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For Alive  作者: M.O.I.F.
6/17

崩壊への序曲

どうもMake Only Innocent Fantasyの三条 海斗です。

For Aliveも6話です。全12話もしくは13話を考えていますので折り返し地点となりました。

稚拙な部分も多いですが、最後までおつきあいお願いします。

それではどうぞ!!

「っ!」

岩を盾にして、弾丸を避ける。

降下時にミサイルランチャーを放ったため、敵の戦力はだいぶ削ることができただろう。

だが、それでもかなりの数がここにいることは変わらない。

それに対してこちらは4人。

数的不利は変わらなかった。

「よくこれを二人で耐え切れましたね……」

『全弾使ってやっと、といったところだ。』

『僕らが持ってきた弾薬はもう補充したのかい?』

『ああ。ライフルの弾丸は十分だ。……あとはエネルギーの問題だな……』

『やはりバッテリーがやばいな。かれこれ3時間以上は動き続けている』

「もってあと2時間……!」

『銃撃戦しか行わなかったからこれほどまで長時間動き続けていられているに過ぎない。本格的な戦闘になれば1時間……いや、30分持てばいいほうだ』

『援軍が到着するまで……あと1時間……ぎりぎりだな』

『援軍の到着を見越して……っていうわけにもいかなさそうだね』

そうして議論していると、おくからゆっくりと一機のCSが現れた。

それはあの日、シャッターを破壊し、僕と戦闘をしたあのCSだった。

『私はサタン・クロスのエドワードだ。ユウト・キリシマ! 出て来い!!』

「……!!」

『どういうことだ……?』

『わからないな。この様子じゃあ一騎打ちをしようといっているみたいに見えるが……』

「……受けてみます」

『本気か!?』

「この状況が少しでも打開できるのなら、それにかけてみたいと思います」

『……』

『フューラー、どうするんだい?』

『……行かせよう』

『お前まで!』

『わずかな希望にもかけてみよう。まだ一騎打ちと決まったわけじゃない。それに一騎打ちならばこちらとしても時間は稼げる』

『……わかった。だが、ユウト。くれぐれも無理はするなよ』

「わかっています。……それじゃあ行ってきます!」

僕はCSを操り、そのCSの目の前に立った。

「僕がユウト・キリシマだ!」

『お前が……』

「あの時以来だな……アヤさんを追いかけて走っていた時以来だ……」

『そうか、俺の待ち伏せを読んだ最初のパイロットがお前か』

「僕を呼び出して何が目的だ?」

『一騎打ちをしよう。お前が勝てば俺たちは退こう。だが、俺が勝てばこちらは一斉攻撃を敢行する』

「なっ!?」

『さぁどうするんだ? お前にとっても悪くはないだろう?』

「……わかった。受けてたとう」

『開始はいまから5分後だ。せいぜい最後の頑張りを見せてくれよ』

「こっちも負けるつもりはない。……全力で行かせてもらう」

ライフルを構え、動きを確認する。

(……うん、悪くない)

しばらく動かしてなかったし、さっきは無理な体勢でミサイルランチャーを連射した。

どこかにガタが来てないか不安だったが、今のところ以上は見られない。

奴にヴィントのような不思議な防御がなければ大丈夫だ。

計器やレーダー一通りの確認をする。

シャルロットさんたちは黙ったままだ。

多分、僕の邪魔をしないようにしているのだろう。

僕はこの戦いに勝とう。

『時間だ』

「準備はできている。……早く始めよう」

『ああ、わかっている。カウントダウンを開始する』

通信機の奥から聞こえる機械的な声。

正々堂々と勝負をするつもりだ。

隠れるものも、何もないこの状況は自分の技量にかかっている。

彼は自分の腕に自信がある。

だからこそ、こういったことができるんだ。

『3……2……1』

(行くぞっ……!!)

