表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
For Alive  作者: M.O.I.F.
5/17

残されたモノ

どうもMake Only Innocent Fantasyの三条 海斗です。

遅れて申し訳ありません。

どうも1週間連載がつらい状況になりそうですので、すみませんがご了承のほどお願いします。

まだまだ稚拙なところもありますが、最後までおつきあいお願いします。

それでは、どうぞ!!

「どうしてアヤさんを撃ったんだっ!!」

フューラー先輩の胸ぐらを掴みあげ、壁に押し付ける。

「やめないか!」

「何でアヤさんを撃ったんだ! あの人は……撃つ気なんかなかったんだぞ!!」

「……証拠はあるのか?」

冷たい、静かな声でそう呟く。

まるで胸ぐらを掴まれていることなど関係ないように。

「証拠だと……!?」

「ないだろう? アヤが撃たないなんて証拠は」

とても強い力で僕の腕を握るフューラー先輩。

みるみる僕の手はフューラー先輩から離れていった。

「あの状況で撃たない証拠はない。撃たなければ撃たれるのはお前だった」

「なんだと……!!」

「少しは現実を見ろ!」

顔面を思いきり殴られた。

「っ!!」

僕は地面に倒れた。

「相手はスパイなんだぞ! お前を騙すために色々してきたんだぞ! 撃たないなんて確信がどこにあるんだ! 自分が信じたくない現実を突きつけられて激昂してんじゃないぞ!! 」

「……っ!!」

「落ち着けユウト。私もアルフォンスと同意見だ。……少し頭を冷やした方がいい」

「……そうさせてもらいますよ!!」

僕は乱雑にそう吐き捨てると格納庫をあとにした。

一人になると否が応でも涙が出てきてしまう。

「アヤさん……!!」

夜風に当たりながら、その名前を風に呟いた。


 * * * * * 


「いいのか?」

「ああ。あれでよかったんだ」

フューラーは振り返らず、淡々と言った。

「無理をしなくてもいい。……本意じゃなかったんだろう?」

「……俺が駆けつけたとき、アヤはユウトに銃を向けていた。」

バンっ!! と大きな音が響いた。

フューラーがコンテナを思いきり殴り付けたのだ。

「ああ、するしかなかったんだ! 気付いたら引き金を引いていたんだ!!」

「もういい。自分を責めるな」

「……責めたくもなるさ」

「……」

シャルロットはそれ以上なにもいえなかった。

そこには、仲間を失った悲しみだけが広がり、重々しい静寂が辺りを包んでいた。


 * * * * * 


それから数時間後、僕たちに言い渡されたのは自宅謹慎だった。

アヤさんの調査や、現状が落ち着くまでは自宅から出ることすら許されない。

その証拠に僕の部屋の前には監視が立っていた。

一人部屋に閉じこもる。

もう数日が経っていた。

気持ちもだんだん沈んでいく。

目を閉じればまだ、アヤさんの顔が、声が、感触が、思い出せるのに、アヤさんはすでにこの世にいない。

誰の目から見ても明らかだった。

彼女の生存確率はほぼ0。

それがCSに乗るということだった。

CSには脱出機構はない。

それが複雑なCSのわずかな簡素化を図っている。

その証拠に、コックピットはエンジンの真下にあり、ハッチは前方にある。

爆発をしたら確実にパイロットは死ぬ。

アベイラビリティを減らし、何とか生産性の向上や兵器として運用ができている程度なのだ。

それはまだCSが開発されてまだ間もなく、発展途上であることを示していた。

エンジンルームを直撃した弾丸は、バッテリーの放電や燃料の漏えいを発生させ、爆発を引き起こした。

「くそっ!!」

枕にこぶしを思い切りたたきつける。

そうでもしないとこのもやもやとした気分は晴れそうになかった。

それからすぐにチャイムが鳴った。

僕はなぜか急いで、ドアを開けた。

そこに立っていたのは……シャルロットさんだった。

それがわかった時、心にわずかな痛みが走った。

(アヤさんな訳がないのに……)

