表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2 deep 4 me  作者: せっぱそもさん
1/4

プロローグ・夢蓑虫

「在校生代表、祝辞」


昇る朝日が辺りを照らす春の早朝、私立素敵学園高等部、入学式!


「はい!」


雄々しい返事と共に朝礼台に向かう青年の顔は凛々しく、そしてそれ以上に、何やら異常なほど険しかった。

年は17、性別男、高校二年生、名は鬼道小唄きどうこーた


学業優秀、品行方正、その上眉目秀麗。完璧の皮を被った完全と言われ、覇道ならぬ道を知らぬ彼の人生は、この学園においてもなお並々ならぬ輝きを発していた。

能力・・は学園トップ。二年でありながら壇上に上がる彼を、一体誰が非難できようか。


いっそう大きな風が吹く。砂埃がグラウンドを舞い、在校生、新入生、教師達の視界を数瞬遮る。


彼らが次に目を開けたとき、朝礼台には既に後光煌めく小唄の姿があった。


───現在素敵学園には体育館が無い。

卒業生不知火海宰(しらぬいおさむ)の能力『惑星ノック』の名残りで、建てる度に小型隕石が体育館を直撃し粉々に破壊するからである。


青空の下、入学式は粛々と進む。


「新入生代表、宣誓」


だがそれもここまでの話!


夢蓑虫ドリミノ


壇上に上がった人物が呟いた。これから始まる物語の序章を告げる、怨嗟の言霊を。


──────空が瞬く。


煌々と輝くそれを、一体何人の生徒が目撃したのだろう。


流星群が超音速で地上に降り注ぐ間際、小唄は、グラウンドに建つ幾つもの体育館を見た。








「ーーーじゃあ転校生くん、自己紹介してくれるかなっ」


私立素敵学園高等部2年10組の黒板に、黒陶育代こくとう いくよは一筆書きで名前をしたためながら、横に並び立つ男にそう促した。


「はい! 埼玉県立魅惑高校から来ました、梶仁右衛門かじ じんえもんです。みんな仲良くして下さい!」


背筋をぴしっと伸ばしながら梶がお辞儀するやいなや、クラスのうら若き男子女子その他が沸き上がった。


「梶くーん!」「カジもんよろしく!」「の字ぃー」「よっ、にえち!」「その他ってなんだー!」「あたしの事よッ!」「こら鎌ちゃん怒鳴らないのーっ!」「先生! 先生は女子に入らないと思うので沸かないで下さーい!」「ぶぶー。委員長ちゃん、先生もその他の枠に入ってるのでセーフなんですーっ!」


梶は和気藹々(あいあい)としたクラスに早くもとけ込んでいたが、それは何もこのクラスが特別な訳では無く、実は彼、ここにいる大半とは既に知り合いなのである。


一番前の席に座っている少女が、堪えきれないように笑った。嬉しそうにたれ目が細まる。


「ほんと梶ちんお久しぶりだよー」


「あ、良乃よしの。久しブリーフ」


「うわつまんな」「帰れよ」「これには幼馴染も落胆の色を隠せない様子」「ぶーぶー」


温度差の激しいクラスメイトである。担任の育代のブーイングが妙に可愛いらしかった。


「つーか、マジで久しぶりだよなーカジもん、小坊んとき以来だぜ」


「トレードマークの髪型は変わってないな、マル」


次に話し掛けたのはクラスの不良担当、横島邪丸よこじま よこしまるだ。彼はさも自慢げに自身のオールバックの黒髪を撫でる。


小学生のとき母親にジェルワックスを取り上げられた際、墨汁で髪を固めるという執念を見せて以来、彼の髪型を変える者はいなくなったという武勇伝を持っている。


「はーい、転校生くんの席は一番前の真ん中、先生が一番見える席ですねーっ」


「…………」


「はーい、微妙な顔しましたね今、見逃しませんよーっ。十組のみんなと似たようなノリですねーいいですよーっ。先生とも徐々に仲良くなりましょうねーっ」


お砂糖、スパイス、素敵なものいっぱい、全部を混ぜたような声で育代が梶に着席を促す。


真っ直ぐ伸びた梶の背中にクラスの視線が刺さる。隙あらば絡みにいく、猛虎の姿勢が彼らからは伺えた。


横に座る幼馴染の椿良乃つばき よしのを見ると、彼女もまた梶を見ていて、そして微笑んだ。


春の風が暖かい、微睡まどろみの午前中。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