『……0』

「はああああああ!!」

『はあっ!!』

二機のCSが一斉に駆け出す。

既にライフルを投げ捨て、ナイフを構えていた。

相手もどうやらナイフで戦うらしい。

確かに、その方が周りを巻き込まない。

キンとナイフがぶつかる。

そのまま鍔迫り合いが起こった。

『ほう、なかなかやるじゃないか』

「あいにく、近接戦闘の方が得意なんでね!」

『はっ! 面白い!!』

どちらからともなく、後ろに飛び退く。

そして再びナイフを構え対面する。

『ユウト・キリシマ。俺はあの時からずっと気になっていた』

「気になっていた……?」

『ああ。どうして、日本から離れてここにいる』

「……」

『だんまりか。だったらこちらから仕掛けさせてもらうぞ!!』

「なっ!!」

ジャンプをしたのか、頭上からナイフを構えながら降りてくるCS。

僕はとっさに横に跳んだが、左腕にわずかにかすった。

それだけなのに僕のCSにすこし衝撃が走った。

「ぐぅ……!!」

そして響き渡る警告音。

ディスプレイを見ると、左腕の動力が断ち切られていた。

「これが狙いか!!」

『お前が避けることはわかっていた。ならば初めから避けた位置に狙いが来るようにすればいいだけだ』

彼は簡単なことのようにそう言った。

言うだけなら簡単だ。

だが、相手の動きを予測してそこに正確に操縦できる技術は簡単なものじゃない。

それをやすやすと行った彼にはかなりの技量があることがうかがえた。

正直、彼は強い。

天才肌というのだろうか、明らかに“自分にはできる”という自信が彼にはみなぎっていた。

「たかが、左腕……! どうってことない!!」

そう強がって見せても、明らかに不利な状況なのは変わらない。

それどころか、相手のナイフを防ぐ術がなくなったのだ。

(斬りあいはもうできない……! ヒット&アウェイができる相手じゃない……。どうする……!!)

相手の技量は遥かに俺より上だ。

(くそっ! 何も思いつかない!!)

焦りが生まれる。

(くそっ……!!)


 * * * * * 


片腕が動かなくなったCSを心配そうに見つめる目があった。

シャルロットだった。

(あいつは大丈夫なのか?)

シャルロット自身が気づかないうちに強く操縦桿を握りしめている。

彼女はそれに気づくと、自分の手の平を見つめた。

(緊張……しているのか? この私が?)

そう思うほど、シャルロットには余裕がなかった。

目の前で、生死をかけた一騎打ち。

シャルロットには見慣れた光景だった。

その時は何とも思わなかったのに、いまでは無意識のうちに操縦桿を握りしめている。

シャルロット自身もわからなかった。

それは、わずかな違和感。

普通の人間ならば気づく気持ち。

ただ、心配な……不安な気持ちがシャルロットにはわからなかった。

初めて持つ感情が、彼女の胸の中でずっと渦巻いていた。

(勝てよ……ユウト……!)


 * * * * * 


「ぐっ!!」

『どうした? 動きが鈍ってきてるぞ!』

「くそっ! よく言うよ!!」

ナイフをかろうじて受けながら、必死に反撃の機会をうかがう。

だが、そんな機会をくれるほど彼も甘くはない。

右手に構えたナイフが、息をつく暇もなく繰り出される。

「っ!」

キンというすこし小高い音が目の前で火花と共に響く。

そう何度も受け止められる攻撃ではなく、少しずつ、だが僕のCSにナイフの傷が増えていく。

いまはかろうじて装甲に傷がつく程度だが、もし深く食らうことになったら……と考えるだけで、ぞっとする。

左腕は今も動かない。

警告はずっと出続けたままだ。

(玉砕覚悟で行くしかない!)

