戦場を駆ける
どうもMake Only Innocent Fantasyの三条 海斗です。
いよいよ物語も(本当に)大詰めですね。
最後の最後まで走り切りたいと思います。
まだまだ稚拙な部分もありますが、最後までおつきあいお願いします。
それではどうぞ!!
「クララさんとヨシュアさんは一緒じゃないんですか?」
「ちょっと彼らにはやってもらわなきゃいけないことがあってね。いまはそれをやってもらっているんだ」
「なるほど。ヨシュアさんなら大丈夫ですね」
「君はクララへの信頼がなさすぎるね……」
「いや、そんなことは……」
ジトっとしたクラウスさんの視線に思わず口ごもってしまう。
「まぁいいさ。僕もクララだけじゃできないと思っていたし」
「一体、何を頼んだんですか?」
「この作戦の肝、だよ」
クラウスさんはそういうだけで細かいことは教えてくれなかった。
「二人とも、ここにいたのか」
輸送機の格納庫にシャルロットさんが入ってくる。
「こっちはもう終わったよ」
「シャルロットさんはどうですか?」
「こちらも大丈夫だ。……そろそろ通信が入るころだが……」
シャルロットさんがそう言った直後、輸送機のスピーカーから声が流れ始めた。
『こちら、スミノフ。指定ポイントに到着した』
「さてと、行こうか」
「はい!」「ああ!」
ふたりでそう返事をする。
僕がヤマトに向かって走ろうと一歩踏み出したが、後ろから引っ張られた。
「うわっ!」
「すまない」
引っ張ったのはシャルロットさんだった。
「いえ、どうかしたんですか?」
「いや、大丈夫なのかと思って、な」
「ああ……」
シャルロットさんが心配してくれてることが、うれしくて、嫌だった。
(心配、かけたくないんだけどな……)
「大丈夫ですよ。この戦いが終わるまで、僕は死にません」
「……わかった。今はその言葉を信じよう」
そういうとシャルロットさんは自分が乗るCSへと走っていく。
(さてと)
僕もヤマトに向かって走る。
コックピットに乗り込むと、ハッチを閉め、スイッチを入れる。
まだ、エンジンは動かさない。
通信機のスイッチだけ入れる。
コックピットで息をつき、気を緩めたところだった。
「っ!」
胸に激しい痛みが走る。
(こんな時に……!!)
胸から錠剤のケースを出すと、それを乱暴に口に放り込む。
無理やり飲み込んで、呼吸。
痛みは次第に和らいでいった。
「ふぅ……」
(発作が出たとき用の薬をもらっておいてよかったな)
* * * * *
それは数日前に遡る。
「っと、そうだ。これを見てほしいんですけど……」
僕はエクレイアの一室で見つけた錠剤を見せた。
「これをどこで?」
「エクレイアで拾ったんです」
「ほう……」
医者はときどき、「うんうん」や「なるほど……」といっている。
そして、一通り見終わると僕の方を見た。
「まだ、詳しく調べていないから断言できないけど……これはがんの薬だね」
「がんですか?」
「ああ。どこの、とまでは言い切れないな。がんの薬は胃がんの薬がすい臓がんに効いたりすることがあるから」
「なるほど……」
「これは預かっても?」
「どうぞ」
医者は袋に入ったままの状態で、それをポケットの中に入れた。
「まっ、結果がわかったら知らせるよ」
* * * * *
『ユウト、準備はいい?』
「大丈夫です」
『シャルロットは?』
『問題ない』
『よし、それじゃあ作戦開始だ』
反撃の狼煙が、いま上がろうとしていた。
* * * * *
「ほう、海上に戦艦が展開されたと」
「はい」
エドワードの報告にヴィントはすこしも動揺する気配を見せず、堂々と椅子に座っているだけだった。
「援軍は?」
「中国が戦闘機12機、CS80機、輸送船および戦艦合わせて4隻をこちらに派遣するとのことです」
