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8.

山華さんの悲鳴が頭のなかで木霊する。何も出来そうもない今の状況に、焦りだけが澱のように積もる。何ができる?何をすべきか?そう、選択肢を増やさなければならない。

そういえば去年、旦那様の筆頭ボディーガードのケインの誘いで、休暇中にアメリカくんだりまで狩りに行った。その時、彼の退役軍人である叔父と現役軍人の彼の従兄とその同僚に色々仕込まれたのだ。帰国の際には、これでどんな危険にも立ち向かえるなと笑えないジョークを言われ、退役軍人のビルに至っては推薦状を書くとも言われたが、断固お断りした。入隊出来ないしするつもりもない。国籍は日本だ、ビル。

結局狩りに行ったのは1日だけで、残りの数日は色々な技を叩き込まれるという、休暇なのかそうでないのか判らない過ごし方をした。

なぜああなった。狩るつもりが狩られていたというとんでもない休暇だったな。

その時に仕込まれたものの一つに、縄脱けがある。幸い、この結ばれ方はそれほど複雑でもなさそうだ。

うまく外し、目隠しを取れれば。

その時、再び山華さんの悲鳴があがった。

くそっ。

無意識のうちに、縄を外し目隠しをずらしていた。

目に映ったのは遠くで髪を掴まれている彼女の姿だった。

それを見て沸々と怒りがわく。

考えろ、考えるんだ。幸いこちらを気にしている人物はいない。

辺りを見回すと山華さんの側に3人。

残りはどこだ?まさか3人だけってことはないだろう。

いた。

山華さんのいる位置からさらに離れた場所に、1・2・3人か。

6人同時に相手など出来ない。敵は武器も持っている。しかも人質もいる。

このままでは、身動きがとれない。

せめて、外部との連絡を取れれば…

犯人の1人が何かを怒鳴っていることに気付き、顔をあげると、いつの間にか山華さんは別の場所に移動させられ、姿がここからでは見えなくなっていた。

犯人が急に忙しい動きを見せた。

こちらに気づかれると不味い。目隠しと縄を元に戻し適当に偽装する。

「……の音だ?………、外をみ…こい」

そう言えば、微かだが断続的に破裂音が聞こえる。なんの音だ?

しばらくすると、慌ただしい扉の開閉音が聞こえた。

「おい!マズイぞ!裏の倉庫でどんぱちやってやがる!」

大きな音をたてて走り込んできた誘拐犯の1人が、大声で告げる。

「警察か!?」

「いや、ちげぇ!外国の野郎共だ!こっちは気付かれてねぇはずだ。何か判んねぇけど、警察来るのも時間の問題じゃねぇのか?はやいとこ、ずらかっちまったほうが…」

「ちっ、お前ら5分で準備しろ。ここを引き払う」

犯行リーダーが指示を出していく。

慌ただしく、移動準備が始まった。犯人の1人が自分を山華さんの所へと連れていく。その途中、目隠しが外れた。

目隠しを拾うのも惜しいのか、そのままだ。

殺されたり、しない、よな?

「ここでしばらく待ってろ」

一体何が起きているのか判らない。それは犯人も同じようだ。かなり慌てているらしい。

断続的に外から聞こえてきていた破裂音は急に止み、倉庫内は犯人たちがたてる音以外は静かだ。

「よし、お前は外で見張れ。それと今川も連れていけ。お前とお前は、このお嬢さん方を車へと運べ。ヨシは運転を頼む」

犯行グループのリーダーが次々と指示を出していく。自分も片腕を掴まれ外へと引っ張り出された。

その時、倉庫の裏手から何人かの人物が飛び出して来て自分とぶつかる。勢いで倒れそうになったところをその人物に支えられた。犯人は転けた。

礼を言うために顔をあげると、見知った顔だった。

去年ケインと狩りに行ったときに会った、軍人だった。

確か名前は、あ、そうそう。

「クライド」

そう、クライドだ。ケインの従兄の同僚。

なぜ、彼がここにいる?

「ん?俺を知っているのか?どこかで会ったっけ?」

どうやらまだ1年も経っていないのに、顔を忘れられたらしい。

こんな時になんだが、結構ショックだ。

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