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For Alive  作者: M.O.I.F.
10/17

立ちはだかる国

どうも、MakeOnlyInnocentFantasyの三条 海斗です。

のこり3話で本当に終わるのでしょうか。

僕自身わかってないです。

まだまだ稚拙な部分がありますが、最後までお付き合いお願いします。

それでは、どうぞ!!

「私がこもっているうちに何かあったのか?」

シャルロットさんがハッチの棒をつかみながら、そうたずねてきた。

「ええ、実は……」


 * * * * * 


時は一カ月前。

シャルロットさんがまだ部屋に閉じこもっていた時、世界にある動きがあった。

それは起きてはいけないこと。

だが、火が付いた導線は止められない。

それは昼下がりの食堂で高らかに言い放たれた。

『我ら、エクレイア共和国は世界に対し、宣戦を布告する!』

「……冗談……だろ……?」

テレビから聞こえる声に、おもわずそうつぶやいていた。

周りにいたコンストラクターもざわざわしている。

僕も、驚きを隠しきれていなかった。

その証拠に、からあげは僕の端から皿の上に落ちていった。

「あ、いたいた。お~い、ユウト~!!」

「クラウスさん?」

「テレビは……見たね」

ちらっと食堂にあるテレビをみて、クラウスさんは苦笑いをした。

「あの宣戦布告は何の意味があると思う?」

「そのままの意味じゃないんですか? いまから戦争をしますよって……」

「本当にそれだけかな?」

「……どういうことですか?」

「“魔王十字のヴィント”、武装組織の基地の襲撃、宣戦布告……これらすべての出来事が僕にはつながっているようにしか見えないんだ」

「つながっている? それじゃあ、まるでサタン・クロス社が……、……まさかっ!!」

「そう。この宣戦布告……確実に裏がある」

「でも、証拠が……! “魔王十字のヴィント”がかかわっているというだけでは証拠になりませんよ! 彼もPMCのコンストラクターですから、依頼となれば何ら問題ありませんし……」

「彼が戦争をしむけたという証拠はないけど、確実に今テレビで出ている彼らは戦争をするという証拠はある。ここをたたけばでてくるだろう」

「まさか、クラウスさん……?」

「行こうユウト。真実を調べに」

開いた口がふさがらないとは、まさにこのこと。

いきなりすぎた。

「……それならシャルロットさんを連れていかないといけませんね」

気持ちを入れ替えて僕はそう言った。

「シャルロットはユウトに任せようと思うんだ」

「僕に?」

「たぶん、彼女の気持ちは君が一番よくわかるだろうから」

「ああ……」

確かに僕とシャルロットさんの境遇はシャルロットさんが白虎隊の一員だったというところを抜けば、確かに似ている。

訓練時代に一人だったこと。

一人から抜け出すきっかけをくれた友人を失ったこと。

その時の気持ちは痛いほどわかる。

アヤさんが僕に立ち直るきっかけ……手紙をくれたように、シャルロットさんもなにか立ち直るきっかけがあればいいのだが、そんなものは全く持って思いつかなかった。

「でも……僕なんかでいいんでしょうか」

「君だから……だよ」

「僕だから?」

「アヤを失った君はたぶん、シャルロット自身が気付かなかった痛みに気付いているだろう? それらが積み重なった痛みが彼女を閉じ込めている。その鎖を放てるのは君だけだよ」

