交差する想い
どうもMake Only Innocent Fantasyの三条 海斗です。
さてさて、終わりが見えてきましたね。
完結まで走り切ろうと思います。
まだまだ稚拙な部分もありますが、最後までおつきあいお願いします。
それではどうぞ!!
「行ってきます」
ヤマトを手に入れた次の日。
ふたりに見送られ、僕は車に乗り込んだ。
ゆっくりと走り出す車。
僕は振り返ることなく、ただ前を見ていた。
「もっとゆっくりしていかなくていいのか?」
「大丈夫です。それに、新たな剣を託されたんです。ここにいつまでもいる訳にはいきませんよ」
「……そうだな。だが、無理だけはしないでくれ」
「わかっています」
シャルロットさんのその問いかけに、僕はそう答えた。
ここまで、心配してくれているんだ。
これ以上、心配をかけるわけには行かなかった。
車は自衛隊の基地の中へと入っていく。
昨日の時点で、ヤマトはここに搬送されている。
もうすでに、輸送機への積み込みも終わっているだろう。
車から降りると、僕らはまっすぐ輸送機へと向かった。
格納庫の方へ行くと、ヤマトがその体を横たわらせていた。
「父さんの想い……か。そういえば、古い友人って一体、誰なんだろう」
ふと、そんなことをつぶやく。
すると、格納庫の入り口からシャルロットさんが顔を出した。
「それなら多分、トーマスだろう」
「トーマス?」
「ああ。トーマス・モナークだ」
「それって……!」
その名前を聞いたことはあった。
いや、僕はその名前をはっきりと覚えている。
「ラスト・フォート社の社長じゃないですか!?」
「あいつの考えることはよくわからないな。……まるで、こうなることがわかっていたようだ」
シャルロットさんはうんうんと頷いている。
「それにしても、父さんと勤め先の社長が知り合いだったなんて……」
「意外と世界は狭いな」
「そうですね」
しみじみとそうつぶやく。
「さあ、戻ろう。そろそろクラウスが戻ってくるだろう」
「はい!」
僕はシャルロットさんと一緒に席へと戻る。
席に座り、ベルトを締めたところでクラウスさんが戻ってきた。
クラウスさんがベルトを締めると、輸送機はゆっくりと発進する。
短い日本での療養を惜しむかのように、ゆっくりと空へと昇っていく。
気がつけば、日本は小さくなっていた。
* * * * *
「もう大丈夫なのか?」
ヴィントは書類に目を通しながら、そうたずねた。
「はい。電磁スラスターがうまく作用してくれたおかげで機体へのダメージも最小限に抑えることができました」
エドワードは悔しそうな、そんな雰囲気を出していた。
「自爆……とは、ラスト・フォートのコンストラクターもやるな」
「あいつは死んではいません」
エドワードは強い口調で言い切る。
それは、決着がつけられなかったことへの悔しさなのか、まだユウトと戦えることへの期待なのか、それはわからなかった。
「ふっ……まぁいい。……時間だな」
ヴィントは立ち上がり、スーツの上着を羽織ると部屋を後にする。
ヴィントの数歩後ろをエドワードは歩く。
「覚悟はいいか?」
「当に」
「行くぞ」
大きく開け放たれた扉。
それは、大戦の始まりを意味していた。
* * * * *
「なっ!?」
突然、映し出された映像に見覚えのある顔が写っていた。
それはサタン・クロス社の社長……今もなおすべてのコンストラクターから恐れられている“魔王十字のヴィント”だった。
『本日12時をもってエクレイア共和国の領空、領土、領海に侵入するすべての船舶、航空機、車両に対して、こちらは勧告なしの攻撃を行うものとする。そして、わがエクレイア共和国はロシア連邦及び中華人民共和国との軍事同盟を結んだことをここに発表する!!』
「そんな! 国連の常任理事国が戦争に加担したの!?」
「あそこはエクレイアのすぐ隣だ! 攻められるよりは……といったところだろう!!」
クララさんの声にシャルロットさんはそう答える。
(だけど、これじゃあ……!!)
