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For Alive  作者: M.O.I.F.
11/17

突きつけられた銃口

どうもMake Only Innocent Fantasyの三条 海斗です。

当初は12もしくは13話で終わるつもりでしたが、終わりませんね。

行けるところまで行ってみます。

まだまだ稚拙な部分もありますが最後までおつきあいお願いします。

それでは、どうぞ!!

「そんな顔しないで、大丈夫よ」

「はい……」

スーツを着込み、クララさんの少し後ろを歩く。

サングラスでどうにか視線はごまかしているが、サングラスをとれば視線が泳いでいる僕の顔が見えるだろう。

「クララ……本当に大丈夫なのか?」

「ええ。一応、あなたは犯罪者ということになっているわ」

後ろを振り返ると、長いコートに黒い帽子に長い髪を隠したシャルロットさんが立っていた。

コートで隠れているが、その手にはハンカチがかけられ手元が見えないようになっている。

その下から伝わる一本のロープをクラウスさんが持っていた。

「ほら、この通り」

にこっと笑いながらロープを持ち上げるクラウスさん。

僕と同じようにサングラスで目元を隠している。

「でも、うまくいく自身なんてありませんよ」

「物は気の持ちようだ。CSに乗っているお前みたいに堂々としていればいい」

「そうそう。いきなり撃ってくるわけじゃないんだしさ」

後ろの二人にそう言われても、どこか自信が持てない。

ぐだぐだと話しながら歩いていると、議事堂の前についていた。

「大きいな」

「そうですね。まるでお城みたいです」

「国の中心だ。厳格な雰囲気になるのは当然だろうね」

「議事堂の中に入りましょう。こんなところで話していたら本当にばれてしまうわ」

クララさんがそう催促をする。

僕らは黙ってうなずくと、クララさんの後に続いた。

(僕はクララさんのボディーガード……僕はクララさんのボディーガード……僕は……)

そう頭の中で思い続ける。

その緊張しているそぶりが周りに目を向けている風に見えたのか、特に怪しまれるということはなかった。

だけど、ここで気を抜いては同じ。

ずっと頭の中で思い続けることにした。

そんな、地味な努力をしている間にも話は進んでいく。

クララさんは受付と何やら話しているようで、それが難航しているようだ。

「私はエドガー大統領に会いに来たの。本当にそれだけよ」

「ですが、大統領からは誰も通すな、といいつけられていますので」

「私は彼に、彼女を引き合わせるだけなの」

「彼女……?」

受付は僕の後ろ、クラウスさんがロープを持っているシャルロットさんに目を向けた。

「彼女はエドガーに依頼され、私を殺しに来たといっています。このことについて私はエドガーに会いに来ただけ。もちろん、警察沙汰にはしていないわ。いま、この国がどんな状況か理解しているつもりだから」