「……やってみます」

「時間はどれだけかかってもいい。君自身の言葉で彼女と話すんだよ」

クラウスさんはそういうと微笑んだ。

なんとなく、大人だなぁと思ってしまう。

そして僕は一カ月という時間をかけ、シャルロットさんを連れ出した。


 * * * * * 


「なるほど。クラウスが……」

「いまからエクレイア共和国に向かいます。クラウスさんが待っていてくれますから、到着次第合流します」

「了解だ。それにしても、手間をかけさせるな」

「いえ、そんな……。でも、シャルロットさん見間違えましたよ」

「見間違えた? 私がか? やつれただけじゃないのか?」

「いえ、なんというか……大切なものを思い出したというか、なにか手に入れたというか……覚悟を決めた顔をしてます」

「覚悟……か。そうだな。確かに、昔世話になった人を思い出したよ」

「白虎隊のメンバーですか?」

「ああ。ほかにも司令官に医者……。話すと長くなるな」

「聞かせてください。時間はたっぷりありますから」

シャルロットさんはすこし微笑んだ。

「わかったよ。さて、何から話そうか……」

シャルロットさんはおもむろに話し出す。

その顔はどこか生き生きとしていた。


 * * * * * 


「はぁ……いきなり上空からCSを降下させるなんて……。これじゃあ、始末書書かなきゃいけないなぁ……」

空港から少し離れた場所から双眼鏡で一部始終を見る目があった。

それはユウトたちがよく知っている顔だった。

「でも、無事に連れ出せたようですね……」

そうこぼした彼の顔はどこか嬉しそうだった。

「さて、私も仕事をしないと、そろそろ上官からお叱りを受けそうだ……」

双眼鏡をしまうと彼は車に乗り込んだ。

車を発進させると、厳重な警備の建物に向かって進んでいく。

入り口でとまり、窓を開ける。

「身分証を」

「どうぞ」

運転席の窓から身分証をだす。

警備員はそれを確認すると、入り口を開けた。

「身分証をお返しします」

「ありがとうございます」

丁寧に受け取ると、車をゆっくりと発進させた。

その建物は軍の基地だった。

車を駐車し、上官の元へと向かう。

その足取りは重々しかった。

長官室と書かれたドアの前に立つ彼の顔は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

それでも覚悟を決めて、ドアをノックする。

「どうぞ」

「失礼します」

ゆっくりとドアを開け、中に入る。

中に入ってきた彼の顔を見るなり、長官は目を見開いた。

「……動いたか?」

「はい。いま、輸送機に向かっています」

「……始末書は後で提出しろ」

その言葉を聞いた時、彼はがっくりと肩を落とした。

「それで、どうだ?」

「彼らなら十分な戦力になると思います。CSの降下ポイントの正確さや降下の仕方を見る限り、彼は素晴らしい技量を持っているでしょう」

「伊達に“魔王十字のヴィント”と戦って生き残っているわけじゃないということか。彼は次はどこへ向かう?」

「エクレイア共和国と思われます。……偵察にだと思われますが……」

「次の任務は追って知らせる。ご苦労だったな」

「了解。それでは、失礼します」

彼は、扉をゆっくりと開け、部屋を出ていく。

足を一歩踏み出したその時だった。

「ヨシュア」

「……何でしょうか」

「お前は、彼らを撃てるか?」

その顔にヨシュアは体をビクッとさせた。

「……命令とあれば」

「……聞いただけだ。呼び止めてすまない」

「いえ」

ヨシュアがでてバタンと閉まるドア。

長官室には、無精ひげを生やした長官が難しい顔をしていた。


 * * * * * 


「もう大丈夫ですよ」

「すまない」

シャルロットさんはハッチから出した搭乗用昇降機を使って降りていく。

着地すると、昇降機のロープを引っ張った。

すると、ゆっくりと昇降機は上昇してきた。

僕は昇降機を操作し、ゆっくりと降りる。

着地すると、昇降機は下ろしたまま僕らは輸送機の座席へと向かった。

エクレイア共和国まではここから1日かかる。

合流は早くても明日になるだろう。

僕はクラウスさんに連絡を入れると、自分の席に深く座り込んだ。

「クラウスはなんて言っていた?」

「よかったって、それだけですよ」

「まるで、こうなることがわかっていたみたいだな」

隣に座っているシャルロットさんが笑う。

(ここに来た時と比べて、シャルロットさんずいぶんと雰囲気が変わったな……)

よく笑うようになったし、よくしゃべるようになった。

まるで何か吹っ切れたような、そんな顔をしている。

(部屋に閉じこもっていたのはシャルロットさんにとっても悪くなかったってことかな)

「ん? どうした?」

そんなことを考えていると、シャルロットさんに顔を覗き込まれた。

「いえ、クラウスさんらしいなとそう思っていただけですよ」

「……本当か?」

ジトっとした目で、明らかに怪しんでいるそぶりを見せる。

「本当ですよ!」

「その言葉を信じると……しよう……」

「シャルロットさん?」

「すまない……なん……だか……眠く……」

「……」

しばらく見ていると、シャルロットさんはすぅすぅと寝息を立て始めた。

(部屋に閉じこもっている間、まともに寝れていなかったのかな)

目の前で寝息を立てている彼女は、どこか無防備で。

どこか、幸せそうな顔をしていた。


 * * * * * 


『どうしてそんなことを!!』

見たことのないCS同士が戦闘を繰り広げている。

(これは……夢? ならこれは……僕?)