「ヴィントは……本気で戦争をするつもりか!?」
「エクレイア、中国そしてロシアの海域を封鎖されれば……ほぼ世界はユーラシア大陸と太平洋が分断されることになる!!」
「そんなことをしたら世界は……!!」
「物価の上昇、物流の低下だけじゃすみそうにないね。世界恐慌がまた起きるかもしれない。しかも、この状況……まずいな」
クラウスさんの言わんとすることが分かった。
この状況下で言える確実なこと。
それは……。
「世界大戦が……勃発する!!」
それは想像していた最悪のシナリオ。
(くそっ! どうしてもっと早く動けなかったんだ!!)
「とにかく、今はラスト・フォートに戻ろう。いいね」
クラウスさんの提案に僕らは黙ってうなずく。
内心は穏やかじゃなかったが、それでも焦っているわけには行かなかった。
(僕らだけの力じゃ……勝てない……!)
その現実が、痛いほど胸を締め付けていた。
* * * * *
「トーマス!!」
シャルロットは社長室にいきなり入った。
「どうしたんだ?」
あまりにも失礼なシャルロットの行動にトーマスは何も言わず、いつもの口調でシャルロットに問い返した。
「ニュースは?」
「見たぞ」
「力を貸してくれ!」
「そういうと思ったが、あいにく私一人では何もできない」
「どうしてだ!」
バンという大きな音が出るくらいシャルロットは勢いよく机をたたいた。
「ここにいるコンストラクターを招集すれば……!!」
「それはできない」
「どうして!」
「コンストラクターはあくまでも自由意志によって仕事をしている。私が強制させることはできないよ」
「くっ……! そういう決まり、ということか」
「そういうことだ。だが、連絡は回そう。力になってくれるコンストラクターは必ずいるはずだ」
その言葉を聞いた瞬間、シャルロットは目を見開き、トーマスを見る。
トーマスはシャルロットの目をじっとみて、ただ微笑んだだけだった。
「すまない。いきなり来て、無理を言って」
「何を言っているんだ。君を引き取った時から君は私の娘だ。遠慮はするな」
「……すま」
「違うだろう?」
シャルロットの言葉を遮るトーマス。
その眼はじっとシャルロットを見ていた。
シャルロットはその眼を見て察した。
「……ありがとう」
「さてと、私も行くか」
「行くってどこへ?」
「私はPMCの代表だぞ? これから打ち合わせだ」
「……なるほど。気を付けろよ」
「もちろんだ」
シャルロットは先に部屋を出る。
扉が閉まると、振り返らずユウトの元へと向かう。
(着々と戦力は募り始めてきたぞ……!)
断言はできなかったが、シャルロットにはなぜかそう思えた。
* * * * *
「よし、試験始めるよ」
「了解!」
僕はヤマトのスイッチを入れ、エンジンを始動させる。
ウォォォンというような唸り声をあげてヤマトは起動した。
そして、ゆっくりと立ち上がると、真正面を向いた。
灰色の装甲が、太陽の光を反射して輝いている。
『さて、それじゃあ武器を持ってみて』
「了解」
僕はヤマトを操作し、日本刀をとる。
するとサブディスプレイに“クサナギノツルギ”と表示された。
「草薙の剣……」
日本に伝わる三種の神器の一つだ。
たしかその刀は日本刀ではなく、銅剣といって刃が刀身の両方についている剣だ。
(名前をもらった……ということかな)
その刀を片手で握ると、目の前に模擬専用のCSをモチーフにした人形が現れた。
『斬ってみてくれ』
「了解!」
ペダルを思い切り踏み込むと、ヤマトは勢いよく駆けだす。
そして、鞘から刀を抜こうと手にかけた。
「なっ!?」
(抜けない!!)
結局、一機目は無傷のまま通り過ぎた。
『刀身が長すぎて抜けられてないんだ。腰かどこかに固定する場所があるはずだ』
サブディスプレイに表示されたCSの状態を見てみる。
腰のあたりにジョイント部があるみたいだ。
僕はその刀をジョイント部にもっていく。
がちゃんという音の後にカチッという音がした。
そして刀を握る。
すると、鞘が上に開き、刀をそのまま取り出せるようになっていた。
(抜刀術なんて構造上、得意じゃないからな……)
体の軸を使い、体をひねりながら勢いよく刀を抜く日本に伝わる剣術だ。
その速さはすさまじく、達人の領域になれば視認することすらままならない。
CSもその技術が使えないわけじゃない。
だけど、刀を鞘に納めたままじゃ十分な動きができないのだ。
腕を動かしながら、体をひねりながら、敵を狙いながら、という3つの動作を同時にしなければならない。
並大抵のCS、いやパイロットにできるわけがなかった。
しかも、その一撃ができたとしても一撃で仕留めなければ、こちらが確実にやられる。
リスクも大きいその技をやろうとするパイロットは誰もいなかった。
(だけど、斬撃が相手よりも早く届くのは有利だよな……)
『次の標的をやってみよう』
「了解」
(試してみよう)
僕は刀を構えると、勢いよく踏み込んだ。
機体はすさまじいスピードで標的に近づく。
(いまだっ!!)
