シャナル王子-14
軍部会議所は、重大な軍事会議の時にのみ使われる会議所。
ここで話されることは、軍事の最重要機密だから、盗聴禁止の魔術とかがかけられている。
あと外国の偉い人との軍事的な話し合いにも使われるから、会議所の中での魔力の無力化、武器使用の無力化のわりと強い魔術がかけられているんだよねー。
だからここに出入りするのは、軍部のお偉いさんたちや王族がほとんど。
王子である僕も、滅多に入る場所ではない。
軍部の所属でもないリアは、このエリアに来るのも滅多にないらしくて、軍部会議所の扉を見るのも初めてだったみたい。
会議所を取り巻く魔術に気づいたのだろう、その膨大な魔術に驚き、息をのんだ。
けれど、それも一瞬だった。
リアは毅然とした表情で、僕を見ると、握ってくれていた手を離してしまう。
「ありがとうございます、シャナル王子。ここからは、もうだいじょうぶです」
……だいじょうぶって顔には見えないけどね。
さっきまで僕の手を握ってくれていたリアの指を見つめながら、僕はいつもどおり「僕が怖いから。手をつないでいて」って、リアに甘えているふりをしてその手を握ろうとした。
けれど、リアは静かに首を横に振って、断った。
「お恥ずかしいところをお見せいたしましたが、わたくしもハッセン公爵家の者です。これ以上の醜態はさらせません」
青ざめた顔のリアにきっぱり言われたら、それ以上何も言えない。
醜態、かぁ。
だよねー。
いっつも「貴族としてー」って気合いれているリアにしてみたら、青ざめて子どもに手をひいてもらうなんて、醜態だよね……。
そんな姿を王城のやつらに見られるの、嫌だったんだろうな。
よかれとおもってしたことも、リアに関してはいつも空回りばっかりだ。
悔しくて唇をかむと、リアはぎこちなく笑う。
「シャナル王子のお心だけ、ありがたく受け取らせていただきます」
リアの笑顔は苦しそうで、こんな時まで気を使わせてしまう僕が、僕は自分で嫌だ。
けど、ちょっとだけだけど、リアはほんとうに嬉しそうにしてくれたから。
こんな僕でも、ちょっとはリアの気持ちの支えになれたのかなって、救われた気がした。
「シャナル王子、どうぞ」
ハウアーに促され、軍事会議所の扉をくぐる。
魔力制約の魔術が、体を覆うのを感じる。
まぁ、この程度の魔力制約なんて、規格外の魔力の持ち主である僕には、たいした影響力ないんだけどね。
……僕で影響ないってことは、サラベス王にとっても影響力ないんだろうなー。
案外この魔術、ザルじゃないの?
こんなんで警備とか、大丈夫なのかな?
ま、僕には関係ないけどね。
けどこの魔術も、リアにとってはけっこうキツい魔術みたいだ。
扉を通った瞬間、もともと青かった顔色がさらに青ざめる。
扉の横に控えていたハウアーが、リアに手を貸す。
成人男性なハウアーは、小柄な女性であるリアより背が高い。
ふらりと足元をよろけさせたリアの肩を抱くように支えたハウアーに、一瞬、殺意ににた怒りを感じる。
ハウアーがリアに触れていたのは一瞬だったけれども、リアがはずかしげにハウアーを見て礼を言ったのが気に障って仕方ない。
そりゃリアよりずっと小さい僕じゃ、あんなふうに支えられなかったけどさ。
必死でリアを守るんだ!って思っていても、手を握るのが精いっぱいだったよ。
あああー、ムカつくなぁ。
こんな場面でもいちいち、自分がリアには釣り合わないお子様だって思い知らされる。
だからって、あきらめる気なんてないけどさ。
「子ども」ってことを武器にしてリアに近づく作戦は、昨日の告白で使えなくなったみたい。
異性として僕のことを見るっていってくれたリアは、今日は僕へのスキンシップが控えめで、僕からくっつこうとしてもかわされる。
ま、予想はしていたけどさ。
でも、僕はリアに比べて年下で、「子ども」なわけで。
これが覆せない以上、「子ども」を武器にして近づけないのは痛い。
リアは愛する父親が行方不明で倒れそうなのに、なんで僕ってこんなことばっか考えちゃうんだろうなー。
はー、やだやだ。
でも、つい考えちゃうんだよなー……。