『いつだって人はそうだった! 人は変わらない! いくら世界が滅びようと人はまた同じ過ちを繰り返す! だからこの手で消し去るのだ!!』

『人はいつだって過ちに気付いてきた! 絶望するには早すぎる!!』

『お前のような世間知らずに何がわかる!!』

『それは貴方も同じだ! 戦いしか見てこなかったあなただって!!』

激しく交差するCS。

どちらの機体も、すでにボロボロだった。

『次の一撃で決着だ』

『僕は貴方には負けません……!』

『ほざけ!!』

勢いよく駆けだすCS。

僕もナイフを片手に駈け出した。

『うおおおおおおおお!!』

『はああああああああ!!』

そして……。


 * * * * * 


「ユウト!!」

「……っ!!」

目を覚ますと、シャルロットさんが心配そうな顔で僕の顔をのぞき込んでいた。

「大丈夫か? ひどくうなされていたようだが……」

「あ、はい。大丈夫です」

「それならいいんだが……」

「変な夢を見ただけですよ。大したことじゃありません」

「変な夢?」

「ええ。僕が見たことのないCSに乗って、誰かと戦っているんです。それで、次の一撃で勝負が決まる―――! って時に目が覚めました」

「なるほど。最悪のタイミングで起こしてしまったようだ」

「いえ、むしろ最良だと思います」

「どうしてだ?」

シャルロットさんは首をかしげる。

「僕が死ぬところまで見ませんでしたから」

「……なるほど。そういう考えもあるのか」

「ええ。でも実際にいるならばあの相手……かなり強いですよ。例えるなら“魔王十字のヴィント”みたいに」

「ほう……。ならば、気を付けなければいけないな」

「そうですね」

「奴ほどの強敵か……。あんな化けものが二人もいてたまるか」

シャルロットさんはそう毒づいた。

僕もそう思う。

「あ、そうだ。もうそろそろつくようだ」

「わかりました」

僕は目の前にあるディスプレイを操作し、通信をする。

相手はもちろん、クラウスさんだ。

『ユウトか。どうしたんだい?』

通信が繋がり、クラウスさんの声がする。

画面には<<SOUND ONLY>>と書かれていて、手が離せない状況にあるようだった。

「もうじきそちらに到着します。合流場所はどこにしますか?」

『新興国家が宣戦布告をしたせいで、空港は封鎖されてる。どこか郊外で合流するしかなさそうだ』

「クラウスさんは今どこに?」

『僕? 僕はね……』

クラウスさんは一瞬、間をおいた。

次から放たれる言葉にどこか嫌な予感がした。

『国会議事堂前にいるよ』

「なんでそんなところにいるんですか!!」

『国の中心に何かあると思ってね。……でも多少の危険を冒した甲斐はあったよ』

「何かわかったんですか?」

『いろいろとね。詳しいことは合流してから話そう』

「了解。合流ポイントを後で送ります」

『了解。気を付けてね。いまこの国は戦争をしようとしていることを忘れちゃだめだよ』

「もちろんです。では、通信を終わります」

画面がブツンという音を立てて通信が終わる。

ふぅっと息を吐くと僕は窓の外を見た。

窓の外を見ると、すでに朝日が昇り始めていて、雲海と相まって幻想的な風景を醸し出していた。

これが戦争をしようとしている国の空だと思うと、どこか悲しい。

しかし、そんなことばかりも言っていられないので、僕は合流ポイントを探すことにした。

「合流ポイントは……ここか」

出てきたのは広い草原で、輸送機が着陸するにはちょうどいい場所だった。

「別段、保護区域に指定されているわけでもなさそうだ……。ちょうどいいかもしれないな」

シャルロットさんは画面をのぞき込んで、そう言った。

体が密着し、どこか女の人特有のにおいがしてくる。

「そ、それじゃあ、ここを合流ポイントとして送ります」

極力平静を保ったつもりだが、それでも隠し切れなかったのか、シャルロットさんは首をかしげていた。

合流ポイントを送り終えると、僕は操縦席にも同じデータを送った。

「すみません! お願いします!!」

輸送機はゆっくりと進路を変え、合流ポイントへと向かっていく。

(到着は昼頃になるかな……)

