生きるために
どうもMake Only Innocent Fantasyの三条 海斗です。
ついに最終話です!
この後にエピローグが入ってFor Aliveは完結です。
ユウトの戦い、最後までご覧ください!
まだまだ稚拙な部分もありますが、最後までおつきあいお願いします。
それではどうぞ!!
「来たか」
風に吹かれ、二本角を生やしたCSのマントが揺れる。
それはアニメに出てきそうな、魔王のようだった。
「どうしてこんなことを……?」
「それは戦争を起こした理由か? この“サタン”を作った理由か?」
「戦争を起こした理由です。……シャルロットさんの話を聞く限りでは、あなたはそんな人じゃなかった」
「時間とは残酷なものだ。その流れは、人も世も、価値観でさえも変える」
「一体、何があったんですか!? シャルロットさんが尊敬していたあなたに!!」
「お前には関係のないことだ、ユウト・キリシマ。どのみち、もうすでに手は打った」
「どういうことですか?」
「この“サタン”はチャージを完了して数分以内に発射される。それは私がスイッチを押さなくても、だ」
「なにっ!?」
「チャージまであと1時間半といったところだろう。それまでに私を倒し、この“サタン”など、破壊できん」
「それでも、僕は! この戦争を止める!!」
「やってみるがいい。そして、それが終わった時、全てを悟るだろう」
僕は携えた刀を構えると、最強のコンストラクター・“魔王十字のヴィント”に向き合う。
彼は、杖のようなものを持ち、その場から全く動かなかった。
「僕は貴方からしたら、未熟かもしれない。何も知らないかもしれない。だけど、それでも必死になって、ここまで来た。その過程で大切なものを失い、大切なものを手に入れた。だから、ここであなたを討つ! 戦うことで守れるものがあるのなら、僕は戦う! もう仲間を、誰一人失わせない!!」
「ならば、その信念をぶつけてくるがいい!」
「行くぞ!!」
“クサナギノツルギ”を構え、ヴィントに向かって走る。
「うおおおおおおおおおおおお!!」
ヴィントはそんなことなど、意に介していないように、動かず、ただ杖を前に出した。
「っ!?」
(やばい!!)
咄嗟にそれを理解し、横に跳ぶ。
直後、電撃が僕の横を通り過ぎた。
(エドワードの!!)
「これを避けるとはさすがだな。だが、次はこうはいかんぞ」
「くっ!!」
何度も放たれる電撃。
避ける、斬る、避ける―――。
だんだんと距離は離され、最初に立っていた一よりも後ろに下げられた。
(なんとかして、近づかないと!!)
そんなことを考えていた矢先、サブモニターに赤く文字が浮かんだ。
“SLASH”の真下に“Limit 12%”と表示されていた赤い文字。
すぐに理解した。
(“クサナギノツルギ”で防げる電撃には限界があるのか!!)
なおも、ヴィントの攻撃はやまない。
攻撃の間隔、一瞬の隙でクサナギノツルギを振り下ろした。
弧を描いて飛んでいく電撃。
さすがのヴィントもその攻撃を避けた。
(いまだっ!!)
ペダルを思い切り踏み込み、ヴィントへと駆ける。
まるで飛んでいるかのような錯覚に陥るほどの全速力。
ヴィントとの距離は数秒で詰めることができた。
「終わりだああああああ!!」
“クサナギノツルギ”を振り下ろす。
ガキンという音がその場に響き渡った。
「くっ!」
「やるな」
ヴィントは杖で僕の攻撃を防ぎ、そのままつばぜり合いに発展していた。
「どうしてあなたは!!」
「私には時間がないのだ!」
刀がはじかれると、杖の電撃が出る太くなっている部分で突かれた。
「ぐぅっ!!」
(あの杖全部が武器なのか!!)