「ロシアは……間に合わないか。できるだけ証拠は残しておけ」
「わかりました」
「チャージの方はどうなっている?」
「現在80%完了しています。のこり2分ほどでチャージが完了するかと」
「電磁フィールドに電力を回すとどれくらい伸びる」
「3分ほど増える見込みです」
「あわせて5分か。ちょうどいいだろう。電磁フィールドにも電力を回せ」
「了解しました」
ヴィントは立ち上がると、司令室ではなく格納庫へと歩く。
その後ろをエドワードはついていく。
「お前はこの戦いをどう考える?」
「この戦い……ですか?」
ヴィントは返事をしない。
それをエドワードは肯定と受け取った。
「エクレイア共和国という新興国家を利用して戦争状態に持ち込むことにできたのはさすがだと思います。ですが、私にはこの戦いの理由が思い当たりません。エクレイアでなくてもいずれ第3次世界大戦は引き起こされていたでしょう
「なるほど。理由か」
ヴィントは少し笑う。
その姿にエドワードはむっとした表情を浮かべた。
「戦争などいつもそんなものだ。主義、理想、宗教、政治、犯罪、テロ……いくら御託を並べたところでそれは原始的な行いでしかない。いつだって、そこには単純でいて、それを嘘や方便で塗り固めたにすぎん」
「では、なぜ戦争を引き起こしたのでしょうか」
「私もその単純な理由に純粋になろうとな」
ヴィントはそれ以上語らない。
空気が抜けるような音を立ててドアが開くと、がらんとした格納庫が目に入った。
先ほどまでは60機を超えるCSがここでヴィントの演説を聞いていた。
そのCSはいまこの“サタン”の周辺で警備にあたっている。
ヴィントはすぐ近くにあったCSの元まで歩いていく。
似たフォルムの2機のCS。
1つはエドワードが乗るCSで、もう1機はいままでヴィントが乗っていたCSとは様相が変わっていた。
線は前よりも細く、それでいてしっかりとしていて、魔王と呼ばれる悪魔にありそうな二本のアンテナがそのCSに独特の雰囲気を醸し出していた。
「さぁ行くぞ、“サタンクロス”」
ヴィントは静かにそうつぶやいた。
* * * * *
揺れる機体。
ハンガーにロックしてあるので、動く心配はないがそれでもやっぱり気になる。
サブモニターには輸送機から送られてきた映像が流れていた。
煙突のようなものがある建物の周りには数多くのCSが配備されている。
(ここを突破するのか……)
いくら援軍があるとはいえ、飛び交う弾丸の数は比ではないだろう。
ヤマトの“ヤタノカガミ”がどれだけ持つのか十分に検証できていればよかったが、ぶっつけ本番で行くしかない。
(それにしても、どうしてここには最大稼働時間が記されていないんだ?)
父さんが記入ミスをしたとは考えられない。
仕事に関してはしっかりしている人だ。
こんな初歩的なミスをする人ではない。
それじゃあどうして? と聞かれても答えられないのが現状でもあるのだが。
(いまは気にせずやるしかない)
エンジンが動いているわけでもないのに、僕はギュッと操縦桿を握っていた。
『みんな、画面!!』
クラウスさんのその声で、画面に集中する。
そこには煙突のような建物のヘリポートのような場所に立つ異形の人型。
悪魔のような、そんな雰囲気を醸し出している。
そのすぐ後ろには見知ったCSが立っている。
(エドワード!!)
二本角のCSはマントのようなものをひらひらとさせ、ゆっくりと片手を真上に挙げた。
ゆっくりと手を下ろす。
その動作と連動して煙突が、ゆっくりと、その身を倒す。
CSの頭上で止まった煙突。
それはまるで、巨大な砲台だった。
そして銃口に輝きが灯る。
(やばいっ!!)