その予想通り、クラウスさんと合流できたのは日が高く上った13時だった。


 * * * * * 


「いまから、滞在先に向かうよ」

「ホテルとかじゃないんですか?」

「ホテルだと身分証がいるからね……」

「ああ……」

戦争をしようとしている国が他国の人間を受け入れるとは思わない。

それに、それが原因で人質にされたり、殺されたりするかもしれない。

下手に身分を明かすよりは、どこかに隠れていた方がいいだろう。

「それよりもシャルロット。もう大丈夫かい?」

「ああ。心配をかけたな」

「別にかまわないよ。戻ってくると思っていたからね」

「よく言うよ」

「それでも、ユウトを行かせたのは正解だったかな」

「どういうことだ?」

「まっ、そのうちわかるよ」

クラウスさんはもったいぶるようにそう言った。

(この人……たぶん、聞いても教えてくれないだろうなぁ……)

ジトっとした目で見ている僕らを横目に、どこかクラウスさんは上機嫌だった。

彼もシャルロットさんが復帰して嬉しいのかもしれない。

車はまっすぐエクレイア共和国へと走っていく。

それが、どこか違和感を覚えずにはいられなかった。

その理由はすぐに分かることになる。

車が到着したのは、首都・アルグランテにある一軒家だった。

「ここですか?」

「ああ」

扉を開けると、いい匂いが漂ってきた。

お腹が空く、美味しそうな匂いだ。

「お帰りなさい」

「ただいま」

クラウスさんはそこが自宅かの様に振舞う。

そこにいた若い女の人も、クラウスさんがいるのが当たり前のように料理を作り続けていた。

「どうしたんだい?」

「いえ、てっきり無人だと思っていたので」

「ああ、彼女かい?」

「彼女は誰なんだ?」

「紹介するよ。クララ、ちょっといいかい?」

「今、行くわ」

クララと呼ばれた女性が火を止め、エプロン姿でこちらに来る。

長いブロンドの髪を首の後ろで束ね、黄色いエプロンはどこか家庭的な雰囲気を醸し出している。

その顔は整っていて、何の変哲のないただのエプロンがどこか映えて見える、そんな人だった。

「彼女はクララ。僕がここに来た時に、かくまってくれた人だよ」

「クララです」

ぺこりとクララさんは頭を下げた。

その動作の一つ一つが様になっていて、どこかのお嬢様のような、そんな雰囲気を醸し出していた。

「シャルロット・プリエールだ」

「あ、ユウト・キリシマです。よろしくお願いします」

「ユウト・キリシマ……? もしかしてあなたは日本人?」

「え? あ、はい。そうです」

すこし身構える。

日本人が世界からみてどんな風に思われているのか、実際に体験してきたからだ。

「まぁ! 本物の日本人に会えるなんて感激だわ!!」

「……へ?」

素っ頓狂な声が出てしまった。

それほどまでに意外だった。

そんな僕のことなどお構いなしに、クララさんは喜んでいる。

「日本ってキョウトに舞妓さんって本当にいるの!?」

「ええ……いますよ」

「まぁ! やっぱりきれいなのかしら?」

「そ、そうですね……。きれいな方が多いですよ」

「一度、行ってみたいわ……」

クララさんの勢いに、すこし気圧される。

当のクララさんはうっとりとした表情で自分の世界に入ってしまったみたいだ。

「……たじたじだな」

「ここまで勢いよく来られたのは初めてですから……」

「僕も彼女がここまで饒舌なのは初めて見たよ……」

「……それよりも彼女をこちらに戻した方がいいんじゃないか?」

僕らの視線の先に、まだ自分の世界にいるクララさんの姿が映った。

クララさんはときどき「うふふ……」や「あはは……」とつぶやいている。

「クララ……?」

恐る恐るクラウスさんが肩をたたく。

そこで、クララさんはハッとした表情になり、一つ咳払いをした。

「ごめんなさいね。すこし、取り乱してしまって」

