シャナル王子-11
「違う?でも、リアは僕からはなれるつもりなんでしょ?」
結局のところ、僕にとって重要なのは、それなんだ。
リアが傍にいてくれるか、いてくれないのか。
他の人なんて、どうでもいい。
するとリアは、ためらいがちに僕の背中にそっと手をまわして、抱きしめてくれた。
「リア……?」
凍っていた体に熱が生まれる。
僕のことを受け入れてくれるみたいなリアの態度が僕に希望をともす。
……そんなはずないって知っているのに、ちいさな希望にもすがってしまう。
「わたくし、王子は子どもだと思っていました。でも、大人だとも思っていたんです」
意味がわからないよ?
僕は子どもだ。いやになるほど。
でもリアは自分の気持ちを削り出すように、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「王子はまだ8歳で、お身体も幼く、お母様を慕って嘆かれるお小さい方だと、わたくしも王子をお守りするひとりになれればと思っておりました。けれど同時に王子は王子で、尊敬すべき方、畏怖の対象でもあったのです」
「僕の、魔力量が多いから?」
「そうですね。それが大きいかもしれません。ですがそれだけではなく、シャナル王子はどこか高いところからわたくしたちを見ていらっしゃるようだと……、なにもかもご存じでいらっしゃるかのように感じるときがあったのです」
リアの言葉はただ事実を丁寧に述べているだけ、みたいだった。
でも僕は、ぎくりとする。
他人のことを遠くから斜めに見て、見下しているとこはある。
正直、リア以外の他人なんて興味ないし、僕に要求ばっかしてきて何も与えてくれない他人を見下してなにが悪いって思うけど、そういうのリアが嫌がるのはわかってる。
そんな僕だから、リアは好きになってくれないのかな。
どうしたら、他の人のことを大切になんて思えるんだろう?
「でも、それは違ったようです」
ぐるぐる思い悩む僕を断ち切るように、リアは優しい声で伝えてくれる。
「王子はわたくしが思っていたのと違うところでは、思っていた以上に大人だと思いました。わたくしへの想いが、お母様に対する思慕以上なのだと気づきました。でも、違うところでは、王子はわたくしが思っていた以上にお子様でいらっしゃるのですね」
「それは、リアにとっていいことなの?悪いことなの?」
リアへの想いが異性のものだって認めてもらって、嬉しいはずなのに、僕の気持ちは動揺したままだった。
リアが僕のことを誤解していたっていうなら、その誤解がとけた今、僕の存在はリアにとってどう変わったんだろう。
嫌いになった?
ちょっとでも好きになってくれた?
ただそれだけが、僕にとって重要なのに。
リアは答えではなく、ぜんぜん別の話を持ち出した。
「すこし、昔のはなしをさせてください」