「逃げろっ!!」
咄嗟に叫んでいた。
だが、すでに遅い。
銃口から巨大なレーザーが放たれ、まっすぐに進んでいく。
それはエクレイア共和国周辺の海域に展開した戦艦に向けて進んでいく。
レーザーを食らい、爆発音さえ響かせず消えていく戦艦。
その邪悪な光が消えたときには囲う様に展開していたはずなのに、真ん中にぽっかりと穴が開いていた。
『状況は!?』
『ぐっ……、こちらスミノフ……艦隊の3割を失った。かすっただけでも船に甚大な被害が出ている……』
『くっ! これ以上、死者を出すわけには行かないぞ!!』
「こんな……こんなものを作っていたなんて……!!」
『ますます倒さなくちゃいけないみたいだね……』
『次の砲撃が始まる前に攻めるぞ!!』
『残った戦艦だけでも十分対処は可能だ……。だが……』
『わかってる。僕らが上陸したら速やかに撤退するんだ』
『すまない。大見えきってこの様とは……』
『謝る必要はないさ。僕らの戦いに巻き込んでしまってるんだ。むしろ、謝罪しなければいけないのはこっちだ』
そんな時、突然すべての回線に通信が入る。
『いまから3時間後に固定式長距離砲台・“サタン”のチャージは完了する。2時間後には“サタン”のサポートシステムである“イカロス”を射出する。これにより、この砲台は地球上すべての国を砲撃可能となる』
その放送とも呼べる一方的な通信を聞いていたスミノフは怒り半分の声で叫んだ。
『……砲撃を開始しろ!!』
その一声で、戦艦が一斉にミサイルを放つ。
だが、ミサイルはすべて空中で霧散した。
「なっ! これは!!」
『厄介だね……』
島を覆うように電磁フィールドが形成され、ミサイルや機銃などすべての攻撃を無効化している。
『こちらは弾がなくなるまで攻撃を続ける! 作戦通りに行動するんだ!!』
『だが、それでは被害が広がるだけだぞ!!』
『二発目を撃たせるわけにはいかないだろう!!』
「でも、この戦いにこれ以上被害を出すわけには!!」
『ためらえばこの艦隊以上の被害が出る! それだけは避けねば!!』
「くっ!」
(選ばなくちゃいけないのか……! ここにいる人たち全員の命と引き換えにヴィントを倒すか、撤退するか……)
自然と操縦桿を握る手に力がこもる。
『ユウト』
シャルロットさんのその声ではっとする。
気がつけばかなりの汗をかいていた。
『ここにいる人間は、自ら進んで協力してくれた。……自分の命を失ってもお前を恨む奴なんかいないよ』
「……!」
『だから、ユウト。止まるんじゃない。私を連れ出したみたいに、少し強引でいい。……お前が信じる道を行け』
「……はい!!」
(この戦争を……終わらせるんだ!)
「みんなの命を……僕に下さい!!」
『ああ、いいとも』
『もちろん』
『もとより国の繁栄にこの命を捧げている!!』
「クラウスさん! 指揮を!!」
『総員、作戦開始! オペレーション・アライブ始動!!』
「『了解!!』」
* * * * *
「準備はよろしいでしょうか」
「ええ。構わないわ」
「それでは念のため、作戦の再確認を」
ヨシュアはエクレイアの地図を広げる。
「まずCS部隊と、地上部隊の二部隊に分かれます。CS部隊は都市の郊外から議事堂へ向かい、包囲します。現在のエクレイアの戦力ならば、戦闘を行わないで無力化できるでしょう。その隙に地上部隊は議事堂内部へ潜入。エドガーを発見次第、拘束してください。クララさんは危険ですが、地上部隊に同行してください。その後、エクレイア議事堂内でクーデターの宣言をお願いします」
「ええ、わかったわ。だけど、一つだけお願い」
「なんでしょうか」
「関係のない人たちを殺さないで」
「もちろんです」
ヨシュアは自信満々にニコリと微笑んだ。
「ここにいるメンバーを誰だと思っているんですか? そこらの兵隊と同じにしないでくださいね」
「……頼りにしてるわ」
「お任せを、プリンセス」
「王女じゃないわ」
「これは失礼しました」