「いえ……」

「それよりもだ。クララの勢いに隠れてしまったが、かくまってくれた……というのはどういうことだ?」

「ああ……とりあえず座らないか?」

クラウスさんに勧められ、僕らは椅子に座る。

テーブルをはさんだ先に、空ラスさんが座った。

「さて……なにから話そうかな……」


 * * * * * 


クラウスがここに訪れたとき、ここエクレイア共和国にはとある人物が来ていた。

「状況はどうだ?」

「なんとか国の整備が整い始めた……というところです」

「いつだって、何かを始めるときには苦労が必要だ。戦力のことはこちらに任せてそちらは内政に取り組むといい」

「ありがとうございます。……“ヴィント”様」

「私は一介のコンストラクターだ。様づけは止せ」

「いえ、この国の指導者は貴方様です。みな、そう申しておりますよ」

「……」

へこへことそう繕う男を一瞥すると、ヴィントは部屋に入った。

その男はヴィントの部屋に入ることを禁止されている。

その男だけではなく、ヴィントは限られた人間以外、その部屋に入ることを禁止していた。

それはこの国でそれほどまでに力と地位を持ったという証拠。

“魔王十字のヴィント”として、今もなお恐れられている最強のコンストラクター。

その彼がこうして国の内政にかかわる理由は、いまだ彼以外知らない。

ヴィントはイスに深く座る。

窓の外を眺めると、宣戦布告をしてまだ間もない国が見えた。

それを見ているヴィントの顔はどこか難しい顔をしている。

そして、ドアのノックの音ですぐに景色を見るのをやめた。

「失礼します」

「エドワードか」

「はい。先日はすみませんでした」

「いや、いい。ラスト・フォートのコンストラクターとの一騎打ちの結果としては上々だ」

「それで、要件とは……?」

「先の一騎打ちで、機体が大破しただろう。そこで、お前に新たなCSを与える。その試験を行ってきてほしい。……それがお前の専用機になるだろう」

「……!」

「明日の14時。演習場に行け」

「了解! ありがとうございます!!」

エドワードは嬉しそうにお礼を言うと、部屋から出ていく。

ヴィントはエドワードのその様子には興味を示さなかった。

ゆっくりと立ち上がると、ヴィントは本棚に手を伸ばす。

黒色のファイルには何かの設計図がかかれていた。

「……! がはっ!がっ!!」

突然、ヴィントが苦しそうにせき込む。

ファイルが地面に落ちたのなど関係が無いように机の引き出しを引っ張り出す。

そこに入っていた薬を乱雑に瓶から出すと口に含んだ。

薬を飲みこんでから少し経った後、ヴィントはようやく落ち着きを取り戻した。

ヴィントはゆっくりと自分の手を見つめる。

その手には真っ赤な血がついていた。

「残った時間も……あとわずか、か……」

ヴィントはぽつりとつぶやいた。

その直後、電話が鳴り響いた。

「私だ」

ヴィントは平静を装い、淡々とした声で応える。

『すみませんが、お時間です』

「わかった。すぐに向かおう」

ヴィントは手についた血をふき取ると、ヴィントは何食わぬ顔で部屋を後にした。

机には薬が散らばり落ちていた。


 * * * * * 


「さて、なにか得られるものはあるかな」

クラウスは町の中を歩いていた。

その服はラスト・フォートの制服ではなく、自分の私服だった。

それでもアジア系の国に東欧人がいるというのは浮くようで、道行く人の視線をクラウスは感じていた。

(ユウトに来てもらえばよかったかな……)

内心、そう思っていてもユウトにしかシャルロットが救い出せないのは、クラウス自身もわかっていたので、クラウスがこの国にくることには変わりなかった。

そんなことを思いながら歩いていて、クラウスは思った。

(宣戦布告……したはずだよね。この国……)

