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じっと、エミリオを観察する。
エミリオの食事を食べるスピードは、以前とくらべて遅いということはない。
むしろ少しはやいくらいで、お腹がすいているのかと思う。
わたくしの目の前で、トーストがみるみるうちにエミリオのお腹の中におさめられていく。
ポタージュも、何度もお代りを注がれていた。
我が家の朝食は軽めだけれど、メニューを見直すべきかしら。
とはいえ、この量を苦しげもなく食べているのだ。
顔が少し赤い気がするけれども、今朝の鍛錬も普通にこなしていたし、エミリオの体調が悪いということもないだろう。
けれどエミリオの態度が、どこか落ち着きなく見えるのも間違いのない事実だ。
体調が悪いのでなければ、心配事でもあるのかしら。
「今日も、家庭教師の先生方がいらっしゃるのよね?」
なにげなく予定を聞くと、エミリオはびくりと肩を震わせて、手に取りかけたパンを落とす。
……え?
自分が過剰な反応をしたことに気づいたのだろう、エミリオは何気なさを装って、つかみそこなったパンをもう一度手に取る。
「はい。俺は他の同年輩の方に比べて、勉強が遅れがちですから。できるだけ詰めて勉強することにしたんです」
「そう。熱心なのよいことだわ。けれども、まだこちらの生活にもなれてないでしょうから、無理はしないでね」
「はい。ありがとうございます。でも、今はなんかこう……ガーッと打ち込みたい気分なんで!」
「……そう」
「はい!」とうなずいて、エミリオはほっとしたようにトーストを咀嚼する。
会話自体はごく穏やかな内容で、エミリオの態度もおかしなものではない。
だけれども、やはりなにかおかしい気がする。
どこがおかしいのかは、わからないのだけど。
わたくしの気のせいではないと思うのだけれども、どうなのかしら。
今日はできればはやめに帰宅して、家庭教師の先生方にお会いしたほうがいいのかもしれない。
お父様の選んだ家庭教師が、エミリオになにか悪いことをしているとは思わないけれども、気が合わなくてエミリオの心理的圧迫になっているということはあるかもしれない。
エミリオは勉強に熱意をもって取り込んでいるようだから心配ないのかもしれないけれども、家庭教師に劣等感をあおるような物言いをされて焦っているということはあるかもしれないし。
こうして、見ている限りでは、エミリオの様子は悩んでいるというようでもないのだけれど。
わたくしは、あまり人間関係に敏いほうではないので、この判断があっているとも言い切れない。
シャナル王子のお気持ちも、ずっと深く考えたことなどなかったくらいだ。
判断は慎重にしなくては、と思う。
……それにしても、すこしばかり今日の参内は憂鬱だ。
どんな顔をして、シャナル王子にお会いすればいいのかしら。
シャナル王子は、昨夜、どんなお気持ちでお眠りになったのだろう。
すこやかにお眠りになられたのであれば、いいのだけれども……。
考え込んでしまっていると、エミリオの視線を感じた。
目が合うと、エミリオは顔を赤くする。
……やっぱり、具合が悪いのかしら。
そう思って尋ねると、エミリオはなんでもないと言う。
わたくしには、話しにくいことなのかもしれない。
わたくしとエミリオは年も近い異性だ。
ひといきに家族になるのは、難しい。
とはいえ、お互いに歩み寄っていかなければ、この関係は変わらない。
「今日は、できるだけはやくかえって参りますね」
そう笑いかければ、エミリオはぎこちなくうなずいた。