ガイ-2
礼族フッセン家で生まれた私は、幼いころから頭のいい子どもだったらしい。
5歳の時に受けた魔力検査でも好成績をだしたため、実家の両親は私を貴族家に養子になりうる人材として、10歳の礼式まで厳しく育ててくれた。
その成果は実り、10歳の時、私はハッセン公爵家の養子となる。
実家の両親は大喜びしていたが、私としては家庭教師たちに繰り返された言葉を思い出しただけだった。
「強大な力を持つ人間は、そのすべての力を国のためにささげるべし」
ハッセン公爵家の養子になり、いつかハッセン公爵として、国のために働く。
それが自分の人生なのだと、淡々と考えていてた。
だが、ハッセン家に入り、ハッセン家の実子であるリーリアに出会った瞬間、私の心の中の何かが変わった。
幼い少女に向ける「べき」優しそうな笑顔を機械的にうかべた私に、リーリアは花が開くような笑みで応えた。
彼女の甘えるようなしぐさ、寄せられる信頼、私を頼ってくる手。
それらのひとつひとつが私の心を動かし、いつのまにか私はリアを愛するようになっていた。
いつかハッセン公爵となった時、リアに妻としてそばにいてほしい。
それは私にとって、生まれて初めての我欲だった。
けれど現在の私の身分では、リアを妻に望むことはできない。
現在の私はハッセン家の養子であるものの、正式な公爵甫ではない。
武のハッセン家の跡取りとして正式に公爵甫と認められるためには、戦功をたてるか、成人して当主から指名されるかしなければならない。
この十年近くこの国で戦はないため、戦功をたてる機会もなかった。
自分の欲望のために戦を望むほど愚かではないが、このままでは20歳の成人を迎えるまで、私は「何者」になるのか定まらないただの未成年者でしかない。
未成年者には、伴侶を得ることも、求婚することも許されない。
今の私は、リアに求婚することもできない。
だが、これまでは、私の望みは認められているのだと思っていた。
ハッセン公爵がリアに施している教育内容をみれば、彼女を成人後も貴族の一員として留めるつもりなのは察せられた。
リアは魔力量はさほど多くなく、武力はかなり弱いが、真面目な努力家なので、魔術もそれなりには扱えるし、頭もいい。
公爵家を継ぐほどの実力をつけることは難しいが、子爵家程度ならば当主にもなれる実力はあるし、公爵の妻となる程度の実力もあった。
それに、ハッセン公爵は、リアを溺愛している。
だから彼女を他家に出す気はないと、思っていた。
他家の当主となるにしろ、他家に嫁に行くにしろ、公爵家とは仕事も異なるし、身分も異なる。
他家に出してしまえば、今のように娘を手元においてかわいがることなどできなくなるのだから、リアを私の妻にして手元におくことを公爵も望んでいらっしゃると……、いささか自分に都合のいい予想ではあるが、そう考えていたのだ。
実際、リアはハッセン公爵の前でも私のことを「大好き」だと公言してくれているし、私もリアへの思慕はあまり隠していない。
それでも公爵は私たちの関係に待ったをかけるでもなく、これまで見守ってくれていたのだ。
だから私は、公爵も私がリアを妻とすることを認めてくださっているのだと、口にはだせないが思っていた。