シャナル王子-15
ちょっと長めです。
ハッセン公爵の命は、けっこうヤバめらしい。
助けるためには、僕がノレンってこのおしゃべりじーさんを連れてザッハマインへ行かなくちゃいけないそうだ。
ようやく僕とリアが軍事会議所に呼び出されたって違和感ありありな状況に、納得。
……なんつーか、ほんっと大人ってやること汚いよねー。
今回に限っては、僕的にはラッキーだけどさ。
呆れ混じれにサラベス王たちへ視線を向けても、誰も顔色も変えない。
ちょっとくらい罪悪感もってもいいんじゃないかって思うんだけどね。
クベール公爵なんか自分だって仕掛けてきたサイドのくせに、なんの責任転嫁なのか、僕のこと睨んでる。
そうとう僕のこと、気に食わないんだろうな。
でも、だーいすきなお友達のハッセン公爵を助けるためには、僕の力を借りるしかない。
口出しなんて、できないよね。
大人って、ほんとズルくて、卑怯。
自分がつくりだしたこの罠を、他人のせいにするなんてね。
うん、でもこの状況はほんっとありがたい。
据え膳ってやつだよねー。
ありがたく大人たちの策略に乗って、まるっと、いただきます……!
リアは、父親の命がかかっている時でも、リアだった。
幼い王族だからって理由だけど、僕をかばって、王の決定に異を唱える。
ハッセン公爵の無事を祈っているのは、リアだって誰にも負けないのにねー。
がたがた震えて、でも僕をかばってくれるリア。
大好きだよ。
……僕がいい子なら。
ガイ・ハッセンみたいな男なら、リアのことを心底かわいそうに思って、かばおうとするんだろう。
僕だって、リアが好きだから、父親がいなくなるかもって恐怖と悲しみにうちひしがれるリアをかわいそうだと思う。
かばいたい、助けてあげたいって思ってる。
でも、僕はリアが欲しくて。
ふつうの手段じゃ、リアは僕のほうを見てくれないって知っていて。
そんでもって、ここに居並ぶ大人たちと同じくらい卑怯者なんだ。
良い子のリアは、サラベス王をすさまじく尊敬している。
だから、大人たちの思惑に気づいていないんだろうな。
いくらハッセン公爵が任務中に行方不明になり、つい先ごろ養子に迎えたエミリオ以外に身内が王都にいないとはいえ、軍部に所属しているわけでもない小翼のリアが軍部会議所にまで呼び出されるなんて、おかしいんだよね。
使いの者か、それこそクベール公爵みたいなプライベートでも付き合いのある人間が、私的な場で教えればいいことなんだもん。
こんな王たちお偉いさんが居並ぶ会議にリアを連れてくる必要なんて、本来ならないはずなんだ。
軍事作戦なんて、ふつうならリアには関係のないことなんだもん。
なのに、リアが僕と一緒にここに呼ばれ、ハッセン公爵を助けるための手立てを延々と説明されているのは、ずばり。
リアは、僕を動かすためのエサなんだってこと。
ザッハマインなんて遠方まで、じーさんと一緒に移動するなんてちょー嫌だ。
リアが弱っている時なら、傍にいてすかさずつけいりたい。
側を離れるなんて、論外だ。
けど、それがリアのためならしょうがないって思う。
王たちの思惑とは別に、リアは僕をザッハマインへやることを反対したけど、王たちはきっとリアが父親を助けるために、僕にザッハマインへ行ってくれって頼むだろうって思っていたんだろう。
リアに頼まれたら、僕はきっと動く。
それを見込んで、リアをここに連れてきたんだ。
……そんでもって、僕がここで動けば。周囲の人はきっとこう考える。
”求婚している年上の令嬢のため、彼女の父を救うべく、自らの危険を顧みず戦地に赴く王子”って。
戦地はいいすぎか。
でも、きっと人々はそれくらいドラマティックに解釈して、噂をするだろう。
令嬢と王子のロマンスを期待して。
その噂をうまくあおれば、民衆はやがて、リアと僕が結ばれるハッピーエンドを期待しだす。
ここにくるまでも、僕とリアは手を取り合って移動していたしねー。
細工は上々ってやつだ。
これが、僕へのご褒美。
エサであるリアには内緒の、大人たちが提示した条件。
きっと僕が昨日、リアにふられたことも彼らは知っていて、こんな場面を作り出したんだろう。
うまく僕が利用すれば、リアとの婚約を周囲がお膳立てしてくれる状況を。
きっとリアは気づいていない。
僕は、気づいている。
それが、リアが望まない結果を生むということも。
知っていて、リアを手にいれるために都合がいいからって、僕は言うんだ。
「僕、行くよ。リア」
父親を思う気持ちを抑え込みかばっていた僕の言葉に、リアは目を見張る
そんな裏切られたみたいな顔しないでよ。
僕のことをリアがかばってくれているのは知っている。
リアはとっても、いい子だよ。
でも、だから、こんな性質の悪いのにすかれちゃうんだよ……?
でもでも、リアだって本当は、ハッセン公爵を助けたいんだから。
きっと僕がすることを許してくれるよね?