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卓についているのは、サラベス王、王配スノー様、軍部大臣ガイラス・ツゥボーン伯爵。お父様以外の七将軍の方々。それに数名の文官だった。
サラベス王はふくよかな体型の、落ち着いた容姿の女性で、背は高くない。
けれどそのお小さいお姿とは対照的に、周囲を圧倒するような威厳と魔力をお持ちだ。
何度かお会いしたことはあるものの、この方を目にすると「王」への畏敬に震えそうになる。
王の視線を感じるだけで、椅子にすわっているというのに、頭を下げたくなってしまう。
わたくしはそっと王から視線をそらし、アルフォンソおじ様に視線を向けた。
七将軍のおひとりであるアルフォンソおじ様は、クベール公爵としてこの場に列席されている。
ザッハマインが襲撃され、事態を収めにいった同じく七将軍のひとりであるハッセン公爵が行方不明という事態に、厳しい表情を崩さない。
けれどわたくしと目があうと、その青い目の奥に、わたくしへの気遣いがうかぶ。
そしておじ様が押し隠そうとされている友を想う焦燥と、敵への怒りにも、わたくしは気づいた。
……お父様を心配しているのは、わたくしだけではない。
そのことに、すこし勇気づけられる。
「シャナル王子。リーリア・ハッセン。とつぜんの呼び出しで驚いただろう。申し訳ない」
わたくしとシャナル王子が席に着き、同席している方々に目礼すると、スノー様が口を開かれた。
「あー、もう。そういうの、いいから。さっさと用件をお願いします、お父様。ハッセン公爵が行方不明って、どういうことなの?」
スノー様が形式的な挨拶を口にされると、シャナル王子がそれを遮るように口をはさむ。
文官たちや、壁際に控えていた軍人たちがはっと息をのんだ。
この場は、大臣たちも列席する公式の場だ。
いくらシャナル王子がサラベス王と王配スノー様のご養子とはいえ、無礼がすぎる。
けれど、王やスノー様、軍部の上層部の方々はシャナル王子の態度を気にした様子もない。
スノー様がサラベス王に視線を送ると、サラベス王は首を縦に振る。
スノー様は、シャナル王子にちらりと目をむけたけれども、王子に声をかけることはなかった。
そのままわたくしへと視線を移し、落ち着いた声音で話される。
「この度、ハッセン公爵がザッハマイン襲撃の主犯を捕まえるため、任務についていたことは知っているね?さきほど、ザッハマインから遠話が入った。ハッセン公爵が主犯を追っていた時に、姿が見えなくなったと」
「姿が見えなくなった、とは……。父は、賊の手に落ちたということでしょうか?」
わたくしはスノー様の青い目を見て、言葉を返す。
目の前が、ぐらぐらする。
お父様が、消えた。
ザッハマイン襲撃の犯人を追っていた最中に。
行方不明だときいていたけれど、事態は思ったより悪いらしい。
任務中というのがザッハマインで職務に当たっている際という広い意味ではなく、まさに襲撃の主犯を追っている時という意味だったなんて…。
その言葉の意味するところは、ごくシンプルな答えの言い換えにすぎないと思えた。
お父様は、敵の手におちたのだ。
最悪の場合、もうお亡くなりになっているかもしれない。