そんな僕を悟ったのかシャルロットさんは申し訳なさそうな顔をした。

「すまないな……。こんな時に来るべきではなかった」

「いえ、そんな……」

そこからすこし気まずい沈黙が流れる。

それを先に破ったのはシャルロットさんだった。

「実は……」


 * * * * * 


「すみません。任務を失敗してしまって……」

ヴィントの前で頭を下げる青年。

それはヴィントの直属の部下になった青年で、彼が失敗した任務とはアヤの護衛だった。

「気にするな。あいつは最初から死ぬつもりだったかもしれないからな」

「それはどういう……」

「何……気にするな。それより、お前には次の任務に就いてもらう。詳しくはコートマンに聞け」

「了解しました。では、失礼します」

そういうと青年は部屋を出ていった。

バタンと扉が閉まってからしばらくして、ヴィントは窓から外を眺めた。

「道具にも感情というものがあったということだな。……『ユウト・キリシマという青年を殺さないでほしい』などというとは」

その道具という言葉には独特の響きがあった。

彼は本当にアヤを道具として思っていなかったかは、彼にしかわからない。


 * * * * * 


「えっ!? 緊急の任務ですか!?」

「ああ。すぐに来てくれないか?」

「……」

「どうしたんだ?」

「……僕はあの人に会わなくちゃいけないんですね」

「……やはりまだ根に持っているのか?」

「許せないんですよ。アヤさんを撃ったことが」

「あれは……」

「わかっていますよ! それぐらい!!」

また感情が昂った。

僕はシャルロットさんに八つ当たりをしようとしている。

冷静にそう思えるのに、言葉は、気持ちは、止まらなかった。

「僕はあの人が許せない! 頭ではわかってるんですよ、それが正しい、間違っていないって!! だけど……いまでも浮かぶんです……。アヤさんのあの笑顔が、声が、感触が! そのたびに僕はあの人が許せない! アヤさんの命を奪ったことが……僕は……どうしても許せないんですよ!!」

「……そうか。君にとってアヤは大切な人だったんだな」

「だったら……!!」

「もういい。君はここで待っていろ」

「え?」

「聞こえなかったのか? ここで待っていろといったんだ。……戦場で仲間を信頼できないやつを連れていくわけには行かない。……邪魔をしたな」

そういうとシャルロットさんは振り返り、歩き出してしまう。

「シャルロットさん、まだ……!」

そう手を伸ばしたとき、僕は監視員に押さえつけられていた。

「くっ!」

「自宅謹慎のはずだ。」

僕はむりやり立たされ、半ば突き飛ばされる形で部屋に入れられた。

「おとなしくしていろ」

冷たく言い放たれた言葉は僕の気持ちを落ち着けるのには十分だった。

そして思い返されるあの言葉。

『もういい。君はここで待っていろ』

『聞こえなかったのか? ここで待っていろといったんだ。……戦場で仲間を信頼できないやつを連れていくわけには行かない。……邪魔をしたな』

振り返り際のあの人の顔はすこし悲しそうだった。

記憶を思い返してみると、目が少し赤かったような気もする。

(……僕一人が悲しいわけじゃないんだよな……)

罪悪感が押し寄せる。

シャルロットさんは何も悪くない。

フューラー先輩だって、僕を助けるためにしたことだと思う。

頭ではわかっている。

だけど、アヤさんの顔が浮かぶたびにフューラー先輩が……あの人が許せなくなる。

(……僕が未熟だったってことだよな……)

目を閉じる。

意識はだんだんと深い闇に沈んでいく。

一瞬、ある景色が見えた。

(あれはどこだっただろう……)


 * * * * * 


『おい、あれが例の日本人だってよ』

『物好きな人ね』

『日本なんて全然助けてくれなかったじゃない! 今更、なんだっていうの!』

周囲が英語で何やら言っている。

僕だって英語くらいできる。

そうじゃなきゃ、今ここにいないのだ。

噂の内容には心当たりが山ほどあった。

その昔、日本は周辺諸外国影響でいろいろと大変だったらしい。

その時の政府は日本を変えようとしたのだが、国民はそれを望まず、第2次世界大戦の後からずっと集団的自衛権すら持たない国を貫いてきた。

それはどういうことか僕が日本にいたときでさえ、わかっていなかった。

集団的自衛権の行使というものがどういうことなのか。

例えば、僕が軍人だったとして、アメリカの軍人である友人二人と歩いているとする。

突然現れたテロリストに友人が一人撃たれた場合、アメリカ人の友人は発砲することができるが、僕は銃を撃つことはできない。

法律で決まっているから。

そして、もう一人のアメリカ人の友人が撃たれそうになっていても僕は銃を撃つことはできない。

そして、アメリカ人の友人が二人とも撃たれ、僕が撃たれそうなその瞬間まで、僕は銃を撃つことはできない。

正確には日本の憲法がこれを禁止していたということなのだが、やはり目のまで倒れていくほかの国の軍人たちを助けるために動けないということがほかの国から見て何もしない国だと思われてしまうのだろう。