遠距離攻撃用の電撃、近接戦闘用の槍、そして電撃発射部分は破壊用のハンマーといったところだろう。
あの杖の先端部分は鋭利になっていて、薄い装甲ならば簡単に貫けそうだ。
「あなたが癌だからですか!?」
「知っていたか」
「エクレイアで拾った錠剤。それは肺がん用の薬でした」
「なるほど、あの時か」
「でも、それだけで世界を!?」
「私は癌になっただけで、世界を相手にするほど愚かではない!!」
「それじゃあどうして!!」
次の瞬間、ヴィントのCSがメインディスプレイいっぱいに映った。
「しまった!!」
赤く光る双眼が、恐ろしさを一層引き立たせる。
咄嗟に機体をひねらせ、半身になる。
その横を杖の先端が空を切った。
「っ!!」
刀を無理やり振る。
ヴィントにこんな攻撃が当たるわけがない。
当然、ヴィントは後ろに跳び、攻撃を避けた。
「大切なものを失ったといっていたが、お前などまだまだだ」
「なに……?」
「アヤごとき、いくらでも代わりはいるだろう」
「……!!」
「そこまで“道具”に愛着を持ったか?」
「お前に……アヤさんの何がわかる!!」
「知らないのはお前の方だ」
「アヤさんがどれだけ優しかったか……アヤさんがどれだけ苦しんだか……そんなこともわからないあなたに! アヤさんのことを知らないなんて言われたくない!!」
苛立ちが募る。
自分が大切だと思った人を、悪く言われたからか。
理由はわかっていた。
アヤさんが苦しんだ理由。
どっちも裏切ることなんてできなかったんだ。
それを彼はわかっていない。
それが苛立ちを募らせている一因だった。
「うおおおおおおおおおおおお!!」
勢いよく、刀を振る。
何度も、何度も。
そんな乱雑に放つ攻撃を、ヴィントは余裕といった風にかわしていく。
「感情のまま戦ったところで、何も得られないぞ」
「貴方みたいな冷酷な人になるくらいなら、こっちの方がいい!!」
「子供だな」
「何といわれようと!!」
刀を振る。
その一撃が、片手で防がれた。
「だから、甘い」
メインディスプレイが真っ白に染まる。
(避けられないっ!!)
* * * * *
「準備は完了しているか?」
ヨシュアは一斉通信でそう呼びかける。
各機から『OK』の答えが返ってきた。
「行くぞ!」
CSの両目が一斉に光る。
昼間の郊外を一斉に取り囲むCSの軍。
決して多い数とは言えないが、都市侵攻には十分すぎる数だった。
(なんだか、悪いことしてるみたいだよなぁ……)
ヨシュアが深いため息をつく。
『ため息ですか?』
CSのサブモニターに表示された文字。
「ああ」
『よくない傾向ですね』
「わかってはいるんだけど……」
はたから見たら、ひとりごと。
だが、ヨシュアは対話していた。
(AIもかなりしっかりしてきたな)
それはCSに試験導入されたAIシステムだった。
CSの操作を簡略化する目的もあれば、戦術サポートなどの要素に使用する狙いがある。
まだ実用化には程遠く、状況判断に使うデータベースも十分に備わっているとはいいがたい。
この程度の対話ができるほどまで進化したのなら、人の形をして、人の大きさのロボットがいずれ、人の身の回りの世話をしたりするのだろうか。
もしかすると日本文化の「おかえりなさいませ、ご主人様」が手軽にできるんじゃないか、とヨシュアの心が躍ったが、この技術はまだ軍の中でもトップレベルの機密となっていて、現実的ではなかった。
だが、ロボットが人型になり、進歩すれば平和的な使い方以外でも使われてしまうだろう。
(戦闘とかに使われたりしそうだな……。ロボット“兵器”になるからな)
一抹の寂しさを覚え、またため息をつく。
AIはまた、『ため息ですか?』と尋ねていた。
* * * * *
『今です!』
ヨシュアからの通信を受け取り、一斉に議事堂の中に入っていく軍人。
その中央で、守られるような形で進む一人の女性。
クララは飛び交う銃声におそれる仕草をせず、毅然と進む。
その風格はヨシュアが冗談で言った、女王のそれだった。
「内部の軍がまだこんなに残っていたなんて……」
「クララ指揮官代理、死者を一人も出さずに、というのは厳しいかもしれません」
「やむを得ない場合は仕方がありません。ですが、極力死者を出さないように努めてください」
「了解しました」
クララは横たわる軍人を見る。
足を銃弾で貫かれてはいるもののまだ生きているようだった。
「大丈夫ですか?」
「クララさん……」
その軍人はクララのことを知っていた。
当然のことながら、クララはそれに少し驚きを覚えた。
「先代にお世話になりましたから」
「父に……」
「できることならば、あなた方にお力添えをしたかったのですが……」
「仕方がありません。あなたも自身のために戦ったのでしょう」
「申し訳ございません……」
「謝る気持ちがあるのなら、まだ私の力になりたいと思うのなら、私に力を貸してください」
クララはその軍人の目を見てはっきりと言い放った。
* * * * *
その電撃は僕に当たらなかった。
ヴィントが電磁フィールドを張り、後ろに跳んだからだ。
(あの攻撃は電磁フィールドを通過しないのか?)
