真実の代償
どうもMake Only Innocent Fantasyの三条 海斗です。
さて、四話ですね。
予定としてはこれで4分の1が終わったことになります。
展開が早いというか飛ばしすぎなのはいつも通りなので、そこは了承を。
それではどうぞ!!
「ふむ……」
フューラーは自室で考え込んでいた。
目の前のディスプレイには先日の戦闘の様子が映し出されている。
CSにはディスプレイに表示された映像を録画しておく機能がある。
コントラクターが乗るCSには証拠のために起動と同時に録画機能がオンになる。
そして、改ざんされないために自動的に会社のサーバにアップロードされ、暗号化される。
それはこのラスト・フォート社でも一緒だった。
今見ているのはフューラーが自分で操縦していたCSの映像。
フューラーはヴィントの動きに不思議なところはないか、周りの状況はどうかをもう一度分析しようとしているのだ。
それは、先頭終わりに浮かんだある疑問。
(この作戦は外部には非公開だった。別働隊のルートはわかっても俺たちがミサイルランチャーを放つタイミングまでは知りえなかったはずだ……。疑いたくはないが……)
それはあってはならない疑念。
フューラー自身も間違っていてほしいと願っていた。
フューラーは確信に近づけるため、独自に調査を進め始めた。
* * * * *
「え? 休み?」
僕らの小隊に割り当てられた部屋……いわゆるオフィスに僕の素っ頓狂な声が響いた。
「ああ。今、フューラーが単独で別の任務に当たっているからしばらくは休みだ」
「単独の任務?」
アヤさんはキョトンとした声を出す。
その質問にシャルロットさんは申し訳なさそうな声で答えた。
「すまんな。私も知らないんだ。ただ、上からそういう連絡をもらっただけで……」
「そうなんですか。でも何でしょうね。単独の任務って……」
「さあな、見当もつかん。なにせこんなことは私が入ってから一度もなかった」
「そうなんですか!」
「ああ。私も初めてのことに困惑しているよ。そんなわけだからしばらくは自由にしていてくれ」
「了解しました」
「了解です!」
僕とアヤさんの返事を聞くと、シャルロットさんは部屋を出ていった。
「どうしようか」
「う~ん……」
アヤさんは何かを考え込んでいるようだった。
「とりあえず今日のところは寮に帰ろうか。昨日の任務の疲れも残ってるし……」
昨日の任務。
“魔王十字のヴィント”が去ってからは何事もなかったとはいえ、ヴィントとの戦いは今までのCSの戦闘のどれよりも威圧され、圧倒され、格の違いを見せつけられた。
(戦い自体には勝ったけど、ヴィントがあのまま引いていなかったら……。)
そう考えるだけでぞっとする。
(あのバリアみたいなものの正体もわかってない……。今度戦うことになった時に、あれを攻略できないと……!)
「ユウト君、どうしたの? なんだか、難しい顔をしてるよ?」
「ああ、ごめん。なんでもないよ。疲れが抜けてないのかな……」
「きっとそうだよ。それじゃあ、早く帰ろ!」
アヤさんは僕の手をつかむと、勢いよく駆けだした。
「うわっ!」
僕はバランスを崩しながらも、がんばってついていく。
(なんだか、慣れてきちゃったなぁ……)
アヤさんとの一緒にいるのは楽しいし、気が楽だ。
明日もこうして手を引っ張られる日々が続くのだろうか。
(でも、それも悪くないなぁ……)
そう思いながら、僕はアヤさんの後をついていく。
* * * * *
「えっと……磁界、磁界っと……」
僕は寮に戻ると磁界について調べ始めた。
N極からS極に線が引いてある、教科書ででてくるあの画像が出てきた。
(まさか、電気を放電して弾丸を磁石にして反発させている……なんて、考えすぎかな。)
だが、一概に否定もできない。
レーダーに異常があったのは事実だ。
可能性の一つとして考えておいてもいいだろう。
(結論は出そうにないなぁ……)
ごろんとベッドに寝転ぶと大きく伸びをした。
別に急ぎの用があるわけでもない。
休みの日ぐらいは仕事のことは忘れたいものだが、頭の中に出てくることは昨日の戦いのことばかりだ。
魔王十字の出現、情報の漏えい……。
(考えるのはやめよう。……さて、どうしようかなぁ……)
別段やることもない。
だけど、せっかくの休みを無駄にするわけにもいかない。
そう思い、僕は出かけることにした。
行先は特に決まっていない。
(ぶらぶらしてれば気になるところも出てくるだろうし、家にいるわけにもいかないからなぁ……)
ゆっくりと支度を終えると、部屋を出ていく。
バタンという音がやけに大きく聞こえた。
* * * * *
「やっぱりだ……。いくら探しても出てこない……」
フューラーのその言葉にはすこしだけ苛立ったような雰囲気を持っていた。
それは、自分が見落としたのではないかという焦りから。
それは、疑念が確信に変わったという驚きから。
「どうして気付けなかった……!!」
目の前に広がる書類の山。
ドンとフューラーが机を思い切りたたくとバサバサと音を立てて崩れ落ちていく。
「……もう少し調べる必要がありそうだ……」
フューラーは特定の人物に絞って調査を始める。
その顔にはわずかだが、覚悟を決めた雰囲気を漂わせていた。
* * * * *
(繁華街には来てみたものの……)
平日の昼間というのに、この通りには歩くのが困難なほど人がごった返していた。
よく見ると、アジア系……というか日本人っぽい顔がたくさんいた。
(ああ……そういうことか……)
8月。
日本では夏休みだ。
(海外旅行か……。それにしても、多くないか?)
