スキマ時間とポータブル
■スキマ時間とポータブル
一日が24時間しかないとなると、どうしたら良いだろう?
ゲームをするための1時間とか、2時間のまとまった時間を取るのは大変だ。
宿題もしなくちゃならないし、ご飯も食べなきゃならない。お風呂だって入らなくちゃ……でしょ?
とにかくゲームは、時間を食う。特にRPGの場合、バックアップポイントでの復活、また、スペアの上書きと、とにかく手続きが多く、そのために勿体ない、折角用意した時間が目減りする。
「ゲームばっかりやって……」
と、親に叱られるのはそんな時である。言い訳のしようもない。
なにしろ、ゲームをやってる時は、ゲーム機の前、つまりモニターの前に、座らざるを得ないのだから。逆に、ゲーム機の前に座っていれば即、ゲームをやっている……ということになる。逃げも隠れも出来ない。つまりこれは「逆アリバイ」である。
本ならば、電車の中で読んだり、音楽だったら、ウォークマンで、歩きながら聴くといった具合に逃げられる。
つまり、細切れの時間を足していく事が出来るのと、それだけではない、実は隠蔽、つまり親のチェックから逃れられるのだ。本やウォークマンを、カバンに入れて家から持ち出して、どっか他所でやれば、いくら本ばかり読んでいようと音楽ばかり聞いていても親は全く分からない。
知ってか知らずか、その二つのメリット、すなわち、細切れ時間の活用と、親の目を盗むこと……、をゲームの世界に持ち込んだ画期的なハードが「ゲームボーイ」だったのだ。
「ポータブルゥ?」
初めて任天堂さんから話を聞いたとき、我々、流通は、一様に首をかしげたものだった。
なんで今更、8bit機? 白黒2.5インチモニタなんだ? すでに現行ファミコンの次世代機、16bitのスーパーファミコンのスペックも発表されたと言うのに……。何、寄り道してんですか? それに、ホントにこんなものが売れるんですかね?
我々の困惑を他所に、えらく地味に世の中に登場してきた「ゲームボーイ」だった。
最初はそんなに売れなかった。ゲーム市場の常として、発売前後は商品が間に合わず、「渇望市場」と我々が勝手に呼んでいる、需要に供給が追い付かないという状況が頻発するのだが、これは丁度良いくらいであってそれ以上でもそれ以下でもなかった。それよりもその1年半後に発売されたスーパーファミコンの方がバカ売れしてしまって、そっちの方の供給不足に悩まされ、だから、ゲームボーイのタマ不足は本当に気にならなかった。
発売日から一年も経とうかどうかという時、それはやって来た。対戦ケーブルという周辺アクセサリーの店在庫の不足という現象と共に……。
主たるユーザーはファミコンよりも少し年齢が低い層、そう、主に小学生によって、構成されていた。
子供達は、放課後、教室やグランドの隅でカバンの中からゲームボーイを取り出して、友達と対戦モードでゲームを楽しんだ。そうそう、忘れてはいけない、親の目をぬすんで……だ。
こうして、カバンの中からゲームボーイを取り出せば
いつでも、どこでも、誰とでも、
ゲームが出来る!
というわけである。
準備作業もなしに、ホントに一発でゲームの世界に入っていける。
「お手軽に」
「ハンドヘルド」という言葉を使い始めたのは、確か任天堂さんだった。
そして、この「ハンドヘルド」はゲーマー達に残された最後の細切れの時間さえも綺麗にこそぎ取って持って行ってしまうことになった。
「いつでもどこでもゲームボーイ」
確か、100万台突破という声を聞いたのはその頃だったか。
どのくらい普及していたかというと、山手線の電車のハコ、その中に何人ゲームボーイをやってる子がいるか?というクイズが成り立つくらい普及していた。実際「ぷよぷよ」のメーカーがソフトの宣伝イベントとしてアルバイトを動員して山手線の一つの車両を占拠して、全員で熱心に「ぷよぷよ」をやっているという絵を撮ってCMに流そうと企画したとかしなかったとか。
冗談はさておき、その普及の程度は、少し後のケータイほどではないけれど、近いものがありました。
そして、今のスマホ。
「ながらスマホ」という言葉が示す通り、いつでもどこでもゲームボーイどころか、もはや、片時もスマホが手放せないという状況。
全部が全部ゲームだとは思いませんが、ラインやツイッターやFacebookもあるだろうけど、とにかく細切れの時間でも用が足せると言うことと、すぐ手元にあるということ(ハンドヘルド)は、二十四時間かっきりと自分の時間を貢いでいるということに他なりませんわぁ。そういう装置になっている。この吸引性の高いソフトとすぐ手に取れるハードの組み合わせは。
それを何と呼ぶか?……→ そう、「ウェアラブル」ですね。
次回はウェアラブルについて少し、お話しします。