そんな疑問を持ったが、電磁フィールドの演算をするために電撃をやめただけかもしれない。
確証が得られないままあの攻撃を防ぐには危険が大きすぎた。
『ユウトはやらせないぞ』
『シャルロットか』
『久しぶりだな、アドルフ元司令官』
「シャルロットさん!!」
『無事か?』
「はい!」
『すこしは皮肉が言えるようになったのだな、シャルロット』
『もう、過去は断ち切った。あなたを討つことにためらいはない』
『やはりファイルの中身はばれていたか』
『僕らは中身を見ていないよ』
シャルロットさんとは正反対、ヴィントの後ろから一機のCSが現れた。
「クラウスさんも!!」
『間に合ったようだね』
クラウスさんは、ヴィントに向き合うと銃を突きつけた。
『あのファイルを発見したのはユウトだ。中身も大体は彼から聞いた』
『やはり、消しておくべきだったな』
『ここにいた白虎隊の子供たちはすでに逃がした。エクレイア軍は上陸するCS部隊に一掃されるだろう』
『ついでに電磁フィールド発生装置も破壊させてもらったぞ。あと数分後には海上から砲撃が始まる。お前の戦いもこれまでだ』
三人でヴィントを囲む。
もう追い詰めたも同然だった。
『なるほど。やるな、ラスト・フォートのコンストラクター』
『伊達に“最後の砦”(ラスト・フォート)を名乗っていない』
『だが、やはり詰めが甘い!』
「なにっ!?」
三方向に同時に繰り出される電撃。
それはまっすぐ、僕とシャルロットさん、そしてクラウスさんのCSへと飛んでいく。
「っ!!」
“クサナギノツルギ”で電撃を斬る。
ふたりはかろうじて避けたようだったが、どちらも片腕が機能していなかった。
『3機が一斉にかかってきても私には勝てんよ』
「やってみなくちゃ……わからない!」
『結果がこれだろう。既に分かり切っていることだ』
『まだ、機体は動く。まだ負けていない!』
『ならば機体を動けなくさせてもらうぞ』
「……! 逃げて!!」
咄嗟に叫ぶ。
だが、電撃は僕以外のCSになんども飛んでいく。
右腕、左足、右足、頭……。
コックピット以外を狙うその攻撃の様子は、拷問をしているかのようだった。
「やめろっ!!」
ヴィントに詰め寄り、刀を振り下ろす。
ヴィントは攻撃をやめ、横に跳んだ。
『感情的になって、攻撃が隙だらけだ』
「なっ!」
横方向から強い衝撃が走る。
またハンマー部分で殴られたようだ。
「っぅ!!」
『ユウト!!』
シャルロットさんの声が響く。
すこし頭もグラグラとしていた。
それを無理やり振り払い、意識をしっかりとさせる。
まだ、戦いは終わっていない。
こんなところで、気を失ってなんていられなかった。
『まだ立ち上がるか』
「貴方を討つまでは……!」
『無駄だ。中国、ロシアの戦艦は間もなくエクレイアの海域に展開する。そうなれば海上からの砲撃も期待できまい』
そんな時、全周波数帯に通信が入った。
「これは……!」
そこに映し出されていたのは、クララさんだった。
* * * * *
「住民を踏みつけるな! 住居も何も壊すな!!」
ヨシュアの指示が飛ぶ。
エクレイアの軍隊はすべてヴィントの元に集まっているのか、CSは一向に出てこない。
それは作戦を遂行する上で、好都合だった。
(クララさんが無事だといいけど……)
ヨシュアのその心配は杞憂に終わった。
AIが告げた『Mission Complete』の文字。
「クララさん……!」
それは、議事堂を制圧したことを意味していた。
* * * * *
「力を貸す……?」
「ここの軍隊の方に侵攻を阻まれてしまっています。私は……父が愛したこの議事堂を血で汚したくない。なによりも、父が愛した国民の命が散るのが一番嫌なんです。お願いします。どうか、軍に攻撃をやめさせるよう、通信を……お願いします」