「……前大統領にお世話になったよしみでつないでは見ますが、期待はしないでください」

受付はしぶしぶといった雰囲気で、電話をかけ始めた。

「エドガー様。クララ様がお会いになられたいと。……ええ。……ええ。わかりました」

ガチャリというような音を立てて受話器を置く受付。

ふぅっとため息を一つすると、僕らに視線を向けた。

「……場所はわかりますね?」

「ええ。ということは通ってもいいのね?」

「はい。エドガー様の執務室までお通りください」

「ありがとう」

クララさんはお礼を言うと受付の隣を歩いていく。

その後ろに僕らも続いた。

「あ、すみません」

「なにかしら?」

クララさんは振り向く。

その顔は焦りや驚きっといった表情を必死に隠しているようだった。

「許可が下りたのはクララ様だけです。ほかの方は、お引き取りを」

「なら、彼だけは? 私のボディーガードなのよ」

「なりません。通過の条件は“クララ様おひとりで”ということでしたので」

「……わかりました。」

突然、クラウスさんはしれっとした顔で答えた。

「クララ様、我々は入り口で待機しております。念のためにこれを」

シャルロットさんのロープを僕に一旦渡して、クララさんに何かを渡しているようだった。

「わかったわ」

「ご無事をお祈りしています」

クララさんはゆっくりと歩き出し、その姿を僕らは見えなくなるまで見ていた。

「……外で待機していよう」

「了解」

淡々とそう答える。

怪しまれたら僕らだけじゃない、クララさんにまで被害が及ぶ。

冷静になってきた頭はそれくらいのことを理解するのには時間がかからなかった。

議事堂の前は秋特有のすこし肌寒い風が吹き抜けていた。


 * * * * * 


「……それでクララさんに何を渡したんですか?」

「発信機と盗聴器がついてる防犯ブザーみたいなものだよ。何かあったらボタンを押せばベルが鳴る。隣についている盗聴器でしか聞こえないような音量でね」

「何かあったら駆けつけることができる……というわけですか」

「ユウトの耳にもついてる通信機で聞こえるはずだよ。スイッチを押してみたら?」

「そうですね」

カチッという音を立てて、通信機が受信機に切り替わる。

『……大丈夫かしら……』

一番にクララさんの心配そうな声が聞こえてきた。

ただ、これがクララさん自身のことではなく、僕らに対して言っているのだということはすぐに分かった。

「いまから中に入るみたいだ……」

「私にも聞かせてほしいんだが……というかそろそろロープを離してくれないか?」

「それはだめだ。君は今、“罪人”なんだから」

「もどかしい……」

シャルロットさんはその後も、ずっとぶつぶつと文句を言っていたが、僕らは通信機越しに聞こえるクララさんの行動に耳を傾けていた。


 * * * * * 


階段の音が聞こえる。

どうやら、彼女が階段を上っているようだ。

一段、また一段とゆっくり上っていく。

それは彼女の心を表しているかのようだった。

長い無言。

ただ、彼女の息遣いと歩く音だけが響く。

それが、突然止まった。

彼女は目的の部屋についたらしい。

こんこんと木製のドアをたたく音がした。

「……~~」

かすかに聞こえる男の声。

だが、それは何を言っているのか判別できないほどの声。

ガチャという音が聞こえた。

ドアが開く音だ。

『クララさんじゃないですか』

バタンという音が途中聞こえたが、それでもはっきりと聞き取れる男の声。

この声の主がエドガーという男のようだ。

声は低く、それでいてはっきりとした声。

その声はどこか街頭演説でもやっていそうな雰囲気を持っていた。

『それで、今日はどのような用件で?』

『あなたに聞きたいことがあるの』

『聞きたいことですか? 私にこたえられることでしたらなんでもお答えしますよ』

『なんでも……ね。その言葉に嘘偽りはないわね?』

『もちろんですとも。カーティス前大統領にはお世話になりましたから』

『世話になった? 父を殺しておいてよく言うわね』

『何度も申したでしょう。なぜ、私がカーティスさんを殺さなくてはいけないのですか?』

『知っているのよ。あなたと父がこの国の在り方についての考えが違えていたことを。それが原因で父からこの国の政治から追い出されようとしていたことも』

『確かに、私はカーティスさんと考え方が違っていました。あの人は貿易や流通によって発展すべきだと。確かにそれも一つの在り方です。ですが、できたばかりの新興国。大国相手と対等に渡り合うだけの物資も流通経路も、そして何より財力がありません。ですから私は、まずは軍事力を強化すべきと打診したまでです。いまでも自分の考えが間違っているとは思いません』