切っ先が左側に、柄がコックピットの前にくるようにクサナギノツルギを構える。
そして、機体の上半身を走りながらひねった。
自分が想像した以上のGが体にかかる。
メインモニターで確認してみると、標的のCS人形は真ん中で真っ二つになっていた。
「よしっ!!」
『すごいスピードだ……いままでのCSを凌駕してるっていうのも嘘じゃないね』
「このヤマトにつけられたあと武装は二つ……」
サブディスプレイにヤマトの情報が映る。
(“ヤタノカガミ”と“ヤサカニノマガタマ”か)
鏡と勾玉とはいったい、どんなものだろうか。
草薙の剣はその名の通り、剣で武器として想像できる。
鏡と勾玉はどう考えても武器にはなりえなかった。
(そもそも儀式を行うためのものだしなぁ)
考えていてもしょうがない。
ヤタノカガミの操作マニュアルをサブディスプレイに映し、それに従ってヤタノカガミの起動シークエンスを開始する。
すると、サブディスプレイに映っているヤマトの全体像の方から6つの小さな点が赤くついた。
(なんだ……?)
そして、メインディスプレイに映る六角形の鉄の板。
それをつかもうと手を前に出すと、それは手の前で円形の電磁フィールドを形成した。
『これが“ヤタノカガミ”ということかな』
「防御用……電磁フィールド……」
その電磁フィールドが防御用ならば、あのヴィントのバリアも説明がつく。
(これではじいていたのか……)
『さて、あとは“ヤサカニノマガタマ”だけど……。今までのやつを見ると、どこかに装備されている形のものになるね』
「出してみます」
サブディスプレイにヤサカニノマガタマを表示してみる。
すぐにヤサカニノマガタマは赤く色づいた。
『どこにあった?』
「ここです。コックピットに」
『コックピット?』
「ええ……もしかするとエンジンルームかもしれませんが」
『つまり、ヤサカニノマガタマは動力部付近にあるってことだね?』
「はい」
『効果が知りたかったけど……とにかく今は信頼するしかなさそうだ』
(“ヤサカニノマガタマ”……一体、どんな効果なんだろう……)
動力部にあるということは動力系統だろう。
だけど、それが一体どんな力を持っているのか全く想像ができなかった。
(草薙の剣で日本刀、八咫鏡で電磁フィールドだからなぁ)
その後は、持続時間の試験もかねてクサナギノツルギとヤタノカガミを使った試運転に終始していた。
なにせこの機体は本当に“試作機”であることを否めない。
十分に検査をするに越したことはなかった。
結果、起動時間はいままでのCSよりも全力装甲で5時間以上の差をつけていた。
「信じられないよ、この機体の性能が。君の父親はすごい技術者だね」
「そうですね。僕もびっくりしています」
ヤマトから降りるとクラウスさんが信じられないようなものを見たような顔をしていた。
きっと僕も、同じような顔をしているだろう。
「さっ、今日はこれでおしまいだ」
クラウスさんがそう言った直後。
「ユウト!!」
聞き覚えのある声に呼ばれた。
振り返るとそこにはシャルロットさんがいた。
「なんとかトーマスに協力を依頼できたぞ!」
「本当ですか!!」
「ああ! 行けるぞ、戦力は着々と集まってきている。あとはどれくらいの戦力が集まるか、だな」
シャルロットさんの知らせに心の中が晴れていくような気がした。
(これで……僕らは戦える!)