クララは涙を浮かべながら、その軍人に乞う。
軍人は何かを決意すると、通信機を取り出した。
「こちら第1班は前大統領派に参加する。自分たちの胸に聞いてほしい。誰に世話になったかを、誰に命を預けてもいいと思ったのかを。私は前大統領を裏切ることはできない。前大統領に恩を返していないと思うのなら、どうか武器を収め、道を開けてくれ」
「あなた……!」
「前大統領に恩は返せていませんから」
「ありがとう……ありがとう……」
「まだ、戦いは終わっていません。これで誰もが武器を収めてくれるといいのですが……」
その言葉の瞬間、いままで銃撃戦をしていた軍人が武器を収めた。
「私たちは前大統領への恩を返しきれていません。いまがその時だと判断します」
「クララさん、どうぞお進みください」
「指揮官代理……」
「行きましょう。私は彼らを信じています」
クララは率先して、進む。
その場にいたエクレイア軍人がクララに対して敬礼をした。
そして、その後は一度も銃弾を放つことなく、エドガーのいる部屋の前に来ていた。
ドアをノックすると、「ひっ」というおびえた声が聞こえた。
ヨシュアの部下がドアを開けると、エドガーは銃を構えて震えていた。
「来るな!」
「武器を収めなさい」
「来るなといっている!!」
エドガーは聞く耳持たないといった様子で、震える手で銃口をクララに向けた。
その瞬間、クララを守るように囲んでいた軍人たちがエドガーに銃を向ける。
「ひっ」
「もう一度言います。武器を収めなさい。さもなければ……私は貴方を射殺する命令を行います」
「あなたにできるはずがない」
「できます。今の私ならば」
「は、はったりを」
「試してみますか? はったりかどうか」
威圧が込められたその言葉には、確かな覚悟があった。
「っ!」
クララのその言葉にエドガーは何も言い返せなかった。
そして、観念したように銃をおろし、両手を挙げた。
すぐにエドガーは拘束され、エクレイアの軍人たちに連れていかれる。
「さて、ここからが私の本当の仕事です」
そういうとクララは準備を始めた。
* * * * *
『私はエクレイア共和国カーティス前大統領の娘・クララです。この国はいま、世界に対して宣戦を布告し、戦争をしようとしています。これは父の意向に背き、この国を乗っ取ろうとした現大統領エドガーの策略でもありました。私は父が愛したこの国が戦火に焼かれることを望みません。よって私はこの国の現大統領を排除し、新たに大統領に就任することにいたしました。大統領となった私から告げます。エクレイア共和国は本日をもって中国、ロシアとの軍事同盟を破棄、これ以上の戦闘行為は不可能と判断し、宣戦を取り下げます。しかし、これはわがエクレイア共和国が、他国の侵入を許す、ということではありません。エクレイアは独立国家として、失われた信用を取り戻すために邁進してまいります。どうか、今一度信じてください。この国がもっと素晴らしき国になるように、私は誓います。この国がいつの日も平和であることを。私は誓います。この国が世界中の人々から愛される日が来ることを』
クララさんの演説はなおも続く。
「これは……!」
『クララ……やり遂げたみたいだね』
『クーデターの成功か!』
「これであなたの目論見はすべて無に帰した!」
『なるほど。だが、こうなることはすでに予測済みだ』
「なにっ!?」
『言ったはずだ。チャージが完了すれば“自動的に発射される”と』
「ま、まさか……!」
『その照準は……』
『エクレイア議事堂!!』
『この距離ならば“イカロス”を使用しなくても十分に攻撃可能だ』
「くっ! そんなこと、させるものか!!」
ヴィントに対して刀を振り下ろす。
だが、ヴィントはそれを軽くよける。
先ほどからの攻撃の中で、僕は嫌というほど実感していた。
(実力の差が……ありすぎる!!)