別段、このあたりの地理に詳しいわけではないので、近くに観光スポットがあるのかもしれないがこの通りにはそれといって人が集まる要素があるようにも思えなかった。
「っ! うわ! ごぉ!」
腹部に痛みが走る。
(今、誰か殴らなかったかっ!?)
とはいってもこの状況では犯人を特定することは不可能だ。
(引き返そう!!)
危険を感じた僕は急いで引き返す。
人の流れに乗れたおかげで、幸い出口にはすぐにたどり着けた。
「ぜぇ……ぜぇ……」
数分、わずかな時間しかいなかったのにかなり疲れた。
「こんなところで何をしてるんだ?」
「え?」
突然、声をかけられ前を見る。
そこにはシャルロットさんが立っていた。
「シャルロットさん!?」
「なんだ? いきなり大きな声を出して……」
「いえ、まさかこんなところにいるなんて思いもしませんでしたから……」
「私も休日なんだ。出かけるくらいはするさ」
「そうなんですか……」
「どうした? ……ああ、そういうことか」
シャルロットさんが繁華街の方に視線をやるとすべてを悟ったようだった。
「この時期に繁華街に行くなんて、な。この繁華街が土産だったり、グルメだったり、観光客があふれる場所と知っていて行こうとしたのか?」
「そんなわけないじゃないですか……。初めて知りましたよ……」
「そうか。……ところで、ユウト。今、時間あるか?」
「え? ええ……」
「ならすこし私に付き合ってほしい」
シャルロットさんの突然に誘いに僕はすこしだけ言葉を失った。
「時間……ないのか?」
返答を迷っているように思われたのかシャルロットさんはゆっくりと聞いてきた。
「いえ、時間を持て余していましたから。それで、どこに行くんですか?」
「ついてきてくれ」
そういうと、歩き出すシャルロットさん。
僕はおいていかれないようにその後ろをついていった。
* * * * *
「ここ……ですか?」
「ああ、ここだ」
目の前にひろがるファンタジーな空間。
頭にリボンを付けた猫や星に乗った双子が出てきそうな場所だ。
「でも、どうしてここに?」
「一度来てみたかったんだ。仕事柄、こういうところに縁がないからな」
「ああ……確かにそうですね……」
正直、気が引ける。
こういうところにはあまり入ったことはない。
「さあ、行くぞ」
「あ、はい」
シャルロットさんの後ろについていく。
よくみると、シャルロットさん一直線にどこかへ向かっているようだった。
「もう行きたい場所が決まってるんですか?」
「ああ。……時間もぎりぎりだ。急ぐぞ」
シャルロットさんは歩くペースを上げる。
訓練されたそれは常人よりもはるかに早く、僕もすこし小走りになった。
たどり着いた先はというと……
「みんな~元気~??」
とてもかわいらしい声でそう聞いてくるのはこのパークのマスコットキャラクター・こーはくんだ。
その名の通り、紅白カラーの馬のマスコットキャラクターで、このパーク一の人気者……とパンフレットには書いてある。
確かにその愛らしい見た目と、声は万人受けしそうだ。
(でも、これ競馬場にいそうだぞ……?)