* * * * *
「なるほど。新たな機体を手に入れたか」
「ええ。どう対処しますか?」
軍服の男と、スーツの男が対面し、話し合っていた。
格式高そうな部屋には似合わない軍服。
本来ならば、軍人がこの部屋にいること自体がおかしいのだが、スーツの男はそれを気にも留めていない。
「それで、ヨシュア。君は一体どうするつもりかな?」
スーツの男はヨシュアにそうたずねる。
「いまは長官の命令に従うまでです。とりあえず、首相の耳に入れておいた方がいいと思いまして報告をした次第です」
「そんな定型文を聞いているんじゃない。君自身がどうするつもりなのかを聞いているんだ」
首相はヨシュアの顔をまっすぐ見る。
「……できることなら力になってあげたいですが、私の仕事はこの国の人たちを守ることです。その覚悟はできています」
「撃つ覚悟……ということかね?」
「はい」
ヨシュアはそう断言する。
その眼からは確かな覚悟が見て取れた。
「……そうか」
首相はヨシュアの元にくると、一枚の紙をヨシュアに手渡した。
「これは?」
「ラスト・フォート社の代表・トーマス・モナークから届いた手紙だ。そこには「エクレイアにいる魔王を倒すのに協力してくれ」というような内容が書いてある」
「魔王って“魔王十字のヴィント”ですか!?」
「そうだろうな」
「……」
ヨシュアは考える仕草をする。
「なるほど。首相はどうお考えで?」
「時期を見るべきだろうと考えている」
「確かにそうでしょうね。まだどこの国も引き受けるとは言っていない」
「そこで君の意見がききたい」
「私ですか? ほかの方の方がいいと思いますが……」
「もっと自分に自信を持ちたまえ」
「……そうですね。それでしたら、本気……とまではいかなくても助力した方がいいでしょう。この後の国際情勢にかかわってきますし、勝利すれば勝戦国の一員ですからね」
「なるほど」
「その中でも優先度を上げたいのなら、かなりの数の軍を撃画さなければいけなくなりますが……」
「そうか。検討しておこう」
「それでは失礼します」
一礼するとヨシュアは部屋を出ていく。
長い廊下を歩きながら、今後のことを考えていた。
(さて、どうするかな……)
こう見えてもヨシュアは中尉で、軍の中でもある程度の権限は持っている。
それでいてCSでの実績もある。
そんな人間が一介のPMC相手に、街中を案内しているのもまた珍しいのだが、首相に口出しできるというのもまたおかしなことだった。
ヨシュアはなにか決めたように「うん」というと、司令室へと向かっていった。
* * * * *
結局、僕は自室には帰れず、また病院の中で過ごすこととなった。
「まっ、ここにいる間はがんの進行を遅くする薬を投薬してあげるよ」
「でも……」
「大丈夫、抗がん剤ほどの力はないただの延命薬だから」
「……わかりました」
「それじゃ、さっそく」
医者がナースに合図をすると、ナースは無言で点滴に薬を注入した。
「痛みが出たら言ってくれ」
「わかりました」
お大事にと一言いうと医者は去っていく。
その医者の入れ替わりで、シャルロットさんがきた。
「調子はどうだ?」
「変わりませんよ」
「肺がんは進行が早いと聞く。……無理はしないでくれ」
「もちろんです」
そう言い切っては見たものの、がんの体で戦争に行こうとしている時点で充分に無理をしているような気がする。
そう思っているのを察しているのかいないのか、シャルロットさんはすこし笑っているように見えた。
「ところで、クララさんはどうしていますか?」
「クララか? 今は、クラウスと一緒にいるよ。そっちの方が安全だからな。それに……今回の作戦のカギとなるかもしれない」
「……それは……」
シャルロットさんが考えていることがなんとなくわかった。
クララさんは前大統領の娘だ。
その名前は題目としては十分だろう。
(要は……)
「クーデターを引き起こさせるわけですか。クララさんに」
「そういうことになるな。そちらの方も外部から参入しやすい」
「今の政権を倒して、新たな政府を作る。その後に、加盟国に有利に働くように……ということですか。なんだか……」
「それが世界だ。仕方があるまい。国もなにかお題目がなければ動けないんだ」
わかってはいるが、純粋に戦争を止めたい僕はなんだかもやもやとしたものを感じた。
そもそも戦争を止めに戦争をしに行くのも不思議なものだが、そこに他人の思惑が入るのは受け入れがたいものがある。
(それでも……今は頼るしかないんだ……)
「そんなに思い詰めるな。きっと、大丈夫だ」
「そう……ですね」
シャルロットさんが僕のことを気遣ってくれているのがわかるからこそ、今がつらい。
(ヤマトをちゃんと使いこなさないと)
* * * * *
「これが……戦いの場、ですか?」
エドワードは目の前にある巨大なオブジェクトを指さしていた。
その先には煙突のようなものが空に伸びる、ドーム状の建築物がそびえたっている。
「ああ。そうだ」
ヴィントは静かにそう答える。
(こんなもの、どうやって隠してきたんだ……?)
