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目が覚めると、やたら元気だった。
昨日は散々な一日で、眠りにつく前はあんなに無力感にさいなまされていたのに、どうしてだろう。
なぜだか、心がふわふわうきだって、今日一日も頑張ろうと自然と思えた。
窓の外の小鳥の泣き声に耳を傾けながらぼんやりしていると、そういえばとてもいい夢を見たことを思い出した。
お兄様の夢だ。
質素な狭い部屋の大きなベッドにわたくしが寝ていて、お兄様がわたくしを優しくなでてくださる……、そんな夢。
思い出すと、ぼっと顔が熱くなる。
わ、わたくしったら、なんてはしたない夢を見ていたのかしら……。
あの、ベッドだけで占められた部屋は、以前メアリアンに借りた大人の女性向けの小説に出てきたホテルの部屋のようだった。
両親に結婚を反対された恋人たちが、手に手を取って駆け落ちし、その夜結ばれた部屋。
夢の中で、わたくしは夜着姿のお兄様とふたりで寝台にいたのだ。
な、なんて夢を見ているのかしら……。
まだお兄様に「好きです」とも伝えていないのに。
でもお兄様に触れていただいた感触が、まだ残っているよう。
わたくしが触れたお兄様のシャツの感触も、指先に残っているよう……。
こ、これ以上は、妄想がすぎますわね。
あまりはしたない思考は、お兄様に嫌われてしまいそう。
お兄様は、清廉な方だから。
ふだんわたくしがお兄様に触れる時だって、わたくしはとてもどきどきしているのに、お兄様はただ妹をかわいがるようないつくしみばかり見せてくださるだけ。
少しは女性として意識していただきたいのだけど、道のりは遠い。
お兄様の周りには、綺麗な方がいっぱいいらっしゃるもの。
今回の遠征でお兄様の配属されているチームには、女性はいらっしゃらなかった。
この非常時に、そんなことに気をまわしてしまう自分が、いやだ。
けれどなぜか今朝はさほど落ち込んだ気分にもならず、メアリアンの手を借りて、さっと着替える。
「なんだか、今日は嬉しそうでいらっしゃいますね」
メアリアンも不思議そうに、けれど安堵したように言う。
心配かけているのだろう。
わたくしは軽くストレッチをしならが、「ええ」と言った。
「どうしてかしら、今日はとても元気なの」
「ガイ様のお部屋にも忍び込んでいらっしゃらないんですわよね?ですのに、不思議ですわね。リーリア様から、ガイ様の香がしています」
「そう?……昨日は、お兄様の部屋には忍び込んでいないと思ったのだけど」
無意識に、またお兄様の部屋で、お兄様の香を探していたのだろうか。
だから、あんな夢を見られたのかしら。
自重しなければと思うけれども、またお兄様の夢は見たい。
今夜の行動を迷ってしまう。
けれど、どうあれ、今は体中がとっても活力に満ちている。
体中にかけめぐる気力が、はやくはやく動きたいと手足をそそのかしている感じ。
一緒に朝の走り込みをしたエミリオにも、驚かれた。