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12.

あの後警察の事情聴取があり、すべて終わったのが21時を回った頃だった。

取調室から出て暗い廊下を進むと、備え付けの長椅子に座っている空也の姿があった。他のメンバーは見当たらない。

「終わったのか?」

「あぁ。もしかして空也待っててくれたのか?」

空也が1つ頷く。

「兼尊と響司は仕事だ。佳人はフォローに回っている」

「そうか。世話をかけたな。ありがとう」

「いや、気にするな。足が必要だろ?それから佳人からこれを預かってきている」

空也から大きな紙袋を受け取った。中身を確認すると、今日着ていた服と荷物、いつも着ているのとは違う執事服。

これは…まぁいい、次だ次。

服の他には見慣れない小さな袋が入っていた。中身は、拭き取るメイク落としとメンズ用の洗顔・化粧水・乳液それからタオルが入っている。

メイク落としは正直助かる。着替えても化粧したままとか考えたくないからな。それにしても化粧水などは必要ないと思う。今まで使ったことないし。だけど、これは佳人らしい心遣いなんだろう。ありがたく受け取っておく。使い方はさっぱり判らないが…まあ適当に乳液とか化粧水とか塗っておけばいいんだろうな。

「中身は服とかだった。早速、着替えてくるよ」

「……着替えるのか?」

?何だ?その間は。

「……着替えるだろ?普通」

「………………」

おい、なぜ黙る。あまり話さないやつだけど、今の間は不自然だろ。

「そうか」

「あ、ああ」

ちょうどその時、角を曲がってきた先程まで顔を突き合わせていた刑事さんたちと目があった。

「あの、すみません。トイレ貸していただけますか?」

「トイレ?解った。こっちだ」

若い方の刑事さんがどうやら案内してくれるようだ。仕事できます的な雰囲気で少し近寄り難いが、意外と親切なようだ。

「ここだ。今は節電で電気を落としている。恐らく入口付近にスイッチがあると思うんだが。終わったらまた消しておいてくれ。今日は大変だったな。それから長い間拘束してすまなかった。家に帰ってゆっくり休むといい」

本当にいい人のようだ。雰囲気で損するタイプか。いや、結構そのギャップが女子に人気があったりするのか?けっ。

「あ、はい。ありがとうございます。お世話になりました」

「おいおい、待て待て、そっちじゃないだろう?」

刑事さんに礼を言いトイレに入ろうとしたら、呼び止められた。

何が?ああ、違う方に入ろうとしてたのか。

確認をする。

「え?あってますよね?」

「え?」

「え?」

「…………え?」

「…………ん?あれ?身分証提示しましたよね?」

自分の荷物から免許証を取り出した。

「あー」

性別表記がされていないことに気づいた。

「ん?」

この刑事さんはきっと資料の性別欄を見落としたに違いない。

「すみません。俺は男です」

あえて一人称を俺にして伝えてみた。凄く気まずい。

「は?え?嘘だろ?女じゃないのか?」

物凄く複雑そうな顔をされた。

なぜ彼に本当のことを教えてやらなかったんだ。同僚の刑事さん。もしかしてあの人も気付いてなかったのかな?紛らわしい格好をしていてすみません。

着替えのために、機能停止中の刑事さんをおいてさっさと中に入った。

誰か嘘だと言ってくれ。という刑事さんの声が廊下から聞こえてきたような気がしたが、その後なんと言ったのか洗顔のための流水音でよく解らなかった。

佳人のくれた乳液をつけてみる。見た目に反して意外とさっぱりしていた。その後に化粧水を塗ったら酷い目に遭った。裏をよく見ると、使い方が細かい字で載っていた。化粧水の方が先だったらしい…

取説は不味くて食えないものと思っています。テレビは叩いて壊す派です。反省はしていませんが後悔はしています。

着替えて外に出ると、空也が待っていた。その表情がどことなく先程の刑事がしていた顔と似ている気がする。深く考えないことにした。

「車を回すから正面の入口で暫く待っていてくれ」

それだけ言うと、空也は走り去っていった。

そんなに急がなくても。

正面入口で待っていると、程なくして空也が車を横付けして来た。

あ、レクサスだ。国産をみるとほっとする。

「車を買ったんだな」

ドアを開けて乗り込む。

「いや、これは泰彦様から借り受けてきた。友達の緊急ならということで快く鍵を渡してくださったのだ」

そうか、増戸様が。増戸様は空也と年齢が一緒だし、こいつを気にかけてくれているのかもしれない。どうやら空也にとっていい主人のようだ。

「そうか。増戸様にご迷惑をかけてしまったな。いずれ挨拶に伺うと伝えてくれ。それから空也も今日はありがとう」

判りづらいが空也がいつもより話すときは、なにか不安なことがあったときだ。今日はよく話す。心配をかけたようだ。他のメンバーにも改めて礼を言おう。

「気にするな。当然のことだ。後、泰彦様には伝えておく。行き先は栢原様の邸でいいか?」

「あ、いや。銀座で下ろしてほしいんだ」

空也が怪訝な顔をする。

「自分の車が銀座にあるんだ。佳人の用事で出てきてたんだけど帰りに誘拐されてしまって」

あははと笑って運転席の空也を見ると、不穏な空気が。

怖い。こいつの不機嫌は人を殺せる。目、目がヤバイ。

さすが空手柔術合気道経験者。噂ではシステマも会得済みだとか。何者だよ、空也。どこを目指している。

「く、空也?何か怒ってるのか?」

恐る恐る尋ねると、空也がこちらを見たまま固まった。

「まままま前前前!」

アブねえ。アブねえぞ、空也。殺す気か。

「すまない」

それから暫く空也は黙ってしまった。

「空也もしかして、女装姿に惚れた?」

変な空気を払拭したくて言ってみたら、車が変な動きをして路肩に急停車した。

余計変な空気になった。反省もしたし後悔もした。

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