ヨシュアなりの気の紛らわせようとしているのだろうが、結果的にそうなったものの、クララの怒りを買ってしまったようだ。
「それじゃあ、私はCS部隊の指揮を執ります。ご健闘を祈っていますよ」
そういうと、ヨシュアはその場から離れ、自分のCSの元へと駆けていく。
その後姿をクララは見送った。
* * * * *
「行くぞ!!」
ヤマトの心臓が鼓動する。
目に光が灯り、体に力が入る。
それは一人の侍が立ち上がったような、そんな雰囲気を帯びていた。
そして勢いよく飛び降り、パラシュートを展開する。
電磁フィールドを展開中、相手のCSは通常の火器でこちらに攻撃することができない。
それを突いた降下作戦だ。
おかげで、こちらはサタンにかなり近い位置で降下できるが、それは集中砲火を受ける可能性が高い。
ヤマトのサブモニターに警告が出る。
どうやら、ロックオンされたようだ。
「“ヤタノカガミ”起動!!」
6つの円盤が左手に集まる。
左手を前に出すと、円形の電磁フィールドを展開した。
それを巧みに操作し、電磁フィールドに密着させ、CS一機が通れるサイズの穴をあける。
「長くはもちませんよ!!」
『問題ない!』
『この程度、どうってことないよ!』
僕の後に2機続けて降下する。
電磁フィールドを通過すると、容赦ない銃撃が繰り出される。
それを電磁フィールドから離した“ヤタノカガミ”で防ぐ。
(なっ!?)
飛んできた銃弾が、飛んできた方へと向きを変え、飛んでいく。
それはまるで……。
(反射した!?)
鏡は反射させるものだからという単純な話だろうが、いきなりだと驚く。
(とにかく、これで少しはダメージを与えられるぞ)
後ろからシャルロットさんたちが以前、僕がやった“無茶なこと”をして敵にダメージを与えている。
無事に降下し終えると、パラシュートをパージし、サタンにまっすぐ進んでいく。
一直線上の敵は上空であらかた片付けた。
このまま進んでいくだけだ。
だが、敵も簡単には道を譲ってはくれない。
幾重にもその機体を進路上に配置していく。
「退け! どかないなら……斬る!!」
僕は腰に携えた“クサナギノツルギ”を抜く。
それを構えると、ペダルを思い切り踏み込んだ。
勢いよく走るヤマト。
そのスピードは訓練場での比じゃない。
一瞬。
敵の機体が2機真っ二つに切り裂かれている。
「退けええええええええええええええええ!!」
僕は止まらず、敵を切り裂きながら進む。
シャルロットさんたちの援護射撃のおかげもあり、被弾することなく、サタンの元までたどり着くことができた。
『CS用の通路がどこかにあるはずだ』
『あったぞ!』
シャルロットさんが手招きをする。
僕らはシャルロットさんの元へと行くと、そこにはCSが立って歩けるであろう大きさの通路があった。
『格納庫につながっているのか……?』
『ここで話していても仕方がない。進むぞ』
「僕が先に行きます」
『その方がいいだろうね』
僕が先に入り、その後ろにシャルロットさん、クラウスさんの順で一列に並び進んでいく。
仮にも敵の本拠地なのだ。
警戒するに越したことはなかった。
そして、しばらくすすむと、広い空間に出た。
「格納庫?」
『そのようだ』
『一機もないね。上にいるのが全てみたいだ』
『2機忘れているぞ』
「ヴィントとエドワード」
『あのCSは確実にヴィントの新しい機体だろうね』
『進むぞ。タイムリミットまであと2時間もない』
そんなことを話している時だった。
ヤマトの左腕に銃弾が当たる。
それはCS用の銃弾ではなく、人が使う小さな銃弾だった。
「あれは……!!」
『ヴィントめ……』
『……ここは僕に任せて二人は先に』
「クラウスさん!?」
『だれかが残らなくちゃ、彼女たちは自分の命を懸けて侵攻を阻止するだろう。なら、僕が残る』
「でも!」
『……行こう』
「……くっ! かならず追いついてくださいね!!」
『もちろん』
その場を後にして、シャルロットさんと二人で進んでいく。
大きな通路はどこへとつながっているのか、見当もつかないまま……。
