9.
「どこかで会ったっけ?」
というか、状況を理解してくれよと思わなくもないが、とりあえず説明しなければ。
「あの、クライド。じつ…」
「おい、遅いぞ!おまっ…!」
先に山華さんを連れていった男が戻って来た。先程自分を連れていた転けた男は立ち直ったらしい。
「誘拐犯です!そいつら」
焦ってクライドに伝える。ついでに彼の後ろに隠れる。
「何だって!?まだ連中の残党が居たのか!?」
クライドが何だか慌てているようだ。
残党?残党って何だ?この誘拐犯の事だろうか?
それより、問答無用でマシンガンをクライドが構えているんだが。
いやいやいやいや、撃つな殺すな。
とっさにクライドの腕に触れて止める。
ここは日本だ。アメリカじゃない。
「は?外国人、今何を言いやがった!?」
「何で外国の野郎がこんなところに?まさか山華が雇ったのか?」
「ヘイ!その*****な****を***されたくなけりゃ、今すぐ*****な両手を*******な頭に挙げて、地面に這いつくばれ!********」
「日本語を話せ!」
俺はきちんとした英語を話してほしいよ、クライド。
現場は大混乱でカオスだ。
「くそ‼こうなったら…」
おいおいおいおい、何しようとしてるんだ?犯人。銃を構えた人間を前にして動こうとか!おまっ、死にたいの?
「クライド、そこまでだ。どうやらそいつらは違うみたいだぞ。別口のようだ。とりあえず、女の子が誘拐されそうだったので、全員伸しておいたんだが」
クライドの仲間らしき人物が止めに入った。思わず安堵する。いつのまにか残り二人も伸されていた。クライドの仲間がやってくれたのだろう。
「そうか、了解した。そうだ、ところで君、本当にどこかで会った?マニラか?」
「おいおい、どさくさに紛れて何ナンパしてるんだよ、お前」
クライドはマニラでナンパしたのか。成功率が高そうなので何だか腹が立つ。
「いえ、一年ほど前にアーカンソーで狩りをした時に…」
口調がぶっきらぼうになったのはご愛嬌。
「狩り?狩り狩り…あ!あの時の!いや待てよ?ケインの奴が連れてきたのはアジアンの男だぞ?」
いくらアジア人の見分けがつかないからって、それほど判らないものなのか?
クライドの視線が、上から下まで忙しなく数往復して胸で止まった。
おい。二度見するな。そんな事をしても無いものは無い。正真正銘の男だ。見れば判るだろう?
そんなに俺って女顔なのか?今日1日で自信をなくすよ。
「あ、いや嘘だろ?女の子だったのか?」
「…俺は、男だ…」
いかん。つい一人称が俺になってしまった。何故女に間違える。
「えっ?」
クライドとクライドの仲間が同時に聞き返してきた。
思わず腕を組んだ。血の気が引いた。胸パットが自己主張したからだ。
そうだ、女装中だった。
佳人、恨むぞ。