『ならば、なぜ父は死ななければならなかったのですか!? あの日、父は……!!』

『本当に残念に思います。偉大な方でしたから』

『まだ白を切るおつもりですか!!』

『……私がどうしてここにあなたを通すのを許可したのかわかりますか?』

『……どういうことですか?』

『少しは……お父上のように聡明になられるべきでしたね』

バンという大きな音。

その直後に聞こえる複数の人間が走るような足音。

『これは一体、どういうことですか!?』

『そろそろ、お引き取りを願おうと思いまして。言ったではありませんか、私はいまでも自分の考えが間違っているとは思いませんと』

『やはり、あなたが父を……!!』

『……連れていけ』

『この人殺し!!』

バタバタという音にまぎれて、彼女の悲痛な叫びが聞こえた。


 * * * * * 


「まずいぞ!!」

「行きましょう!!」

「一体、何が起こったんだ!?」

「クララさんがつかまりました!!」

「何!?」

「急ごう! あの様子じゃどこかの部屋に監禁されるはずだ!!」

「その前に、クララさんを助け出しましょう!」

「でも、どうやって中に入るんだ!? 受付を脅せば行けるかもしれないが、それじゃあテロリストと変わらないぞ!!」

クラウスさんはあたりをきょろきょろと見渡す。

「あそこだ!!」

そして勢いよく駆けだした。

シャルロットさんはロープを引っ張られてすこしバランスを崩したが、何とか立て直し、クラウスさんについていく。

僕も遅れないようについていく。

たどり着いた先は隣のビルの屋上だった。

「そろそろくるはずだ……」

クラウスさんは空を見上げて、何かを待っていた。

その何かは、すぐに現れた。

「輸送機!?」

「シャルロット! ロープはほどけるね!」

「ああ!」

シュルシュルという音を立てて、ほどけるロープ。

覆いかぶさっていた布の下から拳銃を握ったシャルロットさんの手が出てきた。

「さあ、あれに捕まって!!」

よく見ると輸送機から梯子が垂れ下がっている。

クラウスさんの言わんとすることが一瞬で、理解できた。

「いきなりすぎだな!!」

たんと全員が勢いよく飛ぶ。

梯子をつかみ、そのまま議事堂の屋上へ。

「飛び降りるよ!!」

勢いよく飛び降り、着地する。

全員、無事に着地したようだ。

「急ごう!!」

僕らは扉に走る。

ドアノブをひねると、鍵がかかっているようで、ドアは開かなかった。

「離れてください!!」

僕は胸のあたりにあるホルスターから銃を取り出し、鍵を破壊する。

思い切り蹴り飛ばすと、ドアは勢いよく開いた。

「クララはこの議事堂のどこに……!」

「わかりません!」

「しらみつぶしに探すしかないか……!」

階段を駆け下りると、荘厳な廊下に出た。

木製のドアが無数にある。

この中からクララさんを探すとなるとかなり骨が折れるだろう。

「いたぞ!!」

「もう見つかったか!!」

「隠れろ!!」

クラウスさんは右に、僕とシャルロットさんは左に跳ぶ。

壁に隠れると、僕らがいた場所に無数の弾丸が飛び交った。

僕は通信機のスイッチを切り返ると、クラウスさんに通信をした。

「どうしますか!?」

『戦うしか……ないだろうね』

「この戦力差で、ですか」

「行けるさ」

隣でシャルロットさんが自信ありげに言い切った。

「戦場を知らないやつらに負ける私たちじゃないだろう?」

「……そうですね。クラウスさん聞こえますか?」

『僕はサポートに回ろう。この中でこういうのに一番慣れているのはシャルロットだから、指揮は任せてもいいかな?』

「了解だ。任せてくれ」

シャルロットさんはいつの間にか通信機を付けていた。

『それじゃあ、指揮を移行しよう』

「3カウントだ。銃しか持っていない私たちがあいつらを倒すには、一瞬の隙を確実につく必要がある。弾幕が止むその瞬間を狙うぞ」

「3……」

『2……』

「1……」

そして次の瞬間、弾幕は本当に止まった。

「いけっ!!」

壁を立てに発砲する。

弾丸が一発、また一発と相手の兵士に向かって飛んでいく。

「ぐわっ!!」

銃弾が当たり、何人かがその床に血だまりを作る。

だが、相手も馬鹿ではない。

ドアを開き、バリケードをつくった。

「それがお前たちのミスだ! ユウト! ここは任せて今のうちに行け!!」

「はい!!」

兵士がいる方とは逆に向かって走り出す。

相手がそれに気づき、頭を出すと、狙いすまされたかのようにシャルロットさんの銃が火を噴く。

「さあ、相手は私たちだ。元“白虎隊”隊長の実力を侮るなよ」

『こわいこわい。さて、ユウト。どうやらクララは二階にある部屋に連れていかれたらしい。そろそろ相手もしびれを切らしてくるころだ。どこかの部屋に入ってくれ』

「了解です」

僕は近くにあった部屋の扉を開けると、その中に入った。

「……」

そして、響く銃弾の音。

シャルロットさんやクラウスさんは大丈夫だろう。

だが、クララさんは大丈夫だろうか。

「……?」

部屋の中に目を通すと、ここは誰かの自室のようだった。

大きな本棚に、大きな机。

大きい窓から明るい陽射しが部屋の中に入りこんでいた。

見る限り、重要な人の仕事場のようだ。

机の方に近づいてみると、薬が散らばっていた。

(何の薬だろう……)

僕はそれを拾うと、ポケットに入れた。

そして机の上のあるものに気付いた。

それは写真たてだった。

「これは……!」

まだ若いが、真ん中に写っているのはあの場所であった男だ。

そしてその周りを少年少女が囲んでいる。

その中にはシャルロットさんと思われる少女も写っていた。

(どうして、ずっとこの写真を? なにか、引っかかる……)

だが、そんなことをじっくりと考えているひまはない。

そう思い顔を上げる。

銃声はまだ聞こえていた。

窓の外を見ると、ベランダ越しに隣の部屋に行けるようだった。

(この距離なら……!)