一気に距離をとり、ナイフを構える。

『ほう……』

相手もこちらの意図を悟ったのか、ナイフを構えた。

「いくぞ!!」

『来い!』

「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

『はああああああああああああああああ!!』

二機のCSがたがいに向かって駆け出していく。

もう手が届く。

そんな時だった。

『ユウト、よせっ!』

その声に僕はとっさにかかんだ。

ディスプレイには真正面に迫ってくるナイフが見えた。

『なっ!?』

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

そのままコックピットに向かってナイフを繰り出す。

『そう簡単にやられるか!!』

「くっ!」

ナイフはコックピットには当たらず、ナイフを繰り出したままの右腕の関節部に突き刺さった。

だらんと、ちからなく垂れる右腕。

僕のナイフが動力線を断ち切ったようだった。

「はぁ……はぁ……! これでナイフはつかえまい!!」

『この……!!』

通信機から聞こえる声にはわずかな怒気が含まれていた。


 * * * * * 


「ユウト、よせっ!」

シャルロットは思わず叫んでいた。

一騎打ちに、外野からの助言。

これはやってはならないことだった。

だが、どうしても言わずにはいられなかった。

次の瞬間、ディスプレイに映ったのはユウトが相手のCSの腕にナイフを突きつけている瞬間だった。


 * * * * * 


「さぁどうする!? 続けるか……それとも……!!」

『くっ! 俺はまだっ!!』

その時、相手のCSのパイロットの声が途切れる。

『ここまででいいだろう』

「その声は……!!」

『久しぶりだな、ラスト・フォートのコントラクターよ』

「“魔王十字のヴィント”!!」

『まさか、エドワードに打ち勝つとは思っていなかったが……これも想定内だ』

「想定……内……?」

その時、僕のCSから通信の音が響いた。

ディスプレイに表示された電文の内容は待ちに待った内容だったにも関わらず、今となっては止めるべきだと思っている。

『出撃準備完了。これより、出撃する』

「はじめからこれが狙いかっ!?」

『これで世界は大きく動く。均衡は崩れ、思惑は交差し、そして疑心暗鬼が蔓延する』

「なっ!?」

『その贄となってもらうぞ。ユウト・キリシマ』

「くっ!」

僕は全力で駆け出した。

投げ捨てた武器も拾わず、ただまっすぐフューラー先輩やシャルロットさんがいるところへ。

もうすぐと差し迫った時、後ろから聞こえる爆発音。

その爆風に機体はバランスを崩した。

「うわっ!!」

勢いよく地面に倒れるCS。

ディスプレイは砕け、破片が飛ぶ。

「っ……!」

額に鋭い痛みが走る。

深紅に染まる左の視界。

どうやら破片で血が出ているようだった。

意識も朦朧とする。

『ユウト! 大丈夫か!?』

酷く慌てたシャルロットさんの声。

その声でぼんやりとしていた意識を取り戻す。

「はい……なんとか……」

僕はCSを立たせる。

まだかろうじて生きているサブディスプレイを頼りにCSを操る。

正直言って、つらいものだった。

サブディスプレイをメインカメラの映像に変更し、見てみると、そこには爆撃の後が見受けられた。

敵は無傷。

ということはあちらからの攻撃だ。

『ユウト、無理をするな』

「すみません」

『とにかくこっちに戻っておいで』

「了解です」

僕はなかば急ぎ目で岩肌の元へと向かった。

敵の攻撃が来ないわけじゃない。

緊張は高まるばかりだった。

『傷を見せてみろ』

シャルロットさんが機体を近づけてくる。

二機のCSが向き合う形になった。

シャルロットさんがハッチを開け、出てくる。

僕もハッチを開けた。

「ひどいな……」

「それほどでも………っ!」

「ほらな。……ちょっと待ってろ」

シャルロットさんはCSに備え付けられている緊急医療セットを使用して、僕に包帯を巻き始めた。

「まったく……無理をするなといっただろう」

「すみません……」

「……それに玉砕覚悟というのはよろしくないな」

その言葉に一瞬、あの日の光景がよみがえった。

「……はははっ」

「何がおかしい?」

シャルロットさんは怪訝な顔をした。

(……僕はまったく進歩してないんだな……。アヤさんにも頼まれたし、もう道連れにしようなんて考えるのはよそう)

「いえ、ばれてましたか」

「ばればれだ……まったく、困ったものだな」

そういうシャルロットさんは僕にすこしきつめの包帯を巻いた。

「っ!」

「無理をするな。敵もいつまでも待ってはくれないからな」

「わかりました。包帯、ありがとうございます」

シャルロットさんはすこし笑うと、自分のCSに戻っていった。

僕はハッチを閉め、レーダーを見る。

敵の反応は動かず、ずっと同じ場所にあった。

(待っている……? 応援が到着するのを?)