昔の政府はこれを変えようとしたらしいが、国民の反感を買いあえなく頓挫。

結局は変わらないままだった。

それが今、僕の周りで起きている現状だった。

第3次世界大戦が起こるかもしれない。

そんな状況で、数々の内戦が起きても日本は攻撃すらしないのだ。

そこで失った人命の祖国の人たちは日本が攻撃に参加していれば……という気持ちがないわけじゃない。

少なくとも日本が攻撃に参加していれば助かる人命もあっただろう。

だけど、それはできない。

日本人が命を奪ったわけじゃない。

だけど、日本が参加していれば……。

このもやもやとした気持ちを日本人にぶつけるしか行き場がなかったのだろう。

現にこの憲法のおかげで日本人は平和な暮らしができている。

内面のメリットだけ考えれば十分すぎることだった。

だからこそ、どうにもできないのだろう。

いくら第2次世界大戦の時と状況が違うとはいえ、戦争には行きたくないのだ。

それは当たり前のこと。

それを政府が変えようとしたから国民は「戦争反対」というデモを行った。

その時はいろいろとごたごたがあったらしいが、全ては過去のこと。

僕自身、教科書やインターネットで知りえるような知識しかない。

ここまでのことだって間違っているかもしれない。

だけど、確実なことは一つ。

第3次世界大戦というリスクを持ったこの世界から見て日本はよくは思われていない。

4人掛けの机なのだが、僕の机には誰もいない。

みんなぎゅうぎゅうとほかの席に詰め寄り、頑張って座ろうとしているみたいだった。

(慣れたつもりなんだけどなぁ……)

そう思いながら、一人ご飯を食べているとすぐ近くに一人立ち止まった。

「あ、ここ空いてるよ~」

その女の子は僕の席の前でほかの友達を呼んでいるみたいだった。

「一緒の席でもいいかな?」

「え? ああ……いいけど……」

「ちょっとアヤ……」

「何?」

「彼、日本人じゃない?」

「それが?」

「他の席にしようよ。私、いやだわ……」

「え~? どうして?」

「日本人と仲良くしていたら嫌われてしまうもの」

「そんなことないのに~」

「……いや、彼女の言うことは正しいと思うよ。僕と同じ席に居たって反感を買うだけだろうし……」

僕は席を立つ。

「僕は他の場所に行くからここを使いなよ」

返事も聞かずに僕はトレーを片付けた。

配膳のおばちゃんは僕のことを見向きもせず、ただ皿を洗っているだけだった。

(いいんだ、これで。僕とかかわらない方がいいんだ……)

心がわずかに痛んだが、もう慣れた痛みだ。

そんなことを思いながら食堂を出た直後だった。

「あ、君~!」

突然、大きな声が廊下に響き渡った。

(さすがに僕じゃないだろう……)

そう思い、そのまま歩き出す僕を誰かが掴んだ。

振りかえるとそこには先程の女の子が立っていた。

「忘れ物だよ、"ユウト・キリシマ君"」

そういって差し出してきたのは社員証だった。

「ありがとう。全然気づかなかったよ」

「次は気を付けてね~!」

バイバイと言うように手を降りながら走り去る彼女を僕はなにも言えなかった。

それからしばらくは彼女とも接点はなく、また一人でいるだけだった。

訓練が始まってからだ。

「今回の訓練は二人で行ってもらう。組み合わせはこちらで決めさせてもらった。心してかかるように!」

「了解!」

その声が一斉に響く。

みな、それぞれの組合わせ表に一喜一憂しているようで、その場は騒然としている。

僕は渡された組み合わせ表を確認する。

そこには"アヤ・リューグナー"という名前がかかれていた。

(アヤ……? どこかで聞いたことがあるような……)

僕はそんな疑問を解決できないまま、訓練は始まった。


 * * * * * 


「くっ!!」

飛び交う弾丸。

コンピュータとは違う、生の人間の動き。

それはある程度、パターンが決まっているコンピュータとの戦闘よりも遥かに高度な技術、状況判断が求められる。

正直、焦りが生まれ始めていた。

「っ!」

木の影に隠れながら残弾数を確認する。

正直言って、好ましい状況ではなかった。

(落ち着け……落ち着くんだ……!!)

息を整え、ディスプレイを見つめ直す。

(この方法しかない……!)