紅白というめでたい色に、馬。
条件はばっちりそろっている。
今度は巫女服らしき服を着たマスコットキャラクター・透子ちゃんが出てきた。
長い黒髪に、和服。
なんだか、日本を感じる風貌に親近感を覚えずにはいられなかった。
(そういえば、海外の人から見れば日本人は愛嬌があって割と好まれるっていう話を聞いたことがあるような……)
もちろん、あっている保証はない。
続々と出てくるマスコットキャラクターたちがポップな音楽に乗せて、踊りだす。
そう、たどり着いた先はこのパークのパレード会場だった。
「おおっ!!」
感嘆とした声が隣から聞こえる。
シャルロットさんだ。
(シャルロットさんこんな趣味があったなんて……。頼りになる先輩だからわすれていたけど、シャルロットさんも女の子なんだよなぁ……)
「透子ちゃんだっ! 透子ちゃんが私に手を振ってくれているぞ!!」
年相応……とはいいがたいが、純粋に楽しんでいるシャルロットさんに何も言えなかったし、なにも言おうとも思わなかった。
パレードが終わるまで、シャルロットさんは終始笑顔だった。
* * * * *
「見たか、ユウト!! こーはくんや透子ちゃん、それに透兄さんまで出てきてくれるとは思ってなかったぞ!!」
「楽しかったみたいですね」
「ああ。それで……」
シャルロットさんが次に何を言いたいかわかっていた。
「わかってますよ。それじゃあ、行きましょう」
そういうと、シャルロットさんはうれしそうな顔をした。
その後、僕らはパークの中を巡った。
帰るころにはすでに日が沈み始めていた。
「今日はすまないな。こんな時間まで付き合わせて」
「いえ、楽しかったですよ」
「そういってもらえるとありがたい」
「それにシャルロットさんの意外な一面を見られましたから」
「ん? それは一体、どういうことだ?」
しまった。
そう思い、シャルロットさんの顔を見ると、それはそれはすごい顔をしていた。
「いやあ……なんでもないですよ……」
僕はゆっくりと距離をとる。
「なぜ距離をとるんだ?」
じりじりと近づいてくる。
やばい。
そう直感した僕は走り出した。
「待てっ!」
「待てません!!」
その追いかけっこはしばらく続き、最終的に僕はつかまりシャルロットさんのお叱りを受けたのだった……。
* * * * *
「ほう、それでは正体が露見した可能性があるということだな?」
一人、誰もいない部屋で男はそうつぶやいた。
どうやら、男は電話をしているようだった。
「なるほど」
男はそういうと、何か考えるような仕草をした。
「そろそろ限界だろう。お前は時期を見計らって帰還しろ」
電話が終わったのか、男は立ち上がり窓辺へと歩いていく。
月明かりに照らされ、男の顔がはっきりと見える。
その男は先の戦場でユウトたちに絶大な力を見せつけた“魔王十字のヴィント”だった。
「さて、どう動く……」
ヴィントの顔に笑みが浮かぶ。
この男は楽しんでいる。
そう思わざるを得ない笑みだった。
だが、その笑みはすぐに消えた。
ドアがノックされたからである。
「どうした?」
そう返事をすると、一人の青年が部屋に入ってきた。
「先ほど、上官からここに来るようにと」
「そうか。お前が……」
ヴィントは青年を見る。
「お前には、私の下に直接ついてもらう」
「司令の下に、ですか」
「ああ、そうだ。さっそくだが、任務だ」
ヴィントが青年に任務を言い渡す。
* * * * *
シャルロットさんの意外な一面を見た日から数日後。
僕らはフューラー先輩に呼び出されていた。
「それにしても、いきなり招集なんてどうしたんだろ?」
アヤさんはいつもの調子で、そう言った。
「フューラー先輩の仕事が終わって次の任務が決まったんじゃないかな」
「あ、なるほどね。確かにありえそう。ところで、ユウト君は休日何してたの?」
「僕? 基本的には家にいたかな。あ、でも初日だけシャルロットさんと出かけたよ」
「へえ~そうなんだ~。さぞ、楽しかったでしょうね~」
なんだか、アヤさんの言葉にとげを感じる。
「出かけたって言ってもたまたまあっただけだよ」
「み~んなそうやっていうんだよ。私は誘ってくれなかったのに」
「……アヤさん、怒ってる?」
「別に~」
「やっぱり怒ってるよね!?」
慌てふためく僕の姿を見て、アヤさんは笑いをこらえられなかったようだ。
大声で笑い始めた。
「笑わないでよ……」
「ごめんね。あまりにも慌てるから……ぷぷぷ」
「ひどいなぁ」
そんな話をしていると、フューラー先輩とシャルロットさんが入ってきた
「全員そろってるな」
いつもの調子ではなく、その言葉にわずかな重みを感じた。
それに雰囲気がいつもと違う。
シャルロットさんはドアの前をふさぐように立っている。
「先日、多国籍軍との合同任務で“魔王十字のヴィント”が現れたのは全員覚えているな?」
僕はうなずく。
周りもうなずいたようだった。
「やつは明らかに俺たちの行動を知っていたように見える。そこで、俺は内部調査をしていたんだ」
「内部調査……それじゃあ、スパイがいるってことですか!?」
「ああ。今回の任務はそのスパイの捕獲だ。正直に言ってこの作戦にユウトを参加させるつもりはなかったんだが、お前も真実を知っておいた方がいいと思ってな」
「真実……?」
その言葉の響きに、なぜか引き込まれていった。
だけど、直感が『知ってはいけない、踏み込んではいけない』と告げている。
(僕は……!)
