ガイ-9
ロザッタ州の州庁は、小州らしくこじんまりとした場所だった。
先発のたった10人とはいえ、我々が宿泊させていただくと、準備が大変そうだ。
それも彼らの職務とはいえ、申し訳なく思いながら、食事をいただく。
今日の食事は、豚肉を焼いたものがメインで、じゃがいもと人参をゆでたものがつけあわせについていた。
豚肉は分厚く、食べごたえがある。
味付けも濃く、味の薄いゆでたじゃがいもに合う。
しばし全員無言で食事をし、真っ先に食べ終えたバルが満足げなため息をつく。
「人心地、つきました」
その実感のこもったいいように、ナハトがげらげらと笑い声をあげる。
「ちげぇねぇ、なぁ!」
明るいナハトの笑い声に、他の面々もつぎつぎうなずいた。
今朝、リュカ州を出る際に、シュリー州の軍人が賊の大半を捕らえたこと、ハッセン公爵がシュリー州に到着したとの報告が入った。
我々先発隊は、このまま急ぎシュリー州に向かうよう命令がなされたが、後続部隊はこれまでのような緊急体制ではなく、通常の軍務通りの速度でシュリー州に向かうよう予定が変更されたそうだ。
逃れた賊は、主犯ひとり。
油断は禁物だが、これまでほどの緊迫感が薄れたのも事実だ。
捕らえ損ねたのが主犯というのは痛いが、グラッハの軍人として、シュリー州の軍人の活躍が嬉しかったのもある。
事態が起こってしまったことは遺憾だが、地元の軍人だけでほぼ敵を制圧したというのは、ささやかな勝利だ。
捕らえられた賊が、義賊として名をはせた海賊ラジントンを名乗ったと聞いた瞬間は、我々の間にもとまどいがあったが、ナハトは豪快に笑い飛ばし、我々に芽生えた疑念を消し去った。
「義賊?このグラッハにか?なら、当てが外れただろうなぁ。この国にゃ、襲えるような腐った貴族はいねぇよ!」
力強いナハトの言葉に、リヒトも笑いながら言葉を添えた。
「まぁ万が一彼らが本物の海賊ラジントンなら、街の被害は心配しなくていいので気が楽ですけどね」
皮肉なのか、本音なのかわからないリヒトの言葉に全員が笑った。
あっというまに我々の懸念をぬぐいさったナハトとリヒトに感謝しつつ、その技を頭に留める。
人とのコミュニケーションが得意ではない自覚があるので、彼らのようにそれに長けた上官の側にあれるのはありがたい。
人にはそれぞれ持っている役割や個性が異なるため、彼らのやりとりをそのまま俺がまねても同じような効果はうまないだろうが、いい手本は多ければ多いほど、学びに役立つ。
ナハトとリヒトのおかげで、我々は相変わらず可能な範囲ギリギリまでいそいで移動しているにもかかわらず、精神的には疲れはなかった。
日中ずっと魔術を使用していたせいで精神的にも疲れているだろうバルですら、昨日とはまったく表情が異なる。
腹いっぱいに食事をし、またそうそうに部屋で就寝につく。
「明日もはやいから、早々にねろよ!」というナハトの言葉にうなずいて。
しかしベッドに入り、さて眠りにつくかと目を閉じた途端。
「お兄様」と俺を呼ぶリアの声を、聴いた。