僕はその考えを実行に移した。


 * * * * * 


準備はできている。

あとは敵が現れるのを待つだけだ。

レーダーの端に表示される熱源が一つ。

(来たっ!!)

しっかりと敵を引き寄せる。

焦りは禁物だ。

敵の姿が見えたとき、僕は敵の足元に銃を放った。

弾丸はどんどん土煙をあげていく。

相手の姿が完全にみえなくなったその瞬間、僕は銃を捨て腰に携えられたナイフを構える。

「うおおおおおおおおお!!」

土煙に身を隠し、僕はナイフを突き刺した。


 * * * * * 


「発想はよかったが、玉砕覚悟、というのは好ましくないな。結果としてこう現れている。だが、我々も君がまけると思っていた。次はこうならないように頑張りたまえ」

先程の戦闘は確かに僕は負けはしなかった。

だが、同時に勝ちもしなかった。

結果はドロー……つまり引き分けだ。

正直、すこし悔しい。

勝ちたかったという思いはあった。

だが、これが現実だ。

すこし気落ちしたまま立ち去ろうとしたそのときだった。

「ねぇ、君がさっきの対戦相手だよね?」

どこかで聞き覚えのある声。

振りかえるとそこには案の定、彼女がいた。

「対戦相手?」

「そうそう。私はアヤ、アヤ・リューグナーって言うの」

「なっ!?」

「驚いた?」

「驚いたも何も……まさか君だったなんて……」

「さっきの対戦、驚いちゃった」

「いやいや、僕なんて……。あのままやっていたら負けていたのは僕の方だよ。どうやったらあんなにうまくCSを操縦できるの?」

「私なんてまだまだ。今回がたまたまだよ」

「たまたまには見えなかったけどなぁ……」

「そんなことより、君この後ヒマ?」

「え? ああ……特に用事はないけど……」

その時、僕は周りの視線に気が付いた。

それは僕に対するものではなく、目の前のリューグナーさんに向けられているようだった。

『なんでこんな日本人なんかと……』

『あの子も日本人の血が入っているって噂よ』

そんな言葉も聞こえてくる。

しかし、彼女は何も聞こえていないのか、それとも聞き流しているのかわからないが、平然としていた。

「僕とかかわって大丈夫なの?」

「へ? なんで? 君は凶悪な犯罪者じゃないんでしょ?」

「確かにそうだけど……」

「大丈夫だよ。さあ、行こうよ」

「わっ! ちょっと待って!!」

僕の手を引っ張って走っていくリューグナーさん。

僕はバランスを崩しそうになりながらもそれについていく。

「ちょっとリューグナーさん!?」

「アヤ!」

「え!?」

「アヤだって!!」

「……アヤさん!」

「何?」

「ちょっと止まってください!」

「あはは~、無理~」

「えええええええええええええええええええええ!!」


 * * * * * 


目が覚めたとき、僕は泣いていることに気が付いた。

(夢……か……)

あの日々が懐かしかった。

あの日々は楽しかった。

だけど、それはもう戻りはしない。

アヤ・リューグナー……彼女の命が散った時、それはもう手に入れらないという現実を突きつけられた。

(思えば、あの時から僕は……)

自分の気持ちを確かめてみる。

……きっと、そうなんだろう。

だからこそ、いまでこそ立ち直れず、いまでもフューラー先輩を許すことはできない。

でも、それがわかったところで今の僕には何も変えられない。

(弱いな……僕は)

その時、チャイムがなった。

(またシャルロットさんか?)