街は戦勝ムード……という雰囲気はなく、どこか落ち着いていた。

この雰囲気を売りにしてもいいのではないか、そう思えるほど静かな町だった。

それが現状に対しておかしかった。

気が付けば、クラウスは議事堂前に来ていた。

「さすが完成直後、きれいだ」

灰色の落ち着いた雰囲気を持つ議事堂は全部がコンクリートというわけはなく、レンガを積み上げて作ったような、そういう箇所が随所に見られた。

議事堂はどこか城を彷彿とさせるデザインで、国の象徴・政治の中心と呼ぶにふさわしい造りをしていた。

「……?」

クラウスが議事堂を眺めていると、一人の青年が嬉しそうな顔で出てきた。

年はユウトと同じくらいだろうその青年は見たことのある制服を身に着けている。

その制服に付けられているマークをクラウスは見間違うことはなかった。

(“魔王十字”! サタン・クロス社のコンストラクターがなんでこんなところに!?)

その青年はクラウスに気付くことなく、そのまま通り過ぎていく。

クラウスはその青年が完全に通り過ぎるまでそこから動くことができなかった。

(この国……一体、どうなっているんだ……?)

とにかく、この場から離れなくてはいけない。

クラウスの頭によぎった、直感ともいえるそれは、次の瞬間に正しかったとわかった。

「……!」

議事堂から出てきた、スーツを纏った男。

その男はクラウスも知らない男じゃなかった。

「どう……して……」

クラウスは思わずそうつぶやいていた。

ゆっくりと階段を下りてくる男。

周りにはあの時と違ってスーツ姿の屈強な男がいる。

ボディーガードだろうか、その男たちは真ん中に立っている男とは違い、アジア系の顔立ちをしていた。

彼らはこの国の人間らしい。

クラウスは足が地面に張り付いてしまったかのように、動くことができなかった。

そのクラウスの横を一台の黒い車が通り過ぎ、議事堂の前に止まる。

その男は車に向かって歩いていく。

扉が開き、車に乗り込むその瞬間、クラウスと目があった。

「……!!」

クラウスは駆け出していた。

(逃げないと……!)

クラウスは振り向かずに走り続ける。

「捕まえろ!!」

男のその怒声がクラウスの耳に届いていようとも、クラウスは止まらない。

曲がり角を利用して、なんとか追っ手を撒く。

だが、土地勘がないクラウスにとってこのチェイスは圧倒的に不利だった。

「くそっ! 行き止まりか!!」

後ろから追っては来ている。

(こんなところで……!!)