* * * * *
「さてと」
クラウスはCSのスピーカーをオンにする。
すると、外の銃声が聞こえてきた。
「久しぶりだね」
クラウスがそういうと、一人の少女が銃を撃つのをやめ、こちらを見た。
「君のこと、心配していた」
『あの時の……』
その少女は武装組織の基地でクラウスの監視をしていた少女だった。
「銃を撃つのをやめてくれないか?」
『銃を撃つのを、一回やめ』
その一声で、銃声が鳴りやむ。
どうやら、その少女がこの部隊のトップのようだ。
(さて、交渉……じゃないな)
クラウスはCSのハッチを開けると、その少女たちの目の前に進む。
ほぼ、CSのハッチの上に立っているようなものだった。
「僕はクラウス。はじめましてもいるかな」
「どうしてここに?」
「戦争を止めに来た」
「戦争?」
「戦いのこと。君たちがいま手に持っているのも戦争の道具だ」
「これは違う。これは自分の命を守るためのもの。戦争の武器じゃない」
「銃は銃だ。形は違えど、それは変わらない」
「違う!」
少女はかんしゃくを起こしたみたいに、銃口をクラウスに向ける。
「その銃は人の命を奪う。自分を守ること……君たちが生きていくなかでは人の命を奪って生きてきたかもしれない。だけど、戦争と一緒だ。誰かの死によって成り立っている」
「全然同じじゃない! 戦争は大人だけでやってるものだもの!」
「君たちがいまやっているのも戦争だ! 銃を捨てて、ほかの道を探そう! 君たちは生きているんだから!!」
「っ!」
少女の目に動揺が浮かぶ。
それに伴って、周りにもどんどん広がっていく。
「僕と一緒に行こう。ここにいても戦争に参加するだけだ」
「……でも、みんなは?」
「一緒に行けるよ。もう……離ればなれになんてさせないさ」
* * * * *
『そろそろ次のブロックだろう』
通路にE-3という白い文字が描かれていた。
それがブロックごとの番号なのか、通路の番号なのかは見当がつかなかったが、一つだけわかるのはそろそろ、次の広い場所に出るということだった。
「ここは……」
『演習場みたいだな』
「ここにあるCSは全部人形ですかね」
『そんな馬鹿なわけがある。……ほら、おでましだ』
レーダーに次々と浮かび上がる赤い点。
それは敵のCSが稼働しはじめていることを示していた。
『ここは私に任せろ』
「シャルロットさん!?」
『大丈夫だ。この程度で負ける私ではないよ』
たしかに、シャルロットさんの実力は折り紙付きだ。
だけど、さすがにこの戦力差では分が悪い。
『たまには私のことも信じてくれ』
「……わかりました」
僕はいそいで進んでいく。
一機のCSが行く手を阻んだが、それを切り捨て、進んでいく。
* * * * *
「さあ、来い! 私が相手になるぞ!!」
ライフルを腰にロックし、ナイフを構える。
近接戦闘はシャルロットの十八番だ。
実際、フューラーですら近接戦闘ではシャルロットに一勝もしたことがない。
それを知ってか知らずか、ここにいる全員がナイフを構えていた。
(先ほどは生身、今度はCS……まるで、どんどん絞られているかのようだ)
シャルロットが持った疑問。
その答えはすぐに出た。
「なるほど、足止めか。となると目的はユウトとの一騎打ちということか」
シャルロットは操縦桿を操作し、ナイフを構えなおす。
「ならば、さっさと決着を付けなければな!!」
シャルロットのCSが跳躍する。
それは一機のCSを飛び越え、ナイフをエンジンに突き刺す。
ナイフを抜くと別のCSにぶつけた。
激しい爆発音とともに、巻き込まれたCSとナイフで刺されたCSは爆散した。
「さあ、来い!!」
一機のCSがシャルロットに突撃してくる。
シャルロットはそれを難なく避けると、ナイフを構えている腕を斬り落とした。
「次!」
次々と襲い掛かる敵の山。
シャルロットは一機ずつ冷静に対処する。
その中でシャルロットはすこし既視感を覚えていた。
それは、シャルロットが幼いころに経験している。
(このナイフ術は……!!)
