第四話
話が進みません。
早く冒険させたいのに……。
「改めまして、先程は助けていただき、ありがとうございました。私はハジアの町で薬師見習いをしている、ノーマといいます」
ケットシーから大分離れたところで、少女ノーマが先導しつつ、話しかけてきた。
「どういたしまして。俺はススム。冒険者見習いってところかな? 今冒険者になるために町を目指していたんだが、森で迷ってしまってね。どうしようかと思っていたときに、ノーマさんに出くわしたってわけさ」
嘘は言ってない。まあ無難なところだろう。出身とかは適当でいいや。なんか脳内設定作っとこう。
「ノーマでいいですよ。にしてもススムさん、強いんですねえ。見た目頼りないし、装備もボロボロなんで最初見たときは不安だったんですけど、そこらの冒険者よりずっと強くて驚きました」
たよッ……うんまあ確かに肉付きはあまり良くない。山籠りの後だから、少々栄養不足気味だろう。
服も、装備というにはおこがましい、布製品と革靴だけだ。それは仕方ない。
でもちゃんと筋肉あるんだよ! 引き締まってるけど、わりといい身体してるんだよ!? 筋トレとか大好物だからね!!
ていうかこの子礼儀正しいが、何気に失礼だな!!
俺は笑顔が引きつるのを感じつつ、とりあえず話を続けた。
「了解……。ノーマ、だね。俺もススムでいいよ。いやー、にしてもでかい猫……ケットシーだったな。この辺ではあんなのがよくでるのか?」
この世界では、通常、野獣は魔力を貯めこむほど大きくなる。そしてある点を境に、魔法を操る魔獣となるのだ。
つまり、あのケットシーはかなりの魔力を貯めこんでいることとなる。魔力は他の生物の魔力を摂り込むことで増えるので、もしあのサイズの野獣が多くいるのだとすると、この辺りはいつ魔獣に出くわしてもおかしくない、超危険地帯ということになる。もう一度言う。超危険地帯である!!
魔獣は魔法を使う分、ただ大きいだけの野獣と比べ物にならないほど厄介だ。
見た目も、元の生物から大きく変化するので、見たらほとんどもやつが、魔獣だと一発で分かる。
「そんなことは無いはずなんですが……。もしそうなら、単なる薬師見習いの私が、来たりはしませんよ。普段は、森の深いところまでいかないと、野獣や、まして魔獣何かとは出くわさないはずなんですが……」
「んー、そもそもなんで薬師見習いのノーマが、一人で野獣に襲われていたか教えてくれないか? いくら安全な森でも、女の子一人で入るには危険すぎるだろうに」
「はい。今日私は、森の入口に群生している、「カン草」って薬草を採集しに来たんです。もっと森深くまで入るときは、護衛を依頼したりするんですが、今回は一人できてしまいまして」
「そして、あいつに出くわしたと」
「はい。採集を終え、帰ろうと思ったとたん、目の前に現れまして……、思わず悲鳴を上げて森の中へ走り出してしまったんです。後はススムさんのご存じの通り、追いつかれてススムさんに助けていただきました。あの、本当にありがとうございました」
「もうお礼はいいって。それと、さんはいらないよ」
十分楽しめたし。
熊より弱いなんてとんでもなかった。あの素早い一撃。なかなかいいものをお持ちで。
あー、あの紙一重の命のやり取り。
……ジュルリ。
おっと、ノーマが少し俺との距離を広げた。
いかんいかん。
鎮まれ俺。
「でも……、親しくもない怪しい男性を呼び捨てなんて、失礼なことできませんよ」
いえ、まあ、確かに親しくはありませんが?
初対面ですが!!
見た目怪しいですが!!!
てか本当に感謝してんのか!!??
俺は自分がさっき、どんな顔をしていたかなど綺麗に棚上げして心でつっこんだ。
「そう……か。まあ確かに怪しさ抜群ですよね……、俺」
「へ? あ。いえいえいえい、別にススムさんが怪しいってわけじゃなくてですね! いや怪しいわ怪しいんですけど、悪い風に怪しんでるわけではなくてですね! そう、良い風にです! 良い風にススムさんは怪しいんです」
「そうか……やっぱり怪しいのか……」
俺が落ち込んでいると、ノーマも自分の発言に気付いたのか慌ててフォローを入れようとする。
そしてそのフォローでまた俺が落ち込むという悪循環が、しばらく続いた。
読んでいただき、ありがとうございます。