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ゲームの中のわたくしは自分が修道院に入ることを呪っていたけれど、わたくしにはそこまでの忌避感はない。
もちろん修道院に入るということは、お兄様の伴侶に選ばれなかったということで、それはとても悲しいけれど、お兄様以外の方に嫁ぐことを思えば、そう嘆く必要もないと思う。
公爵家を追い出されたことも呪っていたけれど、そもそも「そこそこ」程度の実力しかないわたくしが公爵家を継ぐ可能性があるとすれば、当主の妻に選ばれる以外方法はない。
自身が公爵家の当主となることは、お兄様がハッセン公爵家の養子となり、その実力を目の当たりにしたときにあきらめがついていた。
現実的にわたくしが選べる将来は、成人までに「そこそこ」の実力の人間が発揮できる最大限の能力を発揮して、貴族は無理でも礼族の当主となること。
あるいは貴族や礼族の異性に選ばれ、彼らの伴侶となること。
そしてまたあるいは、ゲームと同じく修道院に入り、神への祈りをささげることを人生の喜びとすることくらいだろう。
わたくしに施された教育をかんがみても、今更庶民として商売や生産業を営めるとは思えないし、楽人や傭兵といった職業はもちろん選べるはずもない。
ゲームとはまったく社会構造が違うのに、現実的な将来像がゲームで設定されたものと異ならないのはとても不思議だけど。
それも前世のわたくしと仲間たちの研究が進んでいたからなのかもしれない。
……現実的な将来像が異ならないという意味では、お兄様とエミリオの将来についても同じことが言える。
今回エミリオが養子に迎えられることになって、お兄様は不安を感じていらっしゃるようだけど、お兄様の能力やこれまでの教育を考えれば、お兄様がハッセン公爵家を継がれることはまちがいないと思う。
お父様がエミリオを迎えることについてあまりお話されなかったから、わたくしたちも詳しくはうかがえなかったし、お父様の本当のお気持ちはわからない。
けれど、推測することはできる。
わたくしはハッセン公爵家の娘という身内として、また当主の跡継ぎレースからは外れた外部のものとして、お父様の様子をうかがっていたから、なんとなく思うのだ。
お父様は、お兄様を跡継ぎとして申し分なく思っている。
とすればなぜ今頃エミリオを養子に迎えられたのか不思議だったけれど、これはおそらく他家から教育を託されたのではないだろうか。
エミリオはもう14歳で、一般的に貴族家に養子に入る年齢よりも年かさだ。
それは彼が貴族家の人間として教育を受けられる時間が短いということでもある。
ましてやエミリオは庶民の中でも下層の出身と聞く。
いくらこちらの世界が前世の世界とは異なり実力主義とはいえ、下層庶民から公爵家の養子に入る子どもは少ない。
普通に考えれば、むしろ10歳よりも幼い年齢から教育が必要なほどで、その教育期間の短さをカバーするために、優秀なお兄様の兄弟とし、切磋琢磨させて短期間で実力をのばそうというかんがえなのではないだろうか。
ゲームでは描かれていなかった事情だけれど、こちらの世界の常識とお兄様の実力を考えれば、そんな推論が妥当かと思う。
うすうすお気づきかと思いますが、リーリアの独白には多大な主観(お兄様最強説)が含まれています。