こちらは全力なのに対して、あちらはまだウォーミングアップといった様子だ。
焦りを感じていたそんな時、ただでさえ苦しい状況をさらに悪化させる。
(バッテリーが……51%……!)
“ヤタノカガミ”を使用していない状況でのこのバッテリー消費量は明らかに高速での戦闘を強いられているこの状況下によるものだった。
「くっ!」
今も減っていくバッテリー。
通常のCSよりも多いとはいえ、長時間の稼働に向かないCSの難点は消え去っていなかった。
(それでも……戦うしかない!)
ペダルを強く踏み込み、ヴィントに迫る。
(イメージしろ……思い出せ……!)
スピードは最大限まで上がっていく。
そして、僕は居合の要領でヴィントに斬りかかった。
『ほぅ……私に当てるか』
「ダメージにならなかったか!!」
ヴィントの乗るCSのマントは大きく切り裂かれ、もうその役目を果たしていない。
ヴィントもそう思ったのか、マントをパージする。
現れたのは、今までのCSとは全く違う、ヤマトとは正反対の細いCSだった。
(どこにあの莫大な電力を保持するバッテリーがあるんだ……!?)
エンジンに各部関節のモーター、コックピットに頭部。
それ以外はほぼ必要最小限のものしかついていない、そんな風に見えた。
『マントをとらせたことを、後悔するといい』
その言葉通り、ヴィントの機体の動きは先ほどと全く違った。
(動かないんじゃなくて……動けなかったのか!!)
マントが拘束具の役割を果たしていたため、ヴィントは思うように動けていなかったが、その制約がなくなったいま、ヴィントのCSは最大限の機動をする。
「っ!」
『終わりだ』
「がぁ!」
機体の外装がへこんだような音がした。
なんとか、バランスを保ち、横に回避する。
だが、それでさえもヴィントはすぐに追いついた。
「ぐぅ!」
『先ほどまでの威勢はどこへ行った?』
(くっ! このままじゃやられる!!)
ヴィントの攻撃をよけようと、ペダルを思い切り踏み込む。
ヤマトは今までよりも軽快な機動でその攻撃を避けた。
「なっ!?」
操作している自分が驚くほど、速く軽快な機動。
理由はすぐに分かった。
サブモニターに『“ヤサカニノマガタマ”第1フェーズ起動』と表示されていた。
(起動方法が書いていなかった“ヤサカニノマガタマ”が起動した……?)
そのすぐ上の文字を確認する。
『エネルギー50%未満に低下』。
(起動方法というよりは起動条件といったところかな)
エネルギーがなくなった時に自動起動される装備・“ヤサカニノマガタマ”。
これは武器ではなく、リミッターのようなものだった。
(いまは細かいことを考えている場合じゃない……!)