「大丈夫です」
「そうか……」
フューラー先輩はつらそうな顔をする。
一体、どういうことなんだろうか。
「あの作戦は多国籍軍の総司令官にさえ、俺たちの動きは教えていない。伝えたのは『東から攻める』という点と『用意してほしい装備』を伝えただけだ。この二点から俺たちが狙撃をすると想定することはできても場所やタイミングまでは知りえることはできないだろう。つまり、そこから導き出される結論は一つ……」
その答えを聞くのが怖かった。
だけど、その答えは僕の頭の中にもあった。
「この班の中にスパイがいる」
「ちょっと待ってください! いくらなんでもそれは……!!」
咄嗟に否定していた。
そうしないといけない気がした。
「正体わかっているんですか!? それに証拠は……!!」
「正体もわかっている。もちろん、証拠もある」
「じゃあ、一体誰なんですか!」
わかってる。
だけど、そういうしかなかった。
「君だろう? アヤ・リューグナー」
「……」
シャルロットさんは聞いていたのか反応をみせず、アヤさんは否定もせずただ黙っているだけだった。
「アヤさんがスパイなわけが……!」
「戦闘記録を見させてもらったよ」
僕の言葉を遮るようにフューラー先輩は話し続ける。
「俺の分も含めて全部、ね。シャルロットやユウト、それに俺に共通していてアヤにはなかったもの……教えてくれ。どうして“ヴィントが現れたって通信が入ったとき、驚きもせずに平然としていられたんだ”?」
「……」
「それに、その時の記録にはすこし特徴的な音があった。通信では聞き取れないような音だがあれはタイプ音だろ?」
「それは状況証拠にしか……」
「物的証拠が欲しいのか?」
フューラー先輩は俺をまっすぐとみる。
「……ないんだよ」
「はい?」
「アヤ・リューグナーなんていう人間は“世界中どこにも戸籍が存在しない”。調べてみたらアヤが入隊時にだしたものはすべて偽装されたものだったよ。それにアヤがスパイとして動いていたのは今回だけじゃない。初めて任務に出たときもアヤはこちらの作戦を事前に流していた。今頃、調査部の連中がお前の部屋に入って調べてるだろう」
「でも……!」
「いいんだよ、ユウト君。」
「アヤさん?」
「どうして、こうも早くばれちゃったんだろうなぁ……」
「認めるんだな? お前がサタン・クロス社のスパイだってことを」
「正確にはヴィントの、ですけどね」
「アヤさん……嘘だよね……?」
「本当だよ」
否定してほしかった。
違うとその一言がききたかった。
だけど、それは目の前であっけなく崩れ去った。
「悪いが……君を拘束させてもらう……」
「すみません。そういうわけにもいかないんです」
アヤさんは懐からスイッチを出し、押した。
すると、アヤさんの鞄が爆発し、煙が部屋に充満する。
「煙幕か……!」
ごほごほっとむせる。
「なっ!?」
ドンという人が倒れる音が聞こえると扉が勢いよく開け放たれた。
「待て!」
フューラー先輩がむせながらもアヤさんの後を追う。
僕はシャルロットさんのそばに向かった。
「大丈夫ですか!?」
「ああ、煙幕で油断した。それより、私たちもアヤの後を追うぞ!」
シャルロットさんが駆け出す。
僕はそれに続けないでいた。
「急げ! 真実が知りたいのなら、自分で動かねばつかめないぞ! アヤを想うのならお前が何とかしろっ! できることを放棄するな!! 急げ!!」
そういうとシャルロットさんは走り出す。
「くそっ!!」
僕は駆け出していた。
シャルロットさんの後ろ姿を追いながら、たどり着いた先は格納庫だった。
「もう逃げられないぞ!」
フューラー先輩は銃を向ける。
「アヤさん!!」
そう叫んだ直後だった。
大きな音を立てて格納庫のシャッターに穴が開いた。
穴をあけたのはCSの手だった。
まるで紙を破るようにシャッターを壊していく。
その姿を僕らの目の前にのぞかせた。
「遅いよ」
アヤさんはそうつぶやいた。
そして、アヤさんが駆け出したあと、CSは対人用バルカンを放ち始めた。
「っ!」
フューラー先輩は急いで、横に跳び回避する。