エドワードはそんな疑問を持った。
いまは地球の周りに衛星が飛んでいる時代だ。
ほぼ地球が丸裸にされているという状況で、こんなものを立てていることなどカンパされてしまうだろう。
「どうして隠しきれたのか、という顔をしているな」
ヴィントはエドワードの方を振り向かず、静かに言う。
「はい。こんな場所があるとわかれば攻撃を仕掛けてきそうなものですが……」
「攻撃はされんよ。世界平和を謳っているこの時代は、攻撃を仕掛けた方が悪なのだ」
「つまり、宣戦布告をしていても実際に攻撃はされないと」
「ああ。こちらが動くまでは、な。いや……ラスト・フォートのコンストラクターが決起するまで、か」
ヴィントの顔に笑みが浮かぶ。
その顔を見たエドワードは一歩、後ずさる。
「行くぞ」
「……はい」
(ユウト・キリシマ……! 次こそは必ず……!!)
エドワードは心の中でそう決意する。
そして二人は謎の建築物へと歩いていった。
* * * * *
「さてと、こんなものかな」
ヨシュアは荷物をまとめて、鞄に入れる。
まるで、どこかへ旅行をしに行くみたいだった。
そして、そのかばんをもつと扉を勢いよく開けた。
「どこへ行く気だ?」
「ちょ、長官……」
ヨシュアの目の前に立ちはだかる長官。
無表情でそこに立っているだけなのに、どこか圧迫感さえ覚える。
「休暇願はでているはずですが……」
「取り消しだ。すぐに準備しろ」
「何の準備ですか?」
「進軍だ」
「進軍……!?」
長官の無感情な声で言い放たれたその言葉にヨシュアはただ唖然としていた。
「さっさと準備をしろ。ラスト・フォートからの依頼だ」
「……!!」
その言葉を聞いた途端、ヨシュアの顔が明るくなる。
「了解!!」
そう返事をすると、ヨシュアは勢いよく駆けだした。
* * * * *
「えっ?」
入院服から着替えた制服を整え、僕は作戦室の扉を開くと開口一番に素っ頓狂な声を出してしまった。
「お久しぶりですね、ユウトさん」
「ヨシュアさん!!」
そう、そこにいたのはヨシュアさんだった。
「どうしてここに?」
「私の軍にも正式に依頼が来まして、それを引き受けることになったんです」
「依頼って……まさか!」
「ええ。私たちも力になりますよ」
「……! ありがとうございます!!」
頭を思い切り下げる。
ヨシュアさんはそれをみて笑っていた。
「お土産話は後だよ。ユウト、椅子に座って」
「ああ、すみません」
クラウスさんに促され、僕は一番近くの椅子に座る。
すでにシャルロットさんやクララさんもいるようだ。
「さてと、簡単な作戦の説明をするよ。まず、これを見てくれ」
クラウスさんがリモコンを操作すると、後ろにあるディスプレイに写真が映った。
「これは先日、人工衛星から撮影されたエクレイア共和国所有のレウス島に建築されたものだ。クララ、何か知ってるかい?」
「いいえ。こんなもの……初めて見たわ」
「ということは現政権になってから建てられたもの、という可能性が高いね。それで、この写真を拡大すると……」
写真はどんどん大きくなっていく。
その建築物の周りにある木々がはっきりと見えるようになったころ。
「これは……!」
隣でシャルロットさんの驚いたような声が聞こえた。
僕も、驚きを隠せないでいた。
「これは“魔王十字のヴィント”が乗るCSだ。ユウトとシャルロットは見たことあるよね」
僕らは黙ってうなずく。
すると、ヨシュアさんがクラウスさんに尋ねた。
「“魔王十字のヴィント”ってあの?」
「何回か戦ったことがあるんだ。といってもCSに乗った本人とは一回だけかな」
「あのヴィント相手に、生きて帰ってきたんですか!?」
「あの時のメンバーは二人いなくなってしまったが、な」
シャルロットさんは少し悲しそうな顔をした。
(アヤさん、フューラー先輩……)
今も隣を見ればアヤさんが笑っているような気がするが、隣を見てもただ、いすが置いてあるだけだ。
時間の流れというものは怖い。
(人は人の死にこうも慣れてしまうんだな)
ふと、そう思った。