ペダルを踏み込むと、今まで以上のスピードでヴィントに迫る。
『っ!』
刀を振り下ろす速さも、その攻撃の隙の無さも、全てが今まで以上だった。
『今までと動きが違うな』
「これは父さんが作った想いの形。ヴィント……これを使ってお前を倒す!」
『やってみるがいい!!』
いままで受け手だったヴィントも攻撃をしてくる。
避けて、躱して、突いて、斬って。
僕自身、捉えきれていると断言できなかった。
感覚で攻撃を避ける、繰り出す。
どちらの機体もその体に切り傷を刻み始めていた。
『やるな』
「もう、決着です」
どちらの機体もすでに稼働限界を迎えている。
エネルギー的な問題ならばまだよかったのだが、機械的となるといつ爆発してもおかしくない。
『勝った方が、この戦争の勝者だ』
「僕は貴方を討って、この戦争を終わらせる!」
『ならば、お互いの信念をぶつけるだけだ』
「行くぞ! “魔王十字のヴィント”!!」
『来い! ラスト・フォートのユウト・キリシマ!!』
「うおおおおおおおおおおおお!!」
『うおおおおおおおおおおおお!!』
ヴィントが杖を突き出す。
僕は刀を振り下ろす
それはほぼ同時で、距離はほぼ同じだった。
『っ! ユウト!!』
* * * * *
「どちらが勝った!?」
ヨシュアは議事堂を取り囲むようにCSを配置するとすぐさま、クララの元へと走った。
それはエクレイアの海に浮かぶ島で行われている戦いの様子が知りたかったからだ。
「ちょっと待ってください……」
演説を終えたクララも落ち着かない様子でまだ砂嵐が映るモニターをじっと眺めていた。
そして、映った光景はすさまじいものだった。
ヤマトを貫く杖、ヴィントのCSを切り裂く刀。
そして、ヴィントの機体が大きく倒れると、そのまま動かない。
次の瞬間には激しい爆発で画面は再び映らなくなった。
* * * * *
『ユウト! 返事をしろ! ユウト!!』
「……っ!」
コックピットに響くシャルロットさんの声。
(僕はまだ……生きているのか……?)
操縦桿を握る手を見てみる。
(まだ、動く)
そのまま操縦桿を動かすと、ヤマトは動いた。
『ユウト!!』
「大丈夫です……」
いまだに状況が理解できていない。
(そうだ……ヴィントは……)
ぼうっとする頭で見てみる。
だが、メインディスプレイに映っているのは空だった。
(ヴィントの機体が爆発して……その爆風で転んだのか……)
転んだ衝撃で頭を打ち、意識を失っていたのかもしれない。
ヤマトを起き上がらせると、周りを見てみる。
まだ火は消えていなかった。
『ユウト! 早く“サタン”を破壊するんだ!!』
『もう時間がないぞ!!』
「っ!」
頭が痛む。
もしかすると、血が流れているかもしれない。
(だけど……!!)
時間を確認する。
もうすでにチャージは完了するところだった。
「“サタン”の砲撃を受け止めます……!」
『無茶だ! そんなことをすれば君の……!!』
「無理でもやらなきゃいけないんです!!」
『ユウト……!』
僕は光が灯る“サタン”の銃口から少し離れた位置に立つ。
そして、“ヤタノカガミ”を展開した。
『クララ! 念のため、エクレイアの住民を避難させるんだ!!』
クラウスさんが長距離通信でエクレイア議事堂にいるクララさんと通信する
そして、魔王の一撃は放たれた。
「っ!!!」
“ヤタノカガミ”はその攻撃を確かに防いだ。
だが、電力の消費量を考えると、攻撃を防ぐのは不可能だった。
(“ヤタノカガミ”が壊れるか、バッテリーが底をつくか……!)
レーザーは光を放ちながら“ヤタノカガミ”にぶつかる。
行き場のなくなったエネルギーが地上に、空に、海に、降り注いでいく。
『残存エネルギー30%』という警告がサブモニターに表示されるのと同時に、“ヤタノカガミ”の出力も低下していく。
(くそっ! ここまで来て……!)