ドアを開けると、そこには見知らぬ男の人が立っていた。

「ユウト・キリシマ君だね?」

「ええ……」

「ちょっと一緒に来てもらうよ」

「え?」

「君には知らなきゃいけないことがある」

その男の人は僕を半ば無理やり、その部屋から連れ出した。


 * * * * * 


『くっ!!』

『さすがに二人だけだときついか!!』

飛び交う銃弾。

岩を背にして身を隠しながら二人はその銃撃を耐えていた。

『やはりユウトを連れてくるべきだったか!』

『お前がこなくていいといったんだろう!!』

『ユウトはまだ、お前のことを許せないでいた。そんな状態でまともな連携ができるか!?』

『だとしても、この戦力差じゃ……』

『見覚えがあるCSが一機。だが、ほかのやつらはサタン・クロスじゃないな……』

『あれは……もしかして……』

『心当たりがあるようだな』

『ああ。東南アジアの小さな新興国家が独自に開発をしたCS……その機体にそっくりだ』

『つまり、これはその新興国家の侵略か!? 国際情勢なんてお構いなしか!!』

『わからない! 一つ言えることはこれにもサタン・クロスがかかわってるってことだ!!』

「“魔王十字のヴィント”じゃなかっただけマシと考えるか……!」

フューラーとシャルロットが追い詰められるのは時間の問題だった。


 * * * * * 


「女子寮……ですか?」

「ああ」

そう答えるだけで、細かくは教えてくれない。

そのままついていくと、監視員が立っている部屋にたどり着いた。

「ご苦労様」

「それじゃあ、中に入ろう」

男の人はその中に入っていく。

僕はそのあとに続いた。

その部屋は女子の部屋とは思えないほど殺風景で、家具等はほとんどなく、生活感を感じさせない、そんな部屋だった。

「この部屋は……?」

「ここはアヤ・リューグナーが使っていた部屋だよ」

「アヤさんの……!」

こんな部屋に住んでいたのかと驚く。

その部屋の雰囲気はアヤさんの雰囲気とは全く違う。

「でも、どうして僕をここに?」

「君には知らなきゃいけないことがあるって言っただろう」

そういうと男の人は一冊のノートを差し出してくる。

それはノートというより日記帳のようなものだった。

「これは?」

「彼女の日記だよ。読んでみるといい」

(これがアヤさんの日記……)