先ほども言っていた。

“世界の均衡は崩れ、思惑は交差し、疑心暗鬼が蔓延する”と。

つまり……彼の目的は……。

「戦争かっ!?」

『なに!?』

フューラー先輩の驚いた声が聞こえた。

「いそいで出撃中止の通信を!! ここで僕らじゃなくて正規軍が戦うことにでもなったら……!!」

『国同士の戦闘……それこそ条約に基づいた戦闘が行われる……』

「そうなれば緊張状態のこの世界は戦争に発展する! 第3次世界大戦が勃発してしまう!!」

『道理で彼らは正規軍のCSを持ってきたわけだ』

『さっきの一騎打ちも時間稼ぎということか!』

「フューラー先輩!!」

『通信はした! 間に合うといいが……!』

『現状、ここで相手を睨んでおくしかできないわけだね……』

クラウスと呼ばれた男の人がすこし悔しそうにそうつぶやいた。

そんな時、通信が入ってきた。

それを開くとそこには衝撃的な内容が書かれていた。

『出撃中止には答えられない。軍は直ちに侵略を開始した敵に攻撃を仕掛ける』

「そんな!!」

『やはり簡単には変えられなかったか……!』

「じゃあ……」

『今はこの状態じゃ俺たちはやられる……引くぞ! さっきの通信で許可はもらっておいた!!』

『だが、アルフォンス! 引くってどこに!?』

『どこでもだ! 輸送機が降りられる場所ならどこでも!!』

『ここから南西……15km行った先に牧場がある。そこなら輸送機が降りられるだろう』

「15km……!?」

『微妙な距離だな』

長時間の戦闘の後に追加バッテリーなしでその距離は正直言ってきついものがあった。

その距離を行くにはまず、走るわけには行かない。

そして歩いていくには距離が遠すぎる。

届くか届かないかの瀬戸際だった。

『レーダーオフ、サブカメラおよびサブディスプレイの電源をシャットアウト……あと他に切れるところは……』

フューラー先輩はバッテリーを維持するため、さまざまなもののスイッチを切り始めた。

燃料に関しては変えられないが、CSはバッテリーだけでもすこしは動くようになっている。

本当に少しだけだが、頭に入れておいても損はないだろう。

『先頭はユウト、殿は……クラウス、頼む』

『了解』

「了解です」

『俺たちはメインカメラとレーダー系すべてが使えない。索敵は頼んだぞ』

「任せてください」

『行くぞ!』

僕たちは岩肌を盾にしながら、移動を開始する。

敵はまだ動かない。

僕たちに気付いているはずだが、なにか狙いがあるのだろうか。

だが、来ないのならば好都合。

僕らはそのまま進むことにした。


 * * * * * 


(そのまま進むがいいさ)

エドワードはコントロールを乗っ取られたCSで内心、そうつぶやいた。

彼自身、敗北というのは初めてだった。

訓練時代から天才と呼ばれ、サタン・クロスの訓練生の中で常に1位の成績を撮り続けていた彼は挫折を知らなかった。

いや、彼の中に挫折というものはないのかもしれない。

幾度となく当たってきた壁を彼は乗り越えてきた。

彼はその才能で難なくというわけではなく、そこには努力や向上心といった人並みの壁の乗り越え方をしてきている。

努力ができる天才というのは、厄介だ。

その才能の伸びしろがわからず、ほぼ無限に伸びてしまうからだ。

(ユウト・キリシマ……生きてまた会うのなら、次こそは……!)

戦闘における初めての壁。

しかもその壁はまだ成長する可能性が残っていた。

ユウトとエドワード。

生まれも育ちも違う彼らが戦場で出会い、こうして交わった時から歯車は回り始めていたのかもしれない。

「……来たか……」

遠くに見える黒い波。

それは蟻が群がっているようにも見えた。

少し違うのは鉄でできた人型の体に、はさみのような口はついていない。

その数はこちらと同数にも見える。

(まともに戦えばこちらが不利だが……この戦い、“まともな戦い”になるはずがない)

エドワードがそう思うのも無理はなかった。

なぜならば……。

『各機、準備はいいか?』

通信機から聞こえる、低めの声。

その貫録を感じさせる声の持ち主をエドワードは一人しか知らない。

“魔王十字のヴィント”……世界中の軍人、コントラクターにその名を知らしめ、今もなお最強の名を関するコントラクターしかエドワードは知らない。

『私が出て、合図をしたら一斉に全弾掃射だ。それまでは一歩も動くんじゃないぞ』

それは全機に向けた一斉通信。

当然、エドワードの機体にも届いている。

だが、先の一騎打ちでエドワードの機体は戦闘ができる状態じゃなかった。

そのせいで、現にこうしてコントロールを奪われているのだが、エドワードは気にしている様子はなかった。

だまって、その通信を聞く。

その時、初めて自分のふがいなさを嘆いた。

(戦うべき時に戦えないとは……!!)