そう思った直後、横から思い切り引っ張られた。

「うわっ!」

思い切り、しりもちをつく。

直後、ドアが閉まり、女性が目の前に現れた。

「君は……!」

「し~……」

女性は人差し指を立て、自分の唇に当てる。

静かにしていて、という合図だ。

ドアの向こうで「見失った!?」というような声が聞こえる。

しばらくして、声は聞こえなくなった。

「……もう大丈夫みたい」

「ありがとう。助かったよ」

「お礼なんていいわ。でも、どうして追いかけられていたのか教えて」

「それくらいなら」

クラウスは立ち上がると、女性に向き合った。

「私はクララ。あっちに机といすがあるから座って話しましょう」

クララに案内され、クラウスは椅子に座る。

その向かいにクララが座った。

「僕はクラウス。改めて助けてくれてありがとう」

「いいわ。それより……」

クララは興味津々というようだった。

「僕はPMCのコンストラクター……って言ってわかるかな?」

「PMCで実際に戦闘を行ったりする人のことでしょう?」

「そうそう。それで、依頼というわけじゃなくて私用でこの国に来ていたんだけど……議事堂前で僕のことを知っている人にあっちゃってね」

「それで追われていたわけね。敵だと思われて」

「たぶんそうだと思う。でも、彼がどうしてこの国にいるのか……さっぱり見当がつかないんだ」

「彼? もしかして、サタン・クロス社の社長のこと?」

「サタン・クロス社の社長って……“魔王十字のヴィント”じゃないか! 彼がこの国にいるのかい!?」

「ええ。違うの?」

「僕が見たのは、アドルフっていう武装組織の……」

クラウスはそこでハッとした。

複数の線が交わり、やがて一本の線へ。

「まさかっ……!!」

「どうしたの?」

「僕が見たのは……“魔王十字のヴィント”かもしれない」

「え? でもさっき……」

「同一人物だったんだ。僕が前にあった武装組織のリーダーと、“魔王十字のヴィント”は同じ人だったんだよ」

「それじゃあ、あなたは“魔王十字のヴィント”にあったのね?」

「そうなるね。彼に追われていたことにもなる」

「なるほどね。……ところで、あなたはPMCのコンストラクターなのよね?」

「そうだけど?」

「なら、私の話を聞いてくれないかしら」

「話?」

「ええ。話は少し前のことになるのだけど……。私の母は幼い時に病気で亡くなってしまって、父がずっと育ててきてくれたのだけど、その父の先日……」

「それは……残念だったね」

「でも、父の死は病気でも事故でもないの」

「病気でも事故でもない? 自殺じゃないとなると……」

「そう。父は殺されたのよ」

「一体、だれに? めぼしはついているのかい?」

「父の側近だったエドガーという男が私の父を殺したの。彼は父が亡くなった後、すぐに大統領に就任して……。その直後にサタン・クロス社がこの国に来たの」

「ちょっと待って。サタン・クロス社がかかわってきたのはごく最近だよ。そんなすぐに……」

「きっと前々から話を進めていたのだと思うわ。そうじゃなきゃ……」

「でも証拠がない以上……何もできないよ」

「父が建国したこの国はあの男によって滅ぼされようとしている。私はこの国を守りたいの!」

「……わかった。調査だけしてみるよ」

「ありがとう!!」

「でも、その前に人を待ちたいんだ」

「人?」

「ああ。ここに僕の仲間が来る。それから調査するよ」

「わかったわ」

クララはそう返事をすると微笑んだ。

「さて、それじゃあ僕はどこか隠れる場所を……」

「調査してくれるのならここを宿にしてもいいわ」

「……本当かい?」

「ええ。ここなら人も来ないし、だれか入ってくることもないわ」

「だけど……いや、ここはお言葉に甘えさせてもらおうかな」

「それじゃあ、さっそく準備するわ」

クララは嬉しそうに料理を始めた。


 * * * * * 


「そして、今日にいたるってわけだ」

「アドルフ司令官と“魔王十字のヴィント”が同一人物だと……!!」

シャルロットさんは驚きを隠せないようだった。

無理もないだろう。

敵として戦っていた最強のコンストラクターが自分の過去に尊敬していた司令官だと知って、動揺しないわけがない。

「やっぱり気づかなかったのかい?」

「ああ。通信機越しだと声も少し違うし、それに……雰囲気がまるで違ったからな」

「雰囲気……ですか?」

「ああ。昔はあそこまで冷徹というか、冷たい雰囲気はもっていなかった」

「あの日から、彼に何があったのだろうね」

「わからないな。私も彼にとっては白虎隊の一人……ということだったのだろう」

「“魔王十字のヴィント”の正体はわかりましたけど、クララさんのお父さんを殺した証拠をどうやって見つけるんですか?」

「内部に入る」

「……はい?」

クラウスさんのその一言に僕は素っ頓狂な返事を返していた。

「潜入するしかないだろうな」

「シャルロットさんまで!?」

「どのみち、ここにいたところで何も動かないんだ。ちょうど東洋人がここにいることだし……な」

三人の視線が僕の方へ。

「……僕が潜入するんですか……?」

「当たり前だ」

「でも……」

「大丈夫です。これでも元大統領の娘ですから、私と一緒なら入ることはできますよ」

「そういう問題ですか!?」

「大丈夫だ。殺してこいというわけじゃない」

「証拠を手に入れるんですよね。でもどうやって……」

「簡単な話だ」

シャルロットさんは真顔で言う。

「相手に直接聞けばいい」

そういうシャルロットさんの顔はどこか笑っているように見えた。

クララの頼みで殺しの証拠をみつけるために潜入したユウト。

そこで、彼はライバルと対面する。

そして、この国に隠された真実とは……!


次回 第十一話 「突きつけられた銃口」


青年は生きる意味を知る―――。

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