開いていいのかと迷う。

いくらスパイだったとはいえ、僕が読んでいいのだろうか。

「……読めません」

「なに?」

「僕はこの日記を読めません。……僕にとってアヤさんは大事な人だった。いくらスパイだったとはいえ、僕は彼女の日記を読むなんて……そんなことはできません」

「……なるほどね」

男の人はなぜか少し満足したような顔をした。

「合格だ」

「え?」

「合格だといったんだ。ちなみにその日記は彼女の日記なんかじゃない。僕が用意した日記帳さ。中には不合格っていう文字しか書いてないよ」

「え!?」

「開いてみるといい」

試しに開いてみると確かに大きい文字で『不合格』と書かれていた。

「彼女の日記帳なんてこの部屋には存在しなかった。……というか彼女に関するものなんて何一つ残ってなかったよ。……ただひとつ……これ以外はね」

そういって懐から差し出したのは横に長い白い封筒だった。

僕はそれを受け取ると宛名を確認する。

そこには『ユウト君へ』と書かれていた。

「すまないが、中を見させてもらったよ。調査だったからね」

「いえ、構いませんが……」

「読むか読まないかは君次第だ。僕は部屋の外で待っていよう」

そういうと男の人は部屋から出ていった。

殺風景な部屋に残された僕は、悩んでいた。

読むか読まないか。

さきほどとは違い、ここにははっきりと宛名が書いてある。

この字は間違いなくアヤさんの字だ。

意を決する。

僕は封筒から手紙を取り出した。


 * * * * * 


ユウト君へ


こうして手紙を書いているのはなんだか不思議な気がします。

さっきまで一緒にいたのにね。

シャルロットさんからしばらく休みだと聞かされた時、私は自分の正体がばれるんじゃないかと思いました。

きっとフューラー先輩の極秘任務というのは私のことだと思います。

なので、この手紙をしたためることにしました。

君にあった時、私は日本人である君が気になって仕方がありませんでした。

きっかけとなったのは、食堂や対人訓練の時です。

あの時の君の顔は頼れる人がいない、孤独でつらそうな顔をしていました。

たぶん君は、自覚がないんだろうけど、かなりひどい顔だったよ。

そんな君を私は放っておけなくなりました。

たぶん、私が戦争孤児で一人だったからだと思う。

だから君に親近感がわいたのかなって。

君とかかわっていくうちに、私は人の温かさを知り、次第に君と別れたくないと思うようになりました。

……初めからスパイとして潜入しておいてそれがかなうことはないってわかっていたのに、心の中でずっとそういう思いがありました。

おかしいよね。

あいつに死ぬほど叩き込まれたのに、ころっとダメになっちゃうなんて。

思えばあの時から君は私の中でかけがえのない存在になったんだと思う。

たぶん、私は君に正直な気持ちを正直な言葉で伝えることはできないだろうからこの手紙で言うことにするね。

水族館、とても楽しかったよ。

一緒に帰って帰り道も、交わした言葉もどれもこれもが私にとって大切な思い出になりました。

嘘をついていてごめんなさい。

こんなうそつきの私を許してくれとはいわないよ。

だけど、これだけは……この気持ちだけは嘘はつきたくない。

ユウト君……私は貴方のことが好きです。

できることなら……もっと君と一緒にいたかったなぁ。

それで、ユウト君。

私のお願いを聞いてほしいんだ。

私の最後のお願い。

お願い、私の分まで生きて。

君にはまだ明るい未来があるんだから。

さようなら、ユウト君。

君に会えて、私の人生は幸せでした。


アヤ・リューグナー



 * * * * * 


「なんだよ……それ……なんだよ!!」

涙が零れ落ちる。

「僕の気持ちなんか……聞かないで……自分一人で……」

誰もいないその部屋に僕の嗚咽が響く。

「僕だって……アヤさんのこと……好きだったよ! どうして死んじゃうんだよ! アヤさん!!」

その慟哭に誰も答えはしない。

ただ、静寂がその場をつつんでいるだけだった。


 * * * * * 


それからしばらくして、僕は部屋を出た。

もう、フューラー先輩に対する怒りなんてどこにもなかった。

そもそも、僕は自分のふがいなさを誰かに擦り付けて逃げていただけなのかもしれない。

だけど……もうやめよう。

アヤさんはきっとそれを望んでいないから。

「……いい面構えになったね」

「……シャルロットさんとフューラー先輩は今どこにいるんですか?」

「そう来ると思ったよ」

そういった直後、輸送機が目の前でドアを開け、ひも梯子を垂らした。

「乗ってくれ。君のCSはすでに積んである」

「了解!」

僕は壁を思い切り、踏み込みひも梯子へ飛びついた。

そこから梯子を昇っていく。

僕が完全に上りきるとそのあとにあの男の人も梯子に飛びついた。

僕は上から梯子を引っ張り上げる。

「ありがとう」

「それであの人たちは!」

「今彼らは戦場にいる」

「戦場に……?」

「聞いただろう? 緊急任務だって」

「ええ……」

「攻めてきたんだよ、敵が」

「規模はどれくらいですか?」

「軍隊の中隊が一個だろう」

「そんな規模を……ほかに味方は!?」

「いないよ。すぐに出撃できる状態だったのが彼らだけだったんだ」

「それじゃあ……!」

「君は急いで、準備をするんだ」

「了解!」

(これ以上……死なせてたまるもんか!!)


 * * * * * 


『くそっ! ライフルの残弾がなくなった!!』

『こちらもだ! ……残っているのはナイフだけか……』

『この弾幕を抜けて零距離まで近づくのは……無理だな』

『それじゃあどうする!? このまま黙って撃たれるのを待つだけか!?」

『そういうわけじゃない! ……ん?』

遠くから見える一機の輸送船。

フューラーはいそいで、それを確認した。

そこにはラスト・フォート社のロゴがプリントされていた。

『味方が来たのか!!』

『ああ!!』

バルーンを背負い、飛び降りてくる二機のCS。

そして、上空からミサイルランチャーを連射し始めた。

『あんな状態であんなのを撃ったらバランスを崩すぞ!?』

シャルロットは驚いたような、あきれたような声を出した。

『フューラー先輩! シャルロットさん! 無事ですか!?』

『その声は!!』

『ユウト!!』

ミサイルランチャーを放ちながらなおも降下を続けるCS。

『どうしてお前がここに!?』

フューラーは驚きを隠せない様子だった。

さきほどまでシャルロットがユウトの謹慎を解除しなかったのを聞いていたからだ。

そんなやつがいきなりここに出てくるとは思ってもいなかっただろう。

『僕が連れてきたんだよ』

『お前……!』

『久しぶりだね、フューラー。3年ぶりくらいかな』

『クラウス!!』

『アルフォンス! 感動の再会は後まわしだ!!』

『僕も加勢します! 誰一人……僕の仲間は死なせません!!』

『さあ行こう、フューラー。君がリーダーなんだろう?』

『……ああ』

フューラーは操縦桿を強く握りなおした。

そして深呼吸。

『行くぞ! この窮地を乗り切る!!』

『了解!』

フューラーをはじめとする4人のコンストラクターは今もなお侵攻してくる敵に向かって戦いを挑む。

これが、世界を変える大きな戦いになることも知らずに……。

立ち上がったユウト、始まる戦闘。

戦場で出会ったのは同年代のライバルだった。

そして、世界は……!!

次回 第六話 「崩壊への序曲」

青年は生きる意味を知る―――。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