僕は勢いをつけると、柵を踏み台にして、隣のベランダに飛び移った。

革靴が地面に当たるコツという音が響いた。

隣の部屋は無人だった。

(くそっ! どこにいるんだ……!!)

焦りばかりが募る。

銃でカギを壊し、中に入る。

部屋は無人で、争った跡も誰かがいた形跡もなかった。

どうやらここは来客室らしい。

ドアを開けて、外の様子をうかがう。

まだ、銃撃戦は続いているようだった。

(……?)

ぽつんと存在する、突き当りの部屋。

なぜか、そこに意識が集中する。

(呼ばれている……?)

そんな直感が僕をその部屋へといざなう。

ドアノブに手を開けると、それは確信に変わった。

ゆっくりと、ドアを開く。

そこには……一人の青年が立っていた。

「……ようやく来たか」

「この声は……!」

聞き覚えのある声。

聞き間違うはずがない。

なぜなら、僕は彼と一騎打ちをしたのだから。

「久しぶりだな、ユウト・キリシマ」

「エドワード……! どうして君が!?」

「クララ・エクレイアは我々が身を預かっている。身柄を開放したければ……俺と戦え」

「何……!?」

「もう一度言う。俺と戦え、ユウト・キリシマ」

「僕が勝てばクララさんは解放される……ということか」

「ああ。だが、お前が負ければ……」

エドワードは銃をこちら向け、まっすぐと言い放つ。

「あの女が死ぬだけだ」

「……! 卑怯な……!!」

「卑怯でも構わないさ。俺はお前と戦いたい、それだけだ」

「それで人を使うなんて、傲慢だ!!」

僕は銃を突きつける。

突きつけられた銃口はぶれることなく、ずっとこちらを向いていた。

「黙れ! 俺と戦え! 戦わないというのなら、お前もあの女も殺すだけだ!」

「……っ!」

僕は銃を下ろす。

「……わかった。君との勝負を受けよう」

「そうと決まれば、ついて来い」

「その前に、シャルロットさんたちを……」

「……」

エドワードは通信機を取り出すと、なにやら通信を始めた。

「これで大丈夫だ」

「一体、何を……」

「戦闘を中止させた。……これで、お前は何の気兼ねもなく俺と戦えるだろう?」

「……どうして、そんなにぼくとの勝負にこだわるんだ……!」

「己のためだ……」

エドワードはそれ以上答えなかった。

ただ、彼の目は何かを強い覚悟のような、そんなものを感じた。

しばらく歩く。

その間、無言だった。

そしてたどり着いたのは、演習場のような場所だった。

「ここならば住民や周りに被害を与えることなく戦えるだろう」

「……そこまでして僕と真剣に勝負したいのか」

「ああ。俺はお前に勝ちたい」

エドワードはまっすぐ歩いていく。

その先には見たことのないCSが立っていた。

彼は振り向くと、両手を広げた。

「さあ、お前のCSをここに運べ! 勝負だ!!」

「受けてたとう……! エドワード!!」


 * * * * * 


ゆっくりと輸送機がおりてくる。

そして、完全に着陸すると、機体からシャルロットさんとクラウスさんが出てきた。

「大丈夫か!?」

「はい、僕は大丈夫です。シャルロットさんもお怪我はないですか?」

「ああ。大丈夫だ」

「それにしても、すごいことをしてくれたね……」

「またお前に託すことになるのか」

「大丈夫です。必ず勝ってきますよ」

「……ああ。待っているぞ」

「頑張ってくれ。僕らもできる限りのことはするから」

「はい」

僕は輸送機の中にある自分のCSに向かって歩き出す。

エドワードはすでにCSの中で待機していた。

彼を待たせるわけにもいかないだろう。

CSに乗り込んで起動させる。

エンジンの始動音がなり、ディスプレイが光りだす。

「行くぞ……!」

ロックを解除し、輸送機から降りる。

目の前にはCSにのったエドワードがいた。

「待たせた。さあ、勝負を始めよう」

『ああ。ルールは使用していい武器はナイフのみ、相手を戦闘不能にさせた方が勝ち……ということでいいな?』

「もちろんだ」

『なら5カウントセットだ』

ディスプレイに現れる“5”の文字。

ゆっくりと、その数は減っていき、やがて“0”になった。

『行くぞ!!』

「来い!!」

ナイフを構え、たがいに向かって勢いよく駆けだす。

操縦桿を操り、ナイフを突き出す。

エドワードも同じように、ナイフを突き出した。

ガキンという金属同士がぶつかり合う音が響き渡る。

「くっ!」

操縦桿をしっかりと握っていないと押し戻されそうな、そんな攻め合いが続いていた。

両者が一歩後ろに下がり、またナイフを突き出す。

何度も何度も、それの繰り返しだった。

「くっ!」

(前よりも……強くなっている!!)