「そのことは残念だったけど、いまはこっちだ。ヴィントがいるということはここは確実に何かある。それに、ここにはエクレイアの人が移り住んでいる様子はない」
「つまり決戦の舞台は……」
「そう、ここレウス島だ」
煙突のようなものを空に向けて、そびえたつ建物。
その煙突が、どこか銃口に見えてしまう。
「さて、それで作戦なんだけど」
クラウスさんがリモコンを操作する。
写真は消え、レウス島周辺の地図が表示された。
「まず、攻撃は3部隊に分ける。一つめは海上から攻撃を行う砲撃班。二つめは地上に降りてエクレイア軍をおびき寄せる陽動班。そして3つめが内部に潜入し戦闘を行う突入班。ヨーロッパ軍は海上を、集まったコンストラクターで陽動を、そして僕らが突入班だ。この中で最も危険度が高いのは突入班だろう。待ち伏せされる可能性もあるし、なにより内部の状況がわからない状態で戦うことになってしまうからね」
「つまり、われわれには最低限の援護をということですね?」
「そういうことになるね」
「それじゃあ、僕らは内部で何を行うんですか?」
「もちろん、ヴィントを倒してクーデターを成功させることが目的だね。クララには最初と最後だけかなりの大仕事になってしまうけど……」
「大丈夫よ。それなりの覚悟はできているわ」
「すまない。現状、集まっているコンストラクターはそれほど多くない。……もうすこし集まってくれるといいんだけど……」
「私たちからも人員を出しますか?」
「いや、それには及ばないよ。これはPMC同士の戦いになる。できるだけ協力してくれる国の損害は出したくないからね」
「やはり、もっとPMCのコンストラクターが……ということですか」
そんな話をしている時だった。
「失礼します!!」
大きな声と共に、ドアが思い切り開かれた。
「今は会議中だぞ!!」
ヨシュアさんが珍しく声を荒げた。
本気で怒っているというわけではなく、上司として言っている、そんな風に見えた。
「すみません! ですが、至急、とのことでしたので!!」
「至急?」
「はい! わが社に努めるコンストラクターのうち70%が「協力する」との返答がありました!!」
「70%だと……!?」
シャルロットさんは信じられないといったような感じで、立ち上がる。
「はい! 明日には合流できるかと!!」
「人員が……集まった……!!」
「よかったですね、ユウトさん」
「は、はい……!」
どこか急いできた彼のような返答になってしまったが、とてつもなくうれしかった。
日本人である僕の頼みを誰かが聞いてくれる、そんな日がくるとは思っていなかった。
「これで戦える! 僕らはまだ戦るんだ!!」
「戦力はそろった。あとは、作戦を詰めるだけだね」
「まさか、本当に……」
シャルロットさんはいまだに信じられないようだった。
「トーマス、すまないな。お前のおかげで戦えるよ」
そんな一言をつぶやいた。
「さあ、作戦を練ろう」
「はい!」
* * * * *
「準備は整った」
ヴィントは静かに告げる。
「あとはロシア、中国との連携をとれば、この“砲台”は強固なものとなる」
廊下を歩きながら、数歩後ろにいるエドワードに話しかけているようにも、独り言をつぶやいているようにも見えた。
ゆっくりと扉を開ける。
開かれた先には直立不動の体勢でならぶCSの数々。
それらにはすべて光が灯っていた。
ヴィントは咳払いを一つすると、マイクを手に取った。
「諸君!」
スピーカー越しに聞こえるヴィントの声。
それは各CSの通信機にも伝わっていた。
「この戦いは決して、私利私欲の戦いではないことを、心に刻め! 我々は自らの意志と自由のために戦いに行くのだ!」
その演説はだんだんと熱を増していく。
「立て! エクレイアの勇敢なる精鋭たちよ! 祖国のために、いまこそ戦うのだ!!」
ヴィントは渾身の気合を込めて最後の言葉を言い放つ。
「進め!!」
集った戦力。
集った仲間。
ユウトは最終決戦の舞台へと行く。
次回 第15話 「戦場を駆ける」
青年は生きる意味を知る―――。