動かない操縦桿を強く握る。

その手には、ユウトに負け、今も戦いに参加できない自分に対する悔しさがにじみ出ていた。


 * * * * * 


(おかしい……)

それの違和感は次第にはっきりとしてくる。

(どうしてこんなに……“静かなんだ”?)

もう戦闘は始まっているだろう。

それは最初の銃声で確認できた。

だが、しばらく銃声が続いたと思えば静かになった。

それがずっと続いている。

(こんなに早く戦闘が終わるものなのか?)

異動をし始めてまだ20分といったところ。

走れない分、時間がかかるがそれでも着実に歩を進めている。

戦場からすこし離れたとはいえ、まだ十分に近い距離。

銃声が聞こえないのはおかしかった。

(嫌な予感がする……)

当たってほしくない予感。

そう思った矢先だった。

『フューラー! 後ろから熱源反応!!』

『やはり来たかっ!!』

『どうする!?』

『走るしかないだろう!!』

「了解!」

僕はスピードを上げて木々の間を走っていく。それに続いてシャルロットさん、フューラー先輩、クラウスさんが続いていく。

正直、僕ら二人よりフューラー先輩とシャルロットさんのバッテリーが持つか心配だった。

『距離がどんどん詰まっていく……!!』

『この速さについてくるのか!?』

『どうやらあのCS……最新鋭らしいな……。おそらくは……』

『心当たりがあるのか!?』

『見てみないことにはわからない。だが、奴が後ろにいる以上、可能性としては十分に高い!』

『またヴィントか!』

「でもどうします!? このままじゃ、いずれ追いつかれますよ!!」

『……』

フューラー先輩はすこし沈黙した。

そして、機体を180度回転させ走り出した

「フューラー先輩!?」

『お前たちは先に行け! ここは俺が食い止める!!』

「でもその機体じゃ……!!」

『大丈夫だ。かならず追いつくさ』

「……っ!」

その言葉に僕は何も言えなかった。

「約束ですよ!!」

『もちろんだ』

僕はそのまま走り続けた。

みんなも後ろから続く。

本当はみんなも止めたいのかもしれない。

だけど……それはかなわない。

きっと彼が導き出した結論がわかっているから。

それは残酷な結論。

だが、僕らは信じて進むしかなかった。


 * * * * * 


「さて、行ったな……」

フューラーはシャットダウンしていたすべてのスイッチを入れていた。

当然、レーダーはまだ機能していない。

「あいつらのことだ。俺がいなくてもうまくやるだろう」

サブディスプレイ、サブカメラ、レーダーが順に起動していく。

さっそくレーダーには8つの熱源反応が見えた。

(4人一組が2つ……)

それに比べ、こちらの戦力はフューラー一機のみ。

誰がどう見ても負け戦だった。

「タイムリミットは……10分……」

見積もったその時間には戻る時間は含まれていなかった。

彼は最初から戻るつもりはない。

残量の少ない燃料とバッテリー、輸送機着陸ポイントまでの距離、敵の速さ……それらすべてが一つの答えを指示していた。

「行くぞ……!!」

フューラーはライフルを構えた。

ロックオンマーカーが目の前に現れる。

敵機が見えてきたと同時にフューラーは発砲した。

先ほどは一騎打ちのみで弾丸を消費しなかったため、弾丸は一発も減っていない。

敵機はこちらが発砲すると散開し、避けた。

(そんなのは予想済みだ!!)

フューラーは銃撃をやめると右側の一機に向かって進んでいく。

(まとまっていれば明らかに不利だが、一騎打ちに持ち込めば……!!)

敵はすでに隊列を組みなおそうとしている。

一人にかけられる時間はそれほど多くはなかった。

「いまだっ!!」

ダダダッという音を響かせながら進んでいく銃弾。

それはまっすぐ敵に命中し、爆発を引き起こした。

(まずは一機!!)