「お前たちは“白虎隊”か!!」
ヴィント……アドルフ司令官に直接ナイフ術を教えられたシャルロットにだからこそ、わかる動き。
すべてが自分と似ている。
そんな不思議な感覚をシャルロットは感じ始めていた。
「っ!!」
最初は優勢だったシャルロットも数の差はさすがに大きく、どんどんと追い詰めれれて
行く。
気がつけばシャルロットは壁際まで追い込まれていた。
「くっ! ここで負けるわけには行かない」
シャルロットはナイフを再び構えなおすと、敵に襲い掛かる。
一機つぶしても、新たな一機が攻撃にかかる。
この敵機を倒す。
(思い出せ! ……あの日々を!!)
心なしか、CSが持っているナイフを強く握ってしまった。
「行くぞ!!」
* * * * *
一機となった今でも僕は走り続けている。
先ほどシャルロットさんと別れてから距離がだいぶ経ってしまっていた。
(二人とも、大丈夫なのだろうか)
そんな心配をしていると、ブロックが目に入った。
「……やっぱり君か」
何度も戦った相手。
そしていまでも決着がついていない好敵手。
そんな彼が、いま僕の目の前に立っている。
「待っていたぞ、ユウト・キリシマ」
その言葉が響くと、ブロックと通路を区切るシャッターが閉まった。
「俺を倒さなければ、お前はヴィント様の元へと行かせない」
「どうしてそこまで決着にこだわる!」
「それが俺とお前が生まれてきた理由だからさ!!」
エドワードは地面をすべるように移動し、僕の横に立つ。
咄嗟に前に避ける。
後方を電磁場調整が通り抜けていった。
「僕は戦うために生まれたんじゃない!!」
「今がすべてだ! 俺とお前は戦う運命だったんだよ!!」
「そんな運命!!」
「変えられないさ!!」
「くっ……!」
容赦のない攻撃に僕はただ避けるだけで精いっぱいだった。
「わかった。そこまで言うのなら決着をつけよう」
「ほう……」
エドワードの攻撃の手がいったん、休む。
どうやら考え事をしているようだった。
「よかろう。一騎撃ちといこうじゃないか!!」
エドワードの嬉しそうな声が響く。
彼はナイフを構えると、僕に攻撃してくる。
それを、"クサナギノツルギ"でふせぐ。
「君はどうしてそこまで……!」
「戦え、ユウト・キリシマ! それが俺とお前の関係だろう!!」
「それ以外の道はないのか!!」
「あるわけがないだろう!!」
「そうやって考えが限定的だから!!」
エドワードがナイフを繰り出す前に、刀を振る。
その攻撃を余裕と言った風に避けるエドワード。
彼との力の差はほぼない。
その機体の性能の差がこの一騎討ちを大きく左右させる。
前回は負けたが、今回は機体の性能の差はない。
わずかな経験と才能と運の違いが、この勝負を決める。
(気が乗らないとはいえ、負けるわけにはいかない!!)