「……! がはっ!!」
状況は悪い方へと転がっていく。
メインディスプレイにいま吐きだした血がべっとりとついていた。
視界がゆがむ。
心なしか、意識も遠のいてきた。
『まだ、だよ』
(え?)
『まだ終わってないよ』
(アヤ……さん……?)
『ユウト君、最後まで生きるためにがんばるんだよ』
(……!)
『残存エネルギー20%未満。“ヤサカニノマガタマ”第2フェーズを起動』
力尽きかけていたヤマトに再び力が戻っていく。
(バッテリーが……回復していく……!)
どんどんと回復していくバッテリー。
まるで小さな発電所を持っているかのようだった。
(勾玉は身に着けるもの……。そうか、そういうことか)
勾玉は本来の使い方がわかっていない。
父さんは身に着ける神具ということで“魔力増強”や“身体能力の向上”といった独自の解釈をしたんだ。
(ありがとう、父さん。戦わなくても、父さんは僕のことを、世界の人々を守ってくれたよ)
『ユウト君、もうひと踏ん張りだよ!』
『このまま耐え続けるんだ!!』
「アヤさん……フューラー先輩……」
ふたりの幻影が僕の目の前に現れる。
『ユウト! 行け!!』
『ユウト! 持ちこたえてくれ!!』
「シャルロットさん、クラウスさん……」
(もう、二人のところへは戻れないだろう)
そう確信していた。
その証拠にアヤさんとフューラー先輩は悲しそうな顔をしている。
『ユウト君!』
アヤさん、やっぱり僕は君のことが好きだったよ。
『ユウト!』
フューラー先輩、いつかあなたみたいな人になりたかった。
『ユウト!』
クラウスさん、どうかクララさんを支えてあげてください。
『ユウト!!』
シャルロットさん、ありがとう。あなたのやさしさを僕は忘れない。
「うおおおおおおおおおおおおお!!」
巨大な鏡がレーザーを霧散させる。
『終わったな』
『お疲れ様、ユウト君』
アヤさんが手を伸ばす。
彼女はどこか泣きそうな顔をしていた。
「アヤさん……」
『行こ。もう、全部終わったよ』
僕は、その手を取った。
* * * * *
「ユウト!!」
シャルロットはCSのコックピットから出ると直立不動の体勢のまま動かないヤマトに向かって走った。
「シャルロット、待って!」
「止めるな!!」
「今のヤマトに触れればただじゃすまないよ!」
「ユウトが中にいるんだ!!」
「だからといって、行かせるわけないだろう!!」
「じゃあどうしろと!!」
シャルロットが大きな声を出す。
こらえきれないといった様子で、いまにも走り出しそうだ。
「もうじき予備のCSがある輸送機が迎えに来てくれる。それからだ」
「くっ……!」
シャルロットは空をにらむ。
まだ、輸送機が来るまで時間がかかりそうだった。
* * * * *
「戦争が終わった……」
ユウトが“サタン”の攻撃を防いだおかげで、エクレイアには何の被害も出ていなかった。
「ユウトが……この国を守ってくれたのね……」
クララは感慨深く、そうつぶやく。
ただ、その表情は嬉しさというより、ただ悲しみに満ちていた。
* * * * *
「そうか。お前は……」
開け放たれたヤマトのコックピットに点在する血。
そしてシートに座ったまま動かない、ユウトをシャルロットは見つめていた。
「お前は最後まで、戦い抜いたんだな……」
ぽろぽろとシャルロットの目から涙がこぼれる。
「誰かのために……自分の命を懸けて……お前は生きたんだ」
シャルロットはヤマトのコックピットに座るユウトの体を抱きしめると、大きな声を上げて泣いた。
こうして、全軍合わせた戦死者800名という異例の少なさで第3次世界大戦は終結した。
その陰には戦いによって命を失い、世界にその名を知られることなく、その生涯を終えたコンストラクターと呼ばれる人々がいた。
深い悲しみだけが、戦いの場に残っていた。