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そうして、1日はせわしなく、けれど平穏にすぎていった。
王子は勉強の合間に魔力充でお忙しく、わたくしは王子宮の小翼たちたやシスレイと一緒に粛々と仕事をしていた。
シャナル王子がおっしゃっていたように、王子宮でも小翼見習いたちは参内をさしどめされているため人手はたりておらず、慣れないわたくしやシスレイでもそれなりにお役に立てていたと思う。
王城内部には詳しいわたくしとシスレイは、あちこちの部署へのおつかいとして、主に働いていた。
そうして忙しくしていると、1日はあっという間だった。
お父様やお兄様のことが頭に浮かぶことはあるけれども、考え込んでいる暇などない。
これもシャナル王子の心遣いなのだと思うと、時折顔をあわせる王子の笑顔に胸が痛くなる。
なんとしても王子には早々に、心を許せるわたくし以外の相手を見つけてさしあげなければと思う。
けれども、異性として王子のお気持ちを心に留めておくと約束した今、それも王子の心を裏切るようで、心苦しい。
わたくしがお兄様に、「リアに、いい男を探してあげる」なんて言われたら、その日は泣いて暮らすに決まっているもの。
とはいえ、わたくしがお兄様への恋をあきらめるつもりはない以上、王子には別のお相手をと望んでしまうのだけれども。
手近なところで、王子宮の小翼たちはどうかと思って今日一日観察していたのだけれども、昨日彼女たち自身がいっていたように、彼女たちは仕事以上の感情を王子には抱いていないようだった。
それも当然といえば当然だ。
わたくしたち小翼は基本的に、まだ仕事に不慣れだ。
少しでもはやく仕事に慣れ、正式に配属される際により自分が望んでいる立場につくために、必死で日々を過ごしている。
あちらこちらに目をやり心を砕けるほど、器も大きくなく、余裕もない者が多い。
わたくしたちも含め、みんなまだまだ未熟なのだ。
シャナル王子が異性として意識できる年齢なら、また違っただろう。
見目麗しく有能な王子のお傍にいれば、恋愛感情を抱き、シャナル王子に特別に心を砕く者もあらわれたと思う。
けれど現在のシャナル王子は、わたくしたちが恋愛対象とするには幼い。
そのくせ小翼のわたくしたちが純粋に庇護対象としてお守りせねばと思うほど、シャナル王子は幼くも頼りなくもない。
むしろ魔力的にはわたくしたちなど足元にも及ばないほどお強く、子どもっぽい態度とは裏腹に飄々としているシャナル王子は、わたくしたちが庇護対象としてみるには優秀すぎるお方だ。
仕事としてお仕えする対象としては敬意を払っていても、王子宮の小翼たちがそれ以上の感情を持てないのも、ある意味仕方ないことだった。
けれども、わたくしたちよりも精神的な余裕があるだろう正式に王子宮に配属されている官吏たちは、わたくしよりも年上で、王子の恋の相手としては少々年齢が離れすぎている気がする。
恋愛という対象でなければ、彼らは王子を小翼よりずっと大切に思ってはいるようだけれども。
別に恋愛の対象でなくとも、王子が、わたくし以外にも自分を大切に思ってくれている人がいるのだとわかってくれればいいのだ。
というよりも、幼い王子のお傍にいる侍官が王子に邪な感情を抱いているほうが問題だ。
……そんなこと、当たり前にわかっていたはずなのに。
けれども、王子の思慕が恋愛感情としてわたくしに向けられているため、ついつい代わりの恋のお相手をと思ってしまう。
……これも保身の一種だろうか。