二人は必ず追い付いてくる。
なら僕も負けているわけにはいかなかった。
「今度はこっちからいくぞ!!」
ペダルを思い切り踏み込み、エドワードへと向かっていく。
刀を降り下ろすと、エドワードはそれを華麗に避ける。
そして、またナイフを繰り出し、僕はそれを避けての繰り返しだった。
「エドワードォォォォォォ!!」
「ユウト・キリシマァァァァ!!」
ナイフと刀がぶつかり、つばぜり合いが起きる。
どちらも譲らずその音を響かせていた。
「くっ! これ以上、時間をかけるわけには……!!」
「他のことを考えている余裕があるのか!? 俺との戦いに集中しろ!!」
「戦闘狂にでもなったか!!」
「ここでお前を倒さなければ……俺が納得できない!!」
「どうしてそこまで! 力の使い方を誤らなければもっと誰かのために使えた力なのに!!」
「今さら何を言われようと!」
ナイフと刀の切りあいはなおも続く。
「俺はお前を越えて、先へ進む!!」
「戦う以外の道はないのか!?」
「ない!!」
エドワードがすこし距離をとる。
右腕を前に出すと、光の球体が手にあつまる。
(あの攻撃かっ!!)
「これでとどめだ!!」
放たれる攻撃。
僕はそれを刀で切り裂いた。
「なにっ!?」
「“クサナギノツルギ”……これは、すべてを断つ剣だ!!」
「そんなもの!」
エドワードは何発か繰り出すと、ナイフを構え突撃してくる。
繰り出された電撃をクサナギノツルギで切り裂く。
そして、エドワードに向かって思い切り剣を降り下ろした。
「どこを狙っている!!」
エドワードとはまだ距離がある。
それでも刀を降り下ろしたのには理由があった。
それはサブモニターに表示された、“SLASH”の文字。
それに従い、僕はクサナギノツルギを降り下ろした。
その剣の軌道を描くように弧を描いた電撃が、エドワードに飛んでいく。
「なっ!?」
飛んできた斬撃を、避けられずエドワードの左腕は切り落とされた。
「これであの攻撃はできまい!!」
「まだだ! まだ機体は動く!!」
「やめろ! 君を殺したくはない!!」
「戦え! どちらが死ぬまで戦わなければ決着はつかない!!」
「決着がそんなに大事か!!」
「それが戦争だろう! どちらかが死ぬまで戦い続けなければ終わらない!!」
「っ!!」
(わかってはいたが……)
こうなることになるのはわかっていた。
彼は僕の敵で、僕は彼の敵だから。
何度か戦った。
その度に失ったものもある。
アヤさん、フューラー先輩、自分が乗っていた機体。
勝ちも負けも味わってきた。
だからこそ、好敵手に対する気持ちが芽生えていたことも否定できない。
「戦え! すこしでも対等な相手だと思うなら!!」
「……くっ!」
決意する。
(もう、ためらうなっ!!)
「これで終わらせる!!」
「そうだ、それでいい!!」
「来い! エドワード!!」
「行くぞ! うおおおおおおおおお!!」
「はああああああああ!!」
ナイフを、刀を構え、互いに向かって走る。
そして、交差する―――。
ナイフがヤマトにロックされた鞘を、“クサナギノツルギ”がエドワードのCSのエンジンルームを貫いていた。
「脱出装置は!?」
「ない」
「早く機体から降りるんだ!!」
「もう無駄だ。動力はすべて死んだ。……行け」
「だけど!!」
「行け! そして戦え! 生き残ったのなら、死に行く人間に囚われるな!!」
エドワードの声が一旦、途切れる。
ぶつぶつと切れたり、繋がったりを繰り返していた。
もう、残っている時間は少なかった。
「俺をライバルだと思っているのなら、振りかえるな。置いていけ」
「……忘れるものか」
刀をCSから抜きとると、振り返らず、その場を去る。
通路を曲がった、すぐあとに閃光が走った。
まるで好敵手の命が散ったことを知らせるかのように。
ついにたどり着いた最終決戦の地。
そこで待つ最強のコンストラクターに勝負を挑む。
はたして、この戦争の結末は……!!
次回 最終話 「生きるために」
青年は生きる意味を知る―――。