『やるな! だが!!』

「なに!?」

ディスプレイから突然消えたエドワードのCS。

サブディスプレイにもその姿は映っていなかった。

『ここだ!』

「がっ!」

後ろから伝わる強烈な振動。

僕のCSは勢いよく前に倒れた。

「ぐぅぅ!!」

幸い、ディスプレイが割れるほどの衝撃ではなかったらしい。

(いきなり後ろに……!!)

『立て! こんなことで倒れるお前じゃないだろう!!』

「倒しておいてよく言う……!!」

『まだだ。このCSはこの程度じゃないぞ!』

「くっ!」

(まだ何かあるっていうのか……!!)


 * * * * * 


「走った……いや、あれは滑っただと……!!」

「あの動き……“魔王十字のヴィント”みたいだ」

「だが、パイロットはやつじゃないんだぞ!」

「ヴィントが開発したCSなら彼に動きが似ていても不思議じゃないだろう」

「確かにそうだが……」

「さて、僕らもできることをしよう」

「何をするんだ?」

「決まってる」

クラウスは笑みを浮かべ、ちらっと演習場にあるとある建物をみた。

「……お姫様を助けに行くのさ」


 * * * * * 


「くっ!」

ガキンとガキンという音が鳴り響く。

それは一方的な攻撃。

相手の機動力では防戦一方になるのは必然だった。

(どうする……!)

そう思っていた時だった。

ピコンと響き渡る音。

それは“報道機関の機体が近づいた”証だった。

(こんな時に!?)

メインディスプレイの右上に表示されたヘリコプター。

そのヘリコプターには見覚えがある、いや見覚えどころじゃない、ずっと見てきたあの国旗がついていた。

『邪魔だ』

「させないぞ!!」

一瞬、報道の機体に向いたエドワードにとびかかる。

『離せ!!』

「離すものか!!」

ヘリコプターはその場をくるくると飛んでいる。

『離せと言っているだろう!!』

その時、エドワードの機体から聞こえたバチバチという音。

次の瞬間、僕のCSに激しい電流が走った。

「ぐわあああああああ!!」

『これで、邪魔者を片付けられる』

「……!」

まだ痺れ、痛む体を無理に動かす。

「“させないぞ! 関係のない人を……巻き込むな!!”」

『……! 日本語……?』

スピーカーから盛大に響き渡った僕の声。

自然と日本語で話していたらしい。

エドワードはキョトンとした声を出していた。

『そうだね。いい加減、君も落ち着いた方がいいじゃないかな』

「クラウスさん!!」

『どこから通信している!!』

『管制室から。こんなに薄い警備で、人質を取るなんてまだまだ未熟だね。この件にはヴィントはかかわっていないのだろう?』

『くっ……! 戦いを……』

「……! 逃げてください!!」

『邪魔するな!!』

僕は走って管制室の前に向かう。

エドワードのCSは手に白い明るい光をため始めていた。

それはバチンと大きな音を時々発している。

(まさか……電気か!!)