そのままコンテナを盾にするように身を隠した。
僕も流れ弾に当たらないようにコンテナに隠れた。
「やつは!?」
「わからない! 見たところ、アヤの仲間みたいだが……!」
「まさか、最初から……」
「かもしれないな。もしかしたらすでに証拠となりえるものは消した後かもしれないな……」
銃弾が止み、コンテナから顔を除くとCSが一機起動していた。
それはアヤさんのCSだった。
「アヤさん!!」
僕の声が聞こえたのか、一瞬立ち止まったがそのまま歩いていく。
格納庫から完全に出たことを確認すると、敵のCSはアヤさんの後を追って出ていった。
「CSに乗れ!!」
フューラー先輩のその声が響く。
すでにフューラー先輩は走っていた。
となりにいるシャルロットさんはもう立ち上がり走り始めていた。
「くっ!」
半ばやけになりながらも僕は走り出す。
(アヤさんに……真実を聞かないと……!!)
それだけが僕を動かしていた。
嘘だと信じたい。
いつもみたいに笑ってくれるという期待が、胸を締め付ける。
CSを起動している間も、なぜか楽しかった日常が思い返してたまらなくなる。
(立ち止まるな……! 動けよ……!!)
ディスプレイにカメラの映像が映し出される。
『行けるか?』
「行けます! 行かなくちゃ……いけないんだ……!!」
(アヤさん……!)
ペダルを踏むと、CSが走り出す。
周りは森だ。
それだけ、注意しなければならない。
それでも普通の人間が走るよりも速いスピードなのに、それがどこかもどかしく感じた。
もっと速く走れと。
そう思えて仕方がなかった。
(くそっ……! どこだ……!?)
走りながらレーダーを見つめる。
レーダーには3つの熱源反応があった。
1つはフューラー先輩。
1つはシャルロットさん。
残るもう一つは……。
(さっきのやつか!!)
動きをよく見ると、全員が同じ方向に動いている。
ならば、一番遠いのがやつだと考えるのが妥当だろう。
(距離は……5000!!)
僕はペダルをさらに深く踏み込む。
フルスピードでの駆動はあまり持たない。
モーターが熱をもち、オーバーヒートする可能性があるからだ。
距離をどんどん詰めていく。
時に緩め、時に詰め、そうしなければ動かなくなってしまう。
敵を目視できる距離まで近づいていた。
そのとき、僕は異変に気付いた。
「っ!!」
咄嗟に、横に跳ぶ。
直後、弾丸が僕の横を通りすぎる。
「待ち伏せかっ!!」
木々に隠れながら、様子をうかがう。
さすがに相手もあれだけで倒せると思っていなかったのか、その場から動こうとはしない。
(ここでたたくつもりだな……)
なぜかそう冷静に考えることができた。
(それなら……!)
僕はライフルを構える。
そのままトリガーを引いた。
弾丸はまっすぐ敵のCSに向かって飛んでいく。
敵もこちらの動きを読んだのか、弾は当たらなかった。
「くそっ!!」
(こんなところで足止めを食らってる場合じゃないのに!!)
僕はライフルを腰にロックし、すぐにナイフを取り出した。
そして、そのまま一直線に向かっていく。
敵もそこまでは予測していなかったのか、ライフルでナイフを防ぐのが精一杯のように見えた。
「うおぉぉぉぉぉぉ!」
レバーが極端に重くなる。
時折もどされ、押し、という攻防を繰り返していた。
どちらも両手がふさがっていて、相手に一撃を食らわせることができない。
蹴りなんて入れようと動いたら押し倒されるのが関の山だ。
だから、その場でつばぜり合いをするしかなかった。
その時だった。
横から出てきたCSが敵のCSを蹴り飛ばした。
『行け! ユウト!!』
その声はシャルロットさんだった。
「すみません!!」
僕はそのまま走っていく。
敵のCSが僕に照準を合わせようとしていたが、シャルロットさんがそれを制止する。
最後に見たのはその光景だった。
深い森を走っていく。
真実を知りたい。
その一心で走っていく。
そんな僕の心を読んだのか、違う理由なのかわからないが熱源反応が一つ、止まっていた。
(来いってことか……!)
