7.
気絶する寸前にワンボックスカーに乗せられたのを覚えている。それにしても厄介な事に巻き込まれたものだ。まぁ、半分以上は自業自得なわけだが…
さて、現状を把握しないとな。といっても現在目隠しをされているので把握も何もあったものではないのだが。
今は後ろ手で縛られてもいる状態で床に転がされている。恐らくあの女性も同じだろう。隣に気配だけ感じる彼女は、まだ気絶でもしているのだろうか大人しくしている。
隣で転がっている彼女は、佳人の見合い相手だ。という事は、佳人に釣り合うだけの家格の出である。つまり犯人の目的がなんであれ、浚うだけの価値があるわけだ。犯人にとって。
彼女の御両親は佳人の家とのつながりを鑑みると、会社経営もしくは政治活動などに携わっているものと思われる。佳人の親は実業家だし。となると目的はいくつかあげられるが、どれだろう?
1.純粋に金目当て
2.政治的な取引材料もしくは経営に際しての何らかの取引材料として
3.個人的な恨み
4.その他
4はともかくとして、命の危険度順で言えば3.1.2.だが、はてさて。
流石に冷たい床で転がっているのもきつくなってきた。ゆっくりと身体を起こす。腕が自由にならない状態で身体を起こすというのは意外と腹筋がいる事に気付いた。経験してみないと解らないものだな。身体鍛えようかな?
暫くがさがさしていると、彼女が身動ぎしたのが気配で判った。起こしてしまったようだ。
「ここは…」
「ああ、目覚められた様ですね。私は右山篁と申します。あの店を出た時に、貴女が襲われている現場を目撃してしまいまして。ともに浚われてしまったようです」
声の方向に向かって、安心させるように言う。パニックが一番良くない。
「そう、そうなの…巻き込んでしまったようでごめんなさい。いったいここはどこなのでしょう…」
「さあ…私は目隠しをされてすぐに気絶しましたから、場所まではさすがに」
「そうよね、馬鹿な質問をしましたわ」
こういう返答が来ると言う事は、彼女も自分と同じような状況なのだろう。つまり目隠し。
「いえ、御気にな」
皆まで言う前に、扉の開閉音が聞こえた。誰かが入ってきたようだ。足音は1つ。
「よし、目が覚めているようだな」
男の声に驚いたのか、隣の彼女の体が一瞬跳ねたことが音で判った。
「ほう、いい眺めだ」
彼女の方を見たのだろう。
嫌な物言いだ。下種め。
なるべく彼女を庇うような位置に移動したいが、手を縛られているうえ目隠しされているのでままならない。出来る事と言えばじりじりと彼女に近づくだけだが、庇護えているとは思えないな。
「さて、余計なのもくっついてきたが、まぁいい。山華のお嬢さん、覚悟はいいかな?」
男の声に再びびくりとなる彼女、山華さん。目隠しされて誘拐犯にこのような事を言われて怖いわけがない。というのに、泣き声さえ上げないとは気丈な人なのだろう。
「なに、お嬢さんの父君が素直に俺たちの言う事を聞いてくれさえすれば、無事に帰すと約束するよ」
男が言葉を発すると同時に何人かがこの部屋に入ってきた。
「準備が整いました」
「連れて行け」
言葉少なに男が命令する。どうやら上の方の人物のようだ。
無理やり立たされ、別の場所へと移動する。目隠し状態なので正直歩きにくい。車に乗せられた時に靴が脱げたのだろうか、現在裸足でさらに歩きにくい。鋭利な物が落ちていない事をひたすら願った。
「この女どうします?」
「ああ、そこだ、お前はあの場所に座らせろ。それから、つう…」
男が指示をだす。どうやら、山華さんとは離れた場所に座らされるようだ。
男たちの声が次第に遠くなる。
「…が目的…ので…か…」
山華さんの声もとぎれとぎれにしか聞こえない。これはかなり離された。目隠しというのはこうも不安になるものか。彼女が何もされないか心配になってきた。
5分経ったのか30分経ったのか感覚がマヒしてきた頃、向こうの方で動きがあった。
山華さんの悲鳴だった。