『死ぬがいい!!』

「まにあえええええええええええええ!!」

一歩、前に出す。

そして、両手を広げた。

光球はエドワードのCSの手から離れ、すさまじいスピードで僕のCSに向かってきた。

その輝きはディスプレイを白く染めた。

次の瞬間、激しい痛みが全身を襲った。

「うわああああああああああああああ!!」


 * * * * * 


「ユウト!!」

シャルロットは叫んでいた。

敵のCSがこちらに手を向け、光球を出そうとしていた時、シャルロットたちを守るようにユウトが立ちはだかったのだ。

そして、光球はユウトのCSに触れたとたん、溶けるようにユウトのCSに流れ、青白い線を浮かばせていた。

『うわああああああああああああああ!!』

「ユウト! 大丈夫か!?」

ブツンと電話が急に切れるような音がした。

シャルロットの頭に最悪の予想が浮かぶ。

それを確かなものにするように、CSのモーターが爆発を始めた。

「ユウト! ユウト!!」

炎に包まれるCSのパイロットはいまだに返事をしない。

クララは声を失っていた。

「シャルロット! 今はここを出るよ!!」

「……くっ!」

シャルロットはそれに従った。

本当はユウトのCSの元へと走っていきたかったが、ぐっとこらえた。

輸送機が撃墜されれば元も子もないのだ。

クララを連れて、走る。

それを相手のCSが逃してくれるとは限らなかった。

「……!」

勢いよく、CSの拳が地面を抉る。

「くそっ!」

「CSまでたどり着ければ……!」

敵はシャルロットたちを逃がすつもりはないようで、シャルロットたちの逃げ場をどんどんなくしていく。

「くっ……!」

「ごめんなさい。私のせいで……」

「クララのせいじゃないさ。だけど……」

「この状況……抜け出す術が見当たらないな」

「万事休す……か」

CSはこちらに狙いをつけ、こぶしを繰り出した。

だが、そのこぶしはシャルロットたちには当たらなかった。

敵のCSにボロボロのCSがとびかかったのだ。

そのボロボロのCSのパイロットはハッチを開け、血まみれの顔を見せながら相手を押さえつけようとしていた。

「早く!!」

「今のうちに!!」

「ええ!」

クララを連れて、シャルロット、クラウスが走る。

ユウトがエドワードを押さえていられる時間は限られるだろう。

それを察した彼女たちは全力で輸送機まで走った。

クララが乗り込み、クラウスが乗り込む。

しかし、シャルロットは入り口で立ち止まった。

「……行くんだね」

「ああ、置いてはいけないさ」

「やばいと思ったらすぐに出る。それは覚悟しておいてくれ」

「ああ」

シャルロットは振り向くと、ユウトの元へと走った。

「ぐわっ!」

「ユウト!!」

ユウトのCSは地面に倒れ、敵のCSに見下ろされる形になっていた。

「シャ……シャルロットさん……! 来ちゃだめだ……!!」

もうバッテリーは死んでいるのか、かすかな声でそう訴えかける。

「今度は私が助ける番だ」

シャルロットはユウトのCSに乗り、ハッチのところで両手を広げた。

『死ぬ気か?』

「死ぬつもりはないさ。ただ、私はユウトを守りたいんだ。……私を助けてくれたこの仲間を」

『……』

エドワードは無言でCSの手をこちらに向けた。

キュィィィンという音が聞こえてきそうだった。

「シャルロットさん!」

「きゃっ!」

ユウトが突然、シャルロットを引っ張る。

シャルロットは突然のことに、女性らしい声をあげながらユウトの腕の中に倒れた。

「うおおおおおおおお!!」

立ち上がったCSはそのまま相手のCSを押し倒す。

その衝撃で、シャルロットの体はハッチから飛び出しそうになる。

それをユウトはしっかりと抱きしめていた。

そして、ユウトはボタンを一つ押すと、シートベルトを外した。

「そのボタンは……!」

「いいから……降り……っ!」

立ち上がろうとしたのだろうが、力が入らないのか、そのままシャルロットと一緒に地面に落ちた。

「……っぁ!」

声にならない声を出してユウトは悶える。

よく見ると至る所にけがをしていた。

シャルロットはユウトを抱えると、歩き出した。

男の体はいくら鍛えるとはいえ、女性にとっては少し重い。

シャルロットは全力であるいているつもりでも、どうしても遅い歩みになってしまう。

「やっぱり僕がいるかな」

「クラウス……!」

「急ごう。ユウトは自爆スイッチを押したのだろう?」

「ああ……!」

クラウスが反対側を抱え、輸送機へと運ぶ。

『くそっ!』

CSが複雑に絡んでしまっているのか、エドワードはなかなか抜け出せずにいるようだった。

そして、ユウトを連れたシャルロットとクラウスは無事に輸送機にたどり着いた。

輸送機はゆっくりとその扉を閉め、空へと飛び立つ。

そして、はるか上空。

演習場で大きな爆発が起こった。

それは、ユウト・キリシマというパイロットが乗っていた愛機を失ったことを意味し、パイロットであるユウトは重傷を負った。

かくして、エクレイア共和国での潜入任務は幕を閉じた。

“魔王十字のヴィント”が武装組織のリーダーだったという情報しか得られないまま……。

愛機を失ったユウト。

彼は休養地として日本に帰国する。

その隣にはシャルロットやクラウス、そしてクララもいた。

そして、彼は日本で何を見たのか。


次回 第十二話 「懐かしき場所で」


青年は生きる意味を知る―――。

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