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「どうしてザッハマインを襲撃したのが、海賊ラジントンだと断定されたんですか?」
「王城の公式発表で、そう伺ったのです。シュリー州の軍人が尋問したところ、犯人たちが自白したと」
シャナル王子に伺った情報の真偽をハウアー様に確かめたところ、確かにザッハマイン襲撃の犯人は海賊ラジントンだと判明した。
ハウアー様が教えてくださったのは、軍部が公表している情報だから、エミリオに教えるくらいはかまわないだろう。
エミリオには、いろいろと確認しなくてはならないこともある。
「自白ですか。でもそれだけじゃ、証拠として弱いんじゃないですか?グラッハではあまり広まっていませんが、海賊ラジントンの名前はイプセン界隈ではめちゃくちゃ有名です。その名を騙る海賊は多いと思います」
「そうね……」
きっぱりと言い切るエミリオの言葉に力を得て、わたくしも考えた。
王城で公表されている情報は、軍部が握っている情報とはタイムラグがあるはずだ。
海賊ラジントンの犯行であるというのは、わたくしが帰宅間際に確認した情報とはいえ、いつ確認された情報なのか明確ではない。
「ごめんなさい、自白の精度がどの程度なのか、わたくしにはわかりかねます。シュリー州の軍人が聞き出したというのなら、おそらく通常の尋問か拷問の結果の答えです。この場合、自白が虚偽である可能性はあります。ですが今朝到着したお父様が聞き出したというのなら、自白は虚偽の内容ではありえません」
「え?……いちおう確認するけど、その差ってリーリア姉様の主観じゃないですよね?」
エミリオが疑わし気に尋ねる。
この子ってば、わたくしのことを客観的判断もつかない父親崇拝者だと思っているのかしら。
わたくしのお父様はハッセン公爵で、並ぶものは少ない有能な武人だ。
それはわたくしの主観ではなく、事実だというのに。
「お父様や、王城の高位軍人なら、録心の術が使用できるからです。……録心というのは、通常犯罪者の供述をとるために使用される術で、犯罪者は問われたことに嘘をつくことはできなくなります。その答えは犯罪者の声で記録され、録心で記録されたという紋がきざまれます」
「そんな術があるんですね。便利だなぁ」
エミリオは感心したようにうなずく。
このままエミリオが学んでいけば、彼もこの術を会得することになるはずだ。
「便利ではありますが、この術をかけられた人間の精神は破壊されます。その度合いは尋問の長さや本人の精神力によっても異なりますけれども、たいていの場合、二度とまともに話したり動いたりすることはできないでしょう」
つけ加えた情報に、エミリオは顔を青くする。
優しい子だ、と思う。
グラッハは平和な国だけれども、それでも今回のようなことは起こる。
エミリオも軍人になれば、こういった術も避けては通れないだろう。
「ですから通常、術の使用は慎重に行われます。ですけれども、今回の場合は、犯行がグラッハへの宣戦布告で、犯人は数人いると聞きます。罪の重さを考えても、ひとりふたりは確実に録心の術にかけられるはずです」
「……なるほど。じゃぁ、お父様が尋問したなら、犯人はまちがいなく海賊ラジントンだってことか」
エミリオは、渋い表情でうなずいた。