しばらく走っていると、そこには見覚えのあるCSが一機、堂々と立っていた。
武器も構えず、逃げるようなそぶりをせず、ただ待っているように、立っていた。
だから僕は通信機を操作して、そのパイロットの名前を叫んだ。
「アヤさん!!」
『やっぱりユウト君だったんだ。さっき、彼が相手していたCSのパイロットは』
「どうしてこんな……!」
『私はもともとスパイとしてラスト・フォート社に入った。遅かれ早かれこうなることはわかってたよ。ぜ~んぶ、うそ。生まれた場所も、身分も、嘘』
「僕に嘘をついていたってこと!? あの日々も嘘だってこと!?」
『……暇だったから誘ってただけだよ。報告が終わればすることなくなっちゃうもの』
「水族館にいったことがないって話も……駅前で遊んだ時も……全部嘘だっていうの!?」
『……当たり前だよ』
「……アヤさん。僕が訓練時代に日本人だからっていう理由で周りから孤立してたのは知ってるよね?」
『……うん』
「あの時、アヤさんから話しかけてくれて……本当にうれしかったんだ。あれからずっと、アヤさんは僕とかかわってくれた。おかげで訓練を乗り越えられたんだ。同じ班になった時は……うれしかった。フューラー先輩の冗談に本気で怒ってくれたことも。駅前ではアヤさんのペースに振り回されてたけど、僕は楽しかった。水族館、イルカショー二人で見たよね。僕の大切な思い出だよ。こんな日常が……アヤさんと過ごす日々がずっと続けばいいなって思った。……アヤさん、お願い。戻ってきてよ。また二人でいろんなところに行こうよ! まだ行ったことないところもたくさんあるよ! お願いだよ……アヤさん!!」
『……それは無理だよ』
目の前が真っ暗になるような錯覚に襲われる。
『……ねえ、私の話も聞いてくれるかな?』
その問いに僕は返事ができなかった。
だけど、アヤさんはそのまま話し続ける。
『私ね、本当は自分がわからないんだよ。……戦争孤児だから。自分が生まれたところも、親の顔も、本当の名前も、わからないの。そんな私を拾ってくれたのが、ヴィントってわけ。あれは本当につらかったなぁ……。本当に容赦がなくてね、まだ小さい私に戦い方をスパルタで教え込んだの。今思えば最初からスパイとして使うつもりだったんだろうね。私はヴィントの命令でこの会社に入り、そして君に出会った。』
「……」
『黒髪に黒い目。生粋の日本人なんだなぁって見てわかった。周りも日本人日本人って言ってたから疑いの余地はなかったよ。最初は放っておこうって思ったんだけど……一人でいる君が放っておけなくなって……。たぶん、一人ってことに親近感っていうかそういうのを抱いたんだと思う。周りに自分を助けてくれる人がいなくて、一人でなんとかしようと必死で……いつの間にか関わるようになってた。私もね、君といるときは本当に楽しかった。だけど……』
アヤさんはライフルを構える。
『もう引き返せないんだ』
「アヤさん……!」
『私は君を撃って未練を断ち切る。……撃たないと思わない方がいいよ。』
その声には真剣みがあった。
『……ばいばい。ありがとう……』
「……!? アヤさん!!」
そう叫んだ時、銃声が聞こえた。
それは僕を貫こうと放たれた弾丸じゃなかった。
「……! アヤさん!!」
『ははは。ざまぁないね……』
「急いで脱出するんだ!!」
『CSに脱出機構がないのは知ってるでしょ?』
「なにか……! なにか、ないのか……!」
『ねえ、ユウト君……私ね……君のこと……好きだったよ……』
「アヤさん……?」
『これは本当……。できれば君とは別の形で会いたかったなぁ……』
バチバチという音が大きくなっていく。
「……!」
音は大きく、そして感覚は短くなる。
そして、アヤさんが乗っているCSは爆発した。
「……! アヤさん……。アヤさあああああああああああああああああああああん!!」
1つの命が目の前で散った。
放たれた弾丸、散った命。
彼女の笑顔が、声が焼き付いていた。
ユウトは銃を放った者に怒りを抑えきれずにいた。
次回 第五話 「残されたモノ」
青年は生きる意味を知る―――。