくちゃだよね!


ここまで大見得きって、ハッセン公爵の存在が消えちゃうのに間に合わなかったら、リアに合わせる顔ない。

僕は魔力をガンガン展開して、花将門を駆け抜ける。


隣でじーさんが「殺す気か、小僧!こっちの体力も考えろ!」とか言ってるけど…。

聞こえないってことで、いーよね!

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