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それは、あまりにも恐ろしい想像だった。


身体の血という血、魔力という魔力が凍り付くようだ。

視界はぐらぐらと揺れ、体からは力がぬけていく。

なのに頭だけはさえざえと、スノー様のお言葉を吟味する。


お父様がご無事でいらっしゃるなら、ご自身でご連絡されるだろう。

お父様自身が傷をおってご連絡がままならなくとも、お父様の身柄を発見していれば、ザッハマインに詰めている軍人や街の人が連絡してくれるはずだ。

敵を追ったまま、お父様が姿をけされてご連絡がないということは、お父様は敵の手にとらえられたのだろう……。


ザッハマイン襲撃の犯人が、義賊の海賊ラジントンであるにしろないにしろ、一国に弓をひいた人間がただの善良な人間であるはずはなかった。


ハッセン公爵といえば、グラッハの常勝将軍として名をはせている。

そんな人間を手に入れたなら、賊がお父様を見逃してくれる可能性など、万に一つもなかった。


万が一、犯人がお父様をハッセン公爵だと気づかなかったにしても、お父様が自分を追う国軍の上位軍人だと気づかないはずはない。


唯一の希望は、お父様の死体が、まだ見つかっていないことだろう。

敵の上層部の人間を仕留めたのならば、賊がその死体を目立つところにさらさないはずはない……。


敵がお父様を捕らえたのに殺していないのであれば、お父様の身柄を拘束し、その身を人質として、こちらになんらかの交渉を行う可能性は高い。


冷静にそこまで思考をめぐらせて、わたくしはこみあげてくる吐き気をこらえた。


……お父様の身柄を質にとって、交渉?


確かに、ハッセン公爵をつとめるお父様は、グラッハにとって欠かせない人材だ。

けれどお父様の魔力は、お兄様がおぎなえなくはない。

今のお兄様がハッセン公爵がおさめるべき領に、お父様と同じほど豊かな魔力を満たすことは難しいけれども、薄く魔力を敷くならできるだろう。

将軍としても、お父様には及ばぬものの、力ある軍人はいなくもないはずだ。


お父様という人間はわたくしたちにとって唯一無二の存在だけれども、国にとって本当の意味で替えのきかない人材ではない、はずだ。


誰かに何か不測の事態が起こっても、他の誰かが補えるように極力後人を鍛えておくことが重要なのだと、お父様はよく言っていらっしゃった。

お兄さまにハッセン公爵としての仕事を伝えてこられたように、七将軍としても後人を育てていらっしゃるはずだ……。


グラッハ国は、サラベス王は、お父様をお見捨てにならないかもしれない。

お父様は長年グラッハに貢献されてきた。

今だって、その実力は衰えず、お父様がいなくなればその穴は大きい。

グラッハにとって、小さくない影響があるだろう。


それに国として、名のある将軍をあっさりと見捨てるなどすれば、国民の敬意を失う。

近隣の国からのそしりも、免れないだろう。


けれど、だからこそ。

たとえば、わたくしがお父様のお立場なら、どうするだろうと考える。


お父様に育てられ、お父様の「貴族としてあるべき理想の姿」を教えられたわたくしなら。

自分の魔力や、役職が他の人間で補えないことはない現在の状況で、自分の身が捕らえられ、国が敵に交渉を求められるような弱点になっているのだとすれば。


……わたくしならば、自分で自分の命を絶つ。

お父様も、ご自分で命を絶ってしまわれるかもしれない……。


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