敵も馬鹿ではない。

今度はまとまって銃撃を仕掛けてきた。

「くっ!!」

木を盾にしながら銃弾を避けていく。

その時も、フューラーは銃を放ち続けた。

そのうちの一機に銃弾が命中し、爆発する。

その巻き込みを食らってもう一機がバランスを崩した。

(銃を持った右腕は使えない! いまだっ!!)

フューラーは攻勢に転じた。

攻撃ができなくなった一機をかばうようにもう一機がフューラーにむかって銃撃をする。

(狙いは……お前じゃない!!)

フューラーは攻撃ができないCSに向かって発砲した。

まさか、銃弾が飛んでくるとはおもっていなかったのか、そのCSは銃弾を食らい爆発した。

後ろから発生した爆発を食らい、さっきまで銃撃をしていたCSも爆散する。

(一気に三機……! あと4機!!)

追加の敵はすぐに来た。

「くっ!!」

急いで横に駈け出す。

カメラに映らない距離からの発砲。

銃弾がかまいたちのように過ぎていく。

周りには蜂の巣になった木が点々と存在していた。

(これが性能の差か!!)

フューラーのCSには方位と大体の距離がわかる程度のレーダーしかついていない。

そのため、今みたいな射撃はできないのだ。

無論、このレーダーを使って狙撃を極めたら話は別だが、誰にだってできるものではなかった。

(このままじゃ一方的にやられるだけだ!!)

フューラーは銃を放ちながら自分が戦える距離に近づく。

相手が下がってくれればユウトたちが逃げる時間も稼げるし、下がらなければこちらも対等に戦える。

結果は後者だった。

「はああああああああっ!!」

狙いを定め、銃撃。

ダダダッという音は途中で、かちゃんという音に変わった。

(弾切れ!?)

フューラーはそのライフルを投げ捨てると、腰に携えたナイフを構えた。

敵は近づけさせまいと、銃撃の密度を狭める。

それを避けつつも、フューラーは相手の懐へと近づく。

銃弾が当たる音が、右から左から聞こえてくる。

正直言って、もう気にする必要もなかった。

「うおおおおおおおお!!」

ナイフを突き出すフューラー。

それはCSのコックピットを貫いた。

ナイフを抜くと、そのCSをつかみ盾にする。

チュンチュンというような音が響いた。

そのCSを蹴り飛ばすとフューラーはもう一機のCSにナイフを突き立てた。

動力部にささったナイフを引き抜くと、そこから血のように燃料がこぼれる。

急いで離れると、二機のCSは爆発した。

(あと一機!!)

フューラーはその一機に狙いを定めた。

周りが炎に包まれる中、その中を悠遊とあるフューラー。

敵機は身じろぐように一歩、後ろに下がった。

無理もないだろう。

オイルが返り血のように飛び、ナイフを携えて、火の海を進んでいくCSはまるでロンドンの殺人鬼をほうふつとさせた。

怪しく光る両目に睨まれた敵のCSは銃を乱射し始めた。

狙いも定めていない、当てずっぽうの射撃。

今のフューラーには当たるはずがなかった。

「これで……」

その言葉には安堵にも似た雰囲気があった。

「終わりだ!!」

フューラーはナイフを構えると、まっすぐそのCSに向かって跳んでいく。

フェンシングのようなその動きは一つの直線を描くように、まっすぐ、まっすぐとCSに向かっていく。

「うおおおおおっ!!」

次の瞬間、操縦桿から伝わる鉄板を貫いた感触。

目の前で力なく倒れかかってくるCSを突き飛ばす。

大きな音を立ててCSは地面に倒れた。

(終わった……)

まるで、それを待っていたかのようにすべての計器が一斉に落ちた。

ディスプレイもレーダーも、全てが。

エンジンさえも止まった。

操縦桿を動かしてもCSはうんともすんとも言わなかった。

「はははっ……やっぱり戻れそうにないなぁ……」

力なく操縦桿から手を放す。

目を閉じると、途端に睡魔のようなものが襲ってきた。

フューラーはそれに抗わず、目を閉じた。

浮かんでくるユウト、シャルロット、クラウス、そして……アヤの姿。

(アヤの命を奪った天罰……なのかな……)

そう思った次の瞬間、機体に振動が走る。

それは銃撃された証拠だった。

「早いな……」

そこでフューラーは気づく。

さっき倒したCSは“3機”だということに。

(一機、隠れていたのか……)

ハッチも開かず、ディスプレイもつかないその状況では確認のしようがなかった。

「あとは……任せたぞ……」

次の瞬間、フューラーは赤い閃光に包まれた。


 * * * * * 


「……! フューラー先輩……!!」

大爆発の後、しばらくしてから上がった爆発。

僕は直感した。

あの人はもう帰ってこないのだと。

「くそっ!!」

(もう誰も死なせないと誓ったのに!!)

悔しい。

また、僕の力が足りずに人が……仲間が散っていく。

もうあんな思いをするのは嫌だと思ったのに、また救えなかった。

『後から追いつくと言ったじゃないか……アルフォンス……』

辛そうなシャルロットさんの声。

「……! 輸送機の着陸ポイントまであと100mです!」

『……ああ』

目の前には開けた場所が見えていた。

あと100m。

もう少しだ。

そう思った矢先、シャルロットさんのCSが突然、止まった。

「シャルロットさん?」

『もしかして……間に合わなかったのか!?』

「そんな!」

こうして話していてもシャルロットさんは何も言わない。

CSはバッテリーと燃料で動かしている。

動力はエンジンで、レーダーやディスプレイなどはすべてバッテリーが電源として使われている。

そのどちらもが切れた場合、CSはただの鉄の塊……いや、パイロットが乗っていた場合には鉄の棺桶となる。

「っ!!」

『ユウト君!? 何をするつもりだ!?』

「決まっています、シャルロットさんを助けるんです」

『すこしでも間違えば彼女を殺すことになるんだぞ!?』

「それでも……!」

声が詰まる。

自分でも感情が昂っているのがわかる。

何ともないわけがない。

頼りだった先輩の最後も見届けられず、僕らを助けるために散っていった先輩の死が……何ともないわけがない。

「もう……失いたくないんです……!」

『……しょうがないね。ディスプレイを見てくれ』

クラウスさんは何かを僕に送ってきた。

それはCSの設計書だった。

『ハッチはここにあって二つの壁……装甲と、メインディスプレイが折り重なるようになっている。まずは外壁のみをはぐんだ。ちょっとでも深く入れるとシャルロットを貫くことになってしまう。慎重にね。メインディスプレイは人の力で充分動かせるはずだ。』

「わかりました。……シャルロットさん……いま、助けます!!」

僕はナイフを取り出すと、シャルロットさんのCSに向き合う。

僕はナイフを装甲の隙間に押し当てると、てこの原理を使って外装をはがした。

「シャルロットさん!!」

僕はハッチを開けると、シャルロットさんのCSに向かう。

少し距離は離れているが、手を伸ばせば問題ない。

メインディスプレイにある取っ手を持ち、引っ張る。

すると、メインディスプレイは上に上がっていった。

カチッと音がするまで上げると、僕はシャルロットさんの方に向き直った。

「シャルロットさん!!」

「すまない、ユウト。助かったよ」

「いえ……無事でよかったです……」

「すまない……君に心配をかけたな」

「そんな、しょうがないですよ。しっかりつかまっててくださいね」

「ああ」

僕はコックピットにもどるとハッチを閉めずにそのまま歩きだす。

このコックピットに二人のるスペースなどないからだ。

それに近いからこそゆっくりと歩くことができる。

この距離じゃなければできなかった。

『ちょうどきたみたいだ。どうやら近場で待機してくれていたらしい』

降り立つ輸送機。

本来ならばここには4人で乗りこむはずだった。

だが、今は3人しかいない。

ぽっかりと大きな穴が開いたような虚無感がおそい、CSをロックした後もコックピットから降りる気にはなれなかった。

アルフォンス・フューラー。

僕の頼りになる先輩。

僕らを逃がすために犠牲になった先輩。

「く……くそっ……!」

守れなかった。

「くそっ……!」

失わせないと誓ったのに。

「くそっ!」

また一人失ってしまった。

「くそおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

僕の慟哭がむなしく響き渡った。

動き出す世界、うごめく陰謀。

その最中、シャルロットは……。

そして、ユウトは決断する。

次回 第七話 「孤独の向こうに」

青